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下忍が異世界で初めて受けた試験

 「ゴン、それじゃ始めるぜ」


フィラは、そう勢いよく宣言すると権蔵と向き合った。

前傾姿勢で右手を大きく前に突き出して左手は胸元近く置いてある。


(構えが大き過ぎるな。あれじゃ動作が丸分かりじゃねえか)


一方の権蔵は全く構えをとらずに、半身となり両手はだらりと下げている。

一見すると、やる気がない構えであるが、これが権蔵の構えであった。


「ゴン、女だからって馬鹿にしてんのか?ちゃんと構えろ!!」


「実戦じゃ構えるまで待ってくれませんよ」


そして権蔵にしてみれば、これは修練なのである。


「それなら嫌でも構えさせてやるよっ」


(脱力を知らないのか?あんなゴツい鎧や魔術なんてのがあるから、無手の術はあまり発展していねえのかもな)


フィラは権蔵に素早く近づくと、上体を大きく反らしながら殴りつけてきた。

一方の権蔵は上体を軽く反らしてそれを避ける。


「へー、うまく避けたじゃねえか。面白れぇ!!」


(威力も素早さもあるな。くらったら厄介かもな)


フィラは息をつく暇もなく拳を繰り出してくる。

権蔵はギリギリでそれを交わしている為に、端から見れば防戦一方である。


「ゴン、どうした?俺の攻撃に手も足もでないってか?」


権蔵が待っているのは反撃の機会ではなく、新しい雇い主であるメイ王女であった。


「あら?フィラが苦戦するなんて珍しいわね」


「王女様?見ていて下さい。今決めます!!ゴンくらえっ」


メイ王女の声に反応したフィラが豪快に上段蹴りを放った。

フィラが着ているのは侍女服、早い話がメイド服である。

当然、その格好で蹴りを放てば足の付け根と白い布が見えてしまう。

しかし、権蔵はそんな事は意にも介せずフィラの蹴り足を掴むと同時に軸足を刈った。


「えっ?うわっ!!」


蹴りが決まると信じ切っていたフィラは背中から地面に叩きつけられて、青空を拝むはめになってしまった。

権蔵はすかさずフィラの腕の関節を極めて抑え込む。


「痛って!!ゴン放せって。まいった俺の負けだ」

「王女様、試験は合格で宜しいでしょうか?」


「あら?何の事かしら?私は試験だなんて一言も言ってないわよ。…でもゴンゾーの戦い方には興味があるわ」


メイは権蔵の問いかけに眉一つ動かさずに答える。


(ぬかせ。神殿内で侍女が勝手に手合わせをする訳がないだろが。…まあ、これぐらいの腹芸ができなきゃ権力争いに負けちまうか)


「答えてもよろしいですが、ここには人目につきます」


ここにはミナもいるし、いつ違う神官が来るか分からない。


「それもそうね。それじゃ馬車に戻りましょう」



―――――――――


来た時と同じ席順で馬車に座る。

もっともフィラだけは権蔵に手も足もでなかったのが悔しいのか不機嫌そうに黙りこくっている。


「それで何をお聞きになりたいのでしょうか?」


「マティ、貴女は最初から見ていたでしょう。何か疑問に思った事がある?」


「まずゴンゾウ様にお聞きしたいのは、何故構えをとらなかったのですか?」


「あれは脱力と言いまして、わざと体の力を抜いて、次の動作に移りやすくしたんですよ。それに構えは次の動作を限定してしまいすからね」


「理屈は分かりますが、普通はどこかに力が入ると思うんですけどね。次に正面を向かずに体を横に向けたのは何故です?」


「あれは半身と言いまして攻撃される箇所を限定させる為ですよ。もっとも1対1じゃなきゃ使いにくい構えなんですけどね」


(しっかし良く見てるな。あまり技を使わないで正解だったな)


「ゴンゾー、私からも良いかしら?フィラの下着が見えたのにまるで動揺しなかったわね。女が苦手って言ったのは嘘かしら?それともフィラみたいな男女には興味がないのかしら?」


メイは妖艶とも言える笑みを浮かべて権蔵に問いかける。


「なに!!ゴン見たのか?このスケベッ」


フィラが日焼けした顔を赤く染めてにらんできた。


「どちらも違います。一々女の色香に惑わされていたら商売あがったりですから。フィラ、見せたくないんなら服を変えろ」


権蔵は女には縁はないが、敵のクノイチに誘惑をされた事は一度や二度ではなかった。

初対面で好意を寄せてくる女は信用しない、それが権蔵の鉄則の一つである。


「最後にもう1つゴンゾーは戦闘以外に何が出来るのかしら?貴男は何者なの?」


(寄らば大樹の陰。これだけ頭が働く王女なら仕えても損はないか。それにこの手の権力者には隠し事は疑われるだけだしな)


「俺は忍びなんですよ。忍びが出来るのは剣術、槍術、無手術、手裏剣術、暗殺、潜入、火薬、流言、毒学、医術、遊芸、窃盗、色事等です」


ただ、色事は出来るが活かす場面がなかったので実力に不安がある。

女やクノイチを堕とすのは下忍でも顔の良い者が選ばれていた。


「シノビね、初めて聞くわ。ゴンゾーは一流のシノビなのかしら?」


(普通なら警戒するんだがな。この王女様は面白れ)


「俺が生き延びている。それが答えです」


権蔵は不適とも言える笑みを浮かべる。


「分かったわ、ゴンゾー私に仕えなさい。普段は冒険者をしながら情報を集めたり周りと繋がりを作りなさい。何かあったらフィラに連絡をさせるから、私の所に来なさい」


「仰せのままに」


メイの威厳のある言葉に権蔵は頭下げる。


「よっし!!ゴンこれで俺とお前は仲間だ」


フィラは満面の笑みを浮かべながら権蔵に抱きついてくる。


「フ、フィラよせ!!当たってるって」


「あっれー?色香には惑わされないんだろ?それでゴン何が当たってるんだ?」

権蔵の反応が面白いのかフィラはさらに体を密着させてくる。


「そ、そんなの当ててる本人が一番分かるだろうが。惑わされなくても苦手なんだよっ。照れ臭いんだよっ」


「あら?いいコンビね。ゴンゾー、早速仕事よ。うちのポリスにいる馬鹿貴族を調べなさい」


これが権蔵の異世界での最初の忍び仕事であった。



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