表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

第10話:逢瀬

これは新宿歌舞伎町で、好きでもないオトコたちに身体を売る、交縁少女たちのリアルな物語…

 焼き肉店を出た三人の少女たちは、夜の下北沢南口商店街を、駅の方へ向かって歩いている。

 高校の制服の上にジャンバーやパーカーを羽織るだけの、ラフな恰好(かっこう)の少女たち。

 美少女偏差値が高い莉央たちを、仕事帰りの男たちがチラ見しながらすれ違って行く…


 「マジでいいのぉ?割り勘でぇ?」

 「ガチで、しつけぇって!」

 隣を歩く愛莉から小突かれ、莉央がフラついてしまう。

 「だってぇ、初めはあたしがオゴるって――」

 「その10万、とっときなよ!」

 愛莉が莉央へ、大声で告げている。

 「そ!そ!莉央がヤな目に遭って、(もら)ったカネなんだしぃ」

 二人から少し遅れて歩く葉月が、後ろから話し掛けている…




 昨日、莉央の口座へ痴漢で捕まった男の弁護士名義で、示談金の50万円が振り込まれていた。相場より上乗せしたのは、五十嵐の脅しが相当効いたのだろう。

 それから10万を引いた残りを、莉央が駆琉の口座へ振り込んだことを、愛莉と葉月は聞かされていた。二人はあえて、貢ぎ過ぎなのでは?とか触れていない。

 少女たちの間の、忖度(そんたく)なのだろうか…


 「――じゃあ、そろそろ行くねぇ」

 葉月が右手を振りながら、駅の方へ小走りで行く。

 「バイバイぃ~」

 莉央と愛莉が立ち止まって、右手を小さく振りながら見送っている。

 葉月は、これからパパ活なのだ。


 「愛莉は?」

 「んん~…」

 歩きながらスマホを見て、言い出しづらそうな愛莉だが…


 今日は週末金曜なので、本来なら莉央と朝まで一緒にいたい所なのだが――

 パパ活相手の"おじ"から会いたいと迫られた愛莉は、ホスト遊びをしなくなっていたゆえ普段の夜は暇だったので、いいよと返答してしまっていた。

 今日が週末であることを忘れていた、バツの悪さで一杯の愛莉だが…


 「…いいって、あたしへ気ぃ使わなくってぇ」

 笑顔で話す莉央に、愛莉が申し訳なさそうな顔をしている。

 「あたしは、駆琉のマンションへ行くからさぁ」

 右手でスマンスマンと、苦笑いで謝罪している愛莉だった…


 ★

 ★


 東京西新宿の高層ビル街にある、ホテル最上階の一室…


 愛莉が身体へバスローブだけを(まと)った格好かっこうで、窓から眼もくらむような高さからの夜景を見下ろしている。

 昨今はホテルの周囲に高層ビルが乱立してしまい、往時の景色は望めないが、それでも最上階からの眺めは仲々のものだ。


 「――どうした?」

 バスローブを着たパパ活相手の中年男が、ワイングラス片手に歩み寄って来た。

 「う~ん…、ウチの方角は、どっちかなぁ~って…」

 「日野市の方は、都庁に邪魔されて見えないかなぁ…」

 空いている左手を、愛莉の右肩へさりげなく置く男。

 「――ありがとう…、俺の誕生日に付き合ってくれて」

 「――奥さん…、帰りを待ってんじゃないの?」

 「待ってる訳ないだろ、あんな奴――」

 言い終えるが早いか、男が右腕で愛莉を抱き寄せた。


 抱き合って、濃密なキスを交わしている愛莉と男…

 その勢いそのままに、二人はベットへと倒れ込んだ。

 はずみで互いのバスローブ胸元がはだけ、激しく絡み合いを始め――


 「んんっ?!――…」


 上へ乗ってきた男の上半身を、愛莉が両腕でギュッと抱き締めた。

 身体がつながった二人は、本能が命ずるかの如くベットの上で、のたうち回っていた…


 ★


