第13話:真相
これは新宿歌舞伎町で、好きでもないオトコたちに身体を売る、交縁少女たちのリアルな物語…
NPO法人『マザーポート』適応支援ハウスにある、広めのフローリング部屋で、白いダイニングテーブルに座る莉央と愛莉、そして対面へ座る五十嵐。
時刻は午後5時まで、あと10分ほど…
「ここでは、立ち直らせたい男の子や女の子のカウンセリングをしたり、社会の適応支援もしたりしているんだ」
組んだ両手をテーブルの上へ置いて、五十嵐が説明している。
「岡崎和真くんも、ここで支援を受けた」
それを聞いた途端、二人の顔色がサッと変わった。
「――…、それって――」
「そう…。あの岡崎くんだ」
愛莉が思わず顔を、隣で座る莉央の方へ向けた。
「――…そんなんじゃない」
動揺を隠すように、五十嵐をキッと睨みつけている莉央。
「そうだな。君たちが知りたいのは、そういうことじゃないよな…」
平然としたままの五十嵐が、腰を浮かせて座る姿勢を直している。
「オレが知る限りの事は話すけど、聞くに堪えない事もあるが――」
「構わない…」
顔を強張らせ、五十嵐を睨みつける莉央が告げた。
「犯人の顔は、見た?」
「見てない…」
五十嵐が椅子から立ち上がり、部屋の端にある棚から新聞を一部取ってきて、バサッとテーブルへ置いた。
「?!――こいつ…」
二人がハモって驚いたのは、新聞の一面で載る顔写真の男に、見覚えがあるからだ。
以前に、二人がホストクラブ『得夢』へ行く途中、すれ違った葉月と腕を組んでいた小太りの中年男…
「あくまで俺が知ってるのは、また聞きでしかないんだが…」
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110番通報した男性が、葉月と新宿エグゼクティブホテル27階にある部屋へ入ろうとしていた所を、犯人は襲撃した。
包丁で脅した犯人は、男性から引き剥がした葉月と部屋へ入り、中から鍵をかけてしまう。
通報した中年男性は、葉月とデート中だったとのことだが…
どう考えても、パパ活の最中だったのだろう。
当事者が二人とも死んでいるので推測だが、葉月は殺害される前後に姦淫されていたらしい。
遺体を司法解剖した結果、体内から犯人の精液が検出された。その結果から、導かれた推測だ。
そして葉月は、包丁で胸をひと突きされて絶命…――
「――…大丈夫か?」
顔が青ざめている莉央と愛莉を見て、五十嵐がいきさつを話すのを中断する。
「――ゴメン…、あたし、無理…」
ハンカチを口元へ当てて、ゼエゼエしている愛莉。
「――…それで?」
動揺しながらも、気丈に振る舞っている莉央。
「柴田さんの胸を刺した犯人は、部屋の窓ガラスを脱出用ハンマーで割り、27階から素っ裸のままで飛び降りて――
――ウッぷ!…
口元を押さえて立ち上がった愛莉が、顔を引きつらせてドタドタと、小走りで部屋から出て行った。
「犯人の身体は地面へ激突、もちろん即死だったそうだ」
ひとり取り残された莉央は、呆然自失している…
「――…いいか?君たちは、これだけ危険な火遊びをしているんだ」
五十嵐が机に載せて組んだ両手へ、力を込めて諭し始める。
「相手にしている男たちは、君たちを自我のある人間とは見ていない。単なる性欲の捌け口としか、見ていないんだ!」
疲れ果てたかのような表情の莉央が、弱々しい視線を五十嵐へ向けている。
「君たちを、人間扱いしない連中を相手にするんだぞ?危険過ぎると思わないのかっ?!」
真っすぐに莉央を見て、強い口調で言い放つ五十嵐。
「女の子を人間扱いしない奴に、まともな奴がいる訳ないじゃないか!」
「………」
「そんな連中が、何をやらかすか分かったもんじゃない事が、今回の件でよく分かっただろう?」
紅潮した顔で、熱弁を続ける五十嵐。
「女の子に話せるようなことじゃないけど、あえて俺は――」
「五十嵐さんは…」
莉央が弱々しい声で、話を遮った。
「犯人が…、どうして葉月を、殺したと思う?」
机へ載せていた両腕を胸の前で組んで、五十嵐が逡巡している…
「多分、ヤツの思考は…」
顎を引いたまま、上目遣いで五十嵐を見ている莉央。
「こいつは、俺のオンナだ。俺のオンナに、手を出すな…」
「………」
「お前は、俺のオンナだ。俺以外の男と寝るな、って…」
「そんなの――」
「そう…。身勝手な独占欲だな」
眼を大きく見開いて紅潮した莉央の口元が、ワナワナ震えている。
「だから他の男に寝取られるぐらいなら、いっそ殺してやろうと――」
「は、葉月が誰とパパ活しようと、そんなの自由じゃんか!」
「そもそも、パパ活したら駄目だけどな」
ニヤリと笑った五十嵐に、莉央は一瞬ひるんだが、負けじとまくし立て続ける。
「その"おぢ"のクソ野郎に、葉月を縛る権利なんてねぇじゃんか!」
「それは、そうだな」
「――そんなんで葉月は…、そんなんで、葉月はぁ…」
「そう。殺されたんだ」
五十嵐を直視している莉央の眼から、涙が一筋ツーッと流れ落ちた。
腕組みをしている五十嵐は、柔和な表情でいて、優しげな眼で莉央を見つめている…
「こんばんわ~!」
玄関の方から引き戸が開く音がして、少年らしい声がした。
パタパタと廊下をスリッパで歩く音が、部屋の入口で止まった。
莉央が涙で濡れた顔を、ゆっくりと音が止まった方へ向けた。
右手で拭った眼をパチパチさせて、部屋の入口を凝視している莉央…
そこには以前、莉央をレイプしかけた和真少年が立っているではないか。
視線を合わせた莉央と和真は、その場で凍りついてしまう。
一切の音が消滅した静寂が、フローリングの部屋へ充満してしまった…
ハッとした和真が、踵を返して玄関へと向かおうとする。
次の瞬間、レイプされた記憶のフラッシュバックが、莉央を襲った――
★
ブラウスがはだけて、ブラジャーが外され…
スカートは履いているが、下着が脱がされていて股間がスース―する。
何者かに身体を、しきりに触られている感覚がある。意識が朦朧としていて、抗おうにも身体が思うように動かない…
――お酒って、こんなになるんだ…
初めてアルコールを飲まされたことを、後悔しているが手遅れだ。
焦点が定まってきて、誰かが自分の上へ乗ろうとしているのが分かった。
――これは…、カズマ?
