表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第13話:真相

これは新宿歌舞伎町で、好きでもないオトコたちに身体を売る、交縁少女たちのリアルな物語…

 NPO法人『マザーポート』適応支援ハウスにある、広めのフローリング部屋で、白いダイニングテーブルに座る莉央と愛莉、そして対面へ座る五十嵐。

 時刻は午後5時まで、あと10分ほど…


 「ここでは、立ち直らせたい男の子や女の子のカウンセリングをしたり、社会の適応支援もしたりしているんだ」

 組んだ両手をテーブルの上へ置いて、五十嵐が説明している。

 「岡崎和真くんも、ここで支援を受けた」

 それを聞いた途端、二人の顔色がサッと変わった。

 「――…、それって――」

 「そう…。あの岡崎くんだ」

 愛莉が思わず顔を、隣で座る莉央の方へ向けた。


 「――…そんなんじゃない」

 動揺を隠すように、五十嵐をキッとにらみつけている莉央。

 「そうだな。君たちが知りたいのは、そういうことじゃないよな…」

 平然としたままの五十嵐が、腰を浮かせて座る姿勢を直している。

 「オレが知る限りの事は話すけど、聞くに堪えない事もあるが――」

 「構わない…」

 顔を強張らせ、五十嵐を睨みつける莉央が告げた。


 「犯人の顔は、見た?」

 「見てない…」

 五十嵐が椅子から立ち上がり、部屋の端にある棚から新聞を一部取ってきて、バサッとテーブルへ置いた。

 「?!――こいつ…」

 二人がハモって驚いたのは、新聞の一面で載る顔写真の男に、見覚えがあるからだ。

 以前に、二人がホストクラブ『得夢』へ行く途中、すれ違った葉月と腕を組んでいた小太りの中年男…


 「あくまで俺が知ってるのは、また聞きでしかないんだが…」


 ★

 ★


 110番通報した男性が、葉月と新宿エグゼクティブホテル27階にある部屋へ入ろうとしていた所を、犯人は襲撃した。

 包丁で脅した犯人は、男性から引き()がした葉月と部屋へ入り、中から鍵をかけてしまう。

 通報した中年男性は、葉月とデート中だったとのことだが…

 どう考えても、パパ活の最中だったのだろう。


 当事者が二人とも死んでいるので推測だが、葉月は殺害される前後に姦淫されていたらしい。

 遺体を司法解剖した結果、体内から犯人の精液が検出された。その結果から、導かれた推測だ。

 そして葉月は、包丁で胸をひと突きされて絶命…――


 「――…大丈夫か?」

 顔が青ざめている莉央と愛莉を見て、五十嵐がいきさつを話すのを中断する。

 「――ゴメン…、あたし、無理…」

 ハンカチを口元へ当てて、ゼエゼエしている愛莉。

 「――…それで?」

 動揺しながらも、気丈に振る舞っている莉央。

 「柴田さんの胸を刺した犯人は、部屋の窓ガラスを脱出用ハンマーで割り、27階から素っ裸のままで飛び降りて――


 ――ウッぷ!…


 口元を押さえて立ち上がった愛莉が、顔を引きつらせてドタドタと、小走りで部屋から出て行った。

 「犯人の身体は地面へ激突、もちろん即死だったそうだ」

 ひとり取り残された莉央は、呆然自失している…


 「――…いいか?君たちは、これだけ危険な火遊びをしているんだ」

 五十嵐が机に載せて組んだ両手へ、力を込めてさとし始める。

 「相手にしている男たちは、君たちを自我のある人間とは見ていない。単なる性欲の捌け口としか、見ていないんだ!」

 疲れ果てたかのような表情の莉央が、弱々しい視線を五十嵐へ向けている。

 「君たちを、人間扱いしない連中を相手にするんだぞ?危険過ぎると思わないのかっ?!」

 真っすぐに莉央を見て、強い口調で言い放つ五十嵐。

 「女の子を人間扱いしない奴に、まともな奴がいる訳ないじゃないか!」

 「………」

 「そんな連中が、何をやらかすか分かったもんじゃない事が、今回の件でよく分かっただろう?」

 紅潮した顔で、熱弁を続ける五十嵐。

 「女の子に話せるようなことじゃないけど、あえて俺は――」

 「五十嵐さんは…」

 莉央が弱々しい声で、話をさえぎった。

 「犯人が…、どうして葉月を、殺したと思う?」

 机へ載せていた両腕を胸の前で組んで、五十嵐が逡巡しゅんじゅんしている…


 「多分、ヤツの思考は…」

 あごを引いたまま、上目遣いで五十嵐を見ている莉央。

 「こいつは、俺のオンナだ。俺のオンナに、手を出すな…」

 「………」

 「お前は、俺のオンナだ。俺以外の男と寝るな、って…」

 「そんなの――」

 「そう…。身勝手な独占欲だな」

 眼を大きく見開いて紅潮した莉央の口元が、ワナワナ震えている。

 「だから他の男に寝取られるぐらいなら、いっそ殺してやろうと――」

 「は、葉月が誰とパパ活しようと、そんなの自由じゃんか!」

 「そもそも、パパ活したら駄目だけどな」

 ニヤリと笑った五十嵐に、莉央は一瞬ひるんだが、負けじとまくし立て続ける。

 「その"おぢ"のクソ野郎に、葉月をしばる権利なんてねぇじゃんか!」

 「それは、そうだな」

 「――そんなんで葉月は…、そんなんで、葉月はぁ…」

 「そう。殺されたんだ」

 五十嵐を直視している莉央の眼から、涙が一筋ツーッと流れ落ちた。

 腕組みをしている五十嵐は、柔和にゅうわな表情でいて、優しげな眼で莉央を見つめている…




 「こんばんわ~!」

 玄関の方から引き戸が開く音がして、少年らしい声がした。

 パタパタと廊下をスリッパで歩く音が、部屋の入口で止まった。


 莉央が涙で濡れた顔を、ゆっくりと音が止まった方へ向けた。

 右手でぬぐった眼をパチパチさせて、部屋の入口を凝視している莉央…

 そこには以前、莉央をレイプしかけた和真少年が立っているではないか。

 視線を合わせた莉央と和真は、その場で凍りついてしまう。

 一切の音が消滅した静寂が、フローリングの部屋へ充満してしまった…


 ハッとした和真が、きびすを返して玄関へと向かおうとする。

 次の瞬間、レイプされた記憶のフラッシュバックが、莉央を襲った――


 ★


 ブラウスがはだけて、ブラジャーが外され…

 スカートは履いているが、下着が脱がされていて股間がスース―する。

 何者かに身体を、しきりに触られている感覚がある。意識が朦朧もうろうとしていて、(あらが)おうにも身体が思うように動かない…


 ――お酒って、こんなになるんだ…


 初めてアルコールを飲まされたことを、後悔しているが手遅れだ。

 焦点が定まってきて、誰かが自分の上へ乗ろうとしているのが分かった。

 ――これは…、カズマ?

 口は動くが、声が出ない。

 ――やめて…

 下半身が和真の手でまさぐられている、気持ち悪い感触が続く。

 ――いやだぁぁ…

 次の瞬間、何かが強引に莉央の体内へ、侵入しようと試みてきた。


 「――ヒイイィ~ッ?!」


 激痛を覚えた莉央が、大声を発して全身で抵抗する。

 和真がハアハアする荒い息づかいが、鮮明に聞こえる。

 必死で抵抗する莉央だが、力で勝る和真から強引に押さえつけられていて、()す術が全くない…


 ――いたぁいぃー!…、やめてえぇぇッ~!…




 「逃げるのかっ?!岡崎くん!」


 五十嵐の大声でハッとした莉央が、フラッシュバックから引き戻された。

 五十嵐が立ち上がり、背中を向けている和真を呼び止めている。

 「木村さんに謝りたいって言ってたのは、ウソなのか?!」

 立ち尽くしている和真の背中が、小刻みに震えている…


 「――あんた…」


 トイレから戻ってきた愛莉が眼を丸くして、和真から少し離れた所で立ちすくんでいる。

 やがて、ひとしきり吐いて蒼白だった愛莉の顔が、みるみる紅潮していった。

 「…このっ――」

 血相を変えた愛莉が、和真へつかみかかろうと近寄った。

 ハッとした五十嵐が、慌てて部屋の入口へと走る。

 「――ちょっ、ちょっと待てって!」

 愛莉を背後から羽交い締めにし、ミディアムレングスの髪を振り乱して、五十嵐が懸命に食い止めている。

 ジタバタもがく愛莉が、鬼の形相で和真を睨みつけている。


 そのかたわらで和真は、うつむいていた顔を上げ、口をキッと一文字に結び、コクッとうなづいた。

 そして素早く両手を床へついて、莉央の方を向きフローリングへ座り込んだ。

 「――ずっと、謝りたかったんだ…」

 和真はゴンッと音を立て、フローリングへひたいを押し当て土下座した。


 「ホッ――、ホントにっ!…――申しわけっ、…ありませんでしたっっ!!」


 眼を丸くした愛莉を放した五十嵐が、和真の(かたわ)らでしゃがみ込んだ。

 そして右手を、和真の背中へポンと置き、唖然として立つ愛莉へ促した。

 「――まぁ…、座れよ」


 ★

 ★


 「――でっ、デタラメ言ってんじゃねえよッ!!」

 激昂げきこうした愛莉が、座っていた椅子を後ろへ倒して、勢いよく立ち上がった。

 「本当だ」

 対面で座っている五十嵐が、腕組みをして毅然きぜんとしたまま、愛莉と対峙(たいじ)している。

 張り詰めた空気がピリピリと、四人がいる広めのフローリング部屋に漂っている…


 「芹澤が岡崎くんに、木村さんをレイプするよう仕組んだんだ」


 愛莉が顔を紅潮させて、口元をワナワナ震わせている。

 愛莉の隣では、鳩が豆鉄砲をくらったように呆然としている莉央が座っている。

 五十嵐の隣では、自分が怒鳴られたワケではないのに、和真が縮こまって座っている…


 「…信じられないのか?」

 「あっ、当ったり前でしょっ!それじゃあ、莉央が――」

 「田澤愛莉17歳、6月14日生まれ、日野市立高幡中学校卒業。中学1年生の時にトー横デビュー…」

 五十嵐から早口で言い放たれているうちに、愛莉の顔の紅潮が、みるみる引いていってしまう…


 「トー横へ行ったきっかけは、父親から――」

 「やめてっ!」

 莉央が大声で叫び、五十嵐を睨みつけた。

 五十嵐は、何が?という表情で平然としたまま。


 顔面蒼白になった愛莉が、倒した椅子を引き起こし、スゴスゴと座り込んでいた…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