口は動くが、声が出ない。
――やめて…
下半身が和真の手で弄られている、気持ち悪い感触が続く。
――いやだぁぁ…
次の瞬間、何かが強引に莉央の体内へ、侵入しようと試みてきた。
「――ヒイイィ~ッ?!」
激痛を覚えた莉央が、大声を発して全身で抵抗する。
和真がハアハアする荒い息づかいが、鮮明に聞こえる。
必死で抵抗する莉央だが、力で勝る和真から強引に押さえつけられていて、為す術が全くない…
――いたぁいぃー!…、やめてえぇぇッ~!…
「逃げるのかっ?!岡崎くん!」
五十嵐の大声でハッとした莉央が、フラッシュバックから引き戻された。
五十嵐が立ち上がり、背中を向けている和真を呼び止めている。
「木村さんに謝りたいって言ってたのは、ウソなのか?!」
立ち尽くしている和真の背中が、小刻みに震えている…
「――あんた…」
トイレから戻ってきた愛莉が眼を丸くして、和真から少し離れた所で立ちすくんでいる。
やがて、ひとしきり吐いて蒼白だった愛莉の顔が、みるみる紅潮していった。
「…このっ――」
血相を変えた愛莉が、和真へ摑みかかろうと近寄った。
ハッとした五十嵐が、慌てて部屋の入口へと走る。
「――ちょっ、ちょっと待てって!」
愛莉を背後から羽交い締めにし、ミディアムレングスの髪を振り乱して、五十嵐が懸命に食い止めている。
ジタバタもがく愛莉が、鬼の形相で和真を睨みつけている。
その傍らで和真は、俯いていた顔を上げ、口をキッと一文字に結び、コクッと頷いた。
そして素早く両手を床へついて、莉央の方を向きフローリングへ座り込んだ。
「――ずっと、謝りたかったんだ…」
和真はゴンッと音を立て、フローリングへ額を押し当て土下座した。
「ホッ――、ホントにっ!…――申しわけっ、…ありませんでしたっっ!!」
眼を丸くした愛莉を放した五十嵐が、和真の傍らでしゃがみ込んだ。
そして右手を、和真の背中へポンと置き、唖然として立つ愛莉へ促した。
「――まぁ…、座れよ」
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「――でっ、デタラメ言ってんじゃねえよッ!!」
激昂した愛莉が、座っていた椅子を後ろへ倒して、勢いよく立ち上がった。
「本当だ」
対面で座っている五十嵐が、腕組みをして毅然としたまま、愛莉と対峙している。
張り詰めた空気がピリピリと、四人がいる広めのフローリング部屋に漂っている…
「芹澤が岡崎くんに、木村さんをレイプするよう仕組んだんだ」
愛莉が顔を紅潮させて、口元をワナワナ震わせている。
愛莉の隣では、鳩が豆鉄砲を食ったように呆然としている莉央が座っている。
五十嵐の隣では、自分が怒鳴られたワケではないのに、和真が縮こまって座っている…
「…信じられないのか?」
「あっ、当ったり前でしょっ!それじゃあ、莉央が――」
「田澤愛莉17歳、6月14日生まれ、日野市立高幡中学校卒業。中学1年生の時にトー横デビュー…」
五十嵐から早口で言い放たれているうちに、愛莉の顔の紅潮が、みるみる引いていってしまう…
「トー横へ行ったきっかけは、父親から――」
「やめてっ!」
莉央が大声で叫び、五十嵐を睨みつけた。
五十嵐は、何が?という表情で平然としたまま。
顔面蒼白になった愛莉が、倒した椅子を引き起こし、スゴスゴと座り込んでいた…