 コトが済み、ベットで布団にくるまって愛莉がまどろんでいる。男は汗でまみれた身体を、シャワーで流しに行っている。

 まどろみながら、もの想いにふけっている愛莉――


 ――結局オトコなんて、どいつもこいつも、あたしの身体が目当なだけ…

 ――この"おぢ"も、リョーマもどうせ…


 愛莉がトー横へ来たきっかけは、父親からのDVだった。

 母親が蹴られ殴られるのを見るのは日常茶飯事で、愛莉は6歳年下の妹の結菜と、アパートの部屋の隅でおびえてうずくまる毎日だった。

 そして忘れもしない、12歳の誕生日の夜…


 「ほぉ~っ…、もう立派なオトナの身体じゃないかぁ」

 夕食を終えた時、酒に酔った父親から、いきなり愛莉は馬乗りにされた。

 抵抗空しく着ているシャツを、ビリビリに引き裂かれてしまった。

 「あなた、お願いだから――」

 部屋のはしおびえて座る母親が、身を乗り出して懇願こんがんするが――

 「おまえは、黙ってろッ!!」

 父親はちゃぶ台の上からサワーの空缶を、母親へ向けて投げつける始末。

 母親は無念そうな表情で、ただ見守るしかない…


 「いやあぁぁッ!!」

 眼前がんぜんで展開されている下劣げれつ極まりない行為に、耐え切れなくなった結菜が大声で叫び、ドタドタと玄関から部屋の外へと出て行った。

 「ちょっと?!――」

 母親が立ち上がったが、

 「放っておけッ!!」

 愛莉を凌辱りょうじょくすることに無我夢中な父親が、大声で制止した――


 ペタペタと裸足はだしで懸命に走る結菜が、息せき切ってアパート隣の民家へ駆け込んだ。

 泣きわめく結菜に、尋常でないものを感じた民家の住民は、即座に110番通報した。

 パトカーが数台駆けつけ、警察官がドアを蹴破けやぶって、アパートの部屋へドドッとなだれ込んだが――

 すでに時遅く、布団で泣きじゃくって横たわる愛莉は、父親に処女を奪われてしまっていた…




 しかし愛莉の不幸は、これで終わりではなかった。


 父親が逮捕され刑務所へ収監されると、今度は母親が違う男との逢瀬おうせへ夢中になってしまい、愛莉と結菜は放ったらかしにされてしまう。

 男とイチャつくために、母親は娘二人を寒空のアパートの外で、待たせてしまうこともあった。

 留守にしがちな母親に代わって、愛莉が幼い結菜の面倒をみるしかなかった。

 甘えてからんでくる結菜へ、愛莉は笑顔を返してはいたが――


 ――あたしだって、誰かに甘えたいけど…

 ――でも、あたしが強くならなきゃ、結菜が…




 「――…どうかした?」


 ハッとすると、眼の前に中年男の顔があった。

 布団にくるまった愛莉は、バツが悪そうに赤面してしまう。

 男は優しげな顔で、微笑んだまま…

 「シャワー、浴びるかい?」

 「――うん…」

 愛莉は起き上がると、バスローブを羽織ってバスルームへと歩いて行った…


 ★


 母親から放置されていた愛莉は、やがてトー横へ通うようになる。

 律儀にも、結菜を寝かせつけてからの外出だった。


 同年代の似たような境遇の少年少女たちと、いやし合う時間は至福だった。

 そうするうちに愛莉は、パパ活を知ることになる。

 ヒトへ甘えることに飢えていた愛莉は、すぐに飛びついた。父親からけがされた身体を売ることは、全くいとわなかった…


 ――そん時だけ誰かに甘えられれば、あたしはいい…

 ――ホストも"おぢ"も、甘えさせることのプロだ。それと引き換えに、カネか身体を、あたしは差し出すだけ…

 

 バスルームで愛莉がコックをひねると、シャワーヘッドに向けた顔へ、湯が勢いよく噴き出した。


 ――身体目当てのオトコどもなんて、甘えることは出来ても、ガチで信用出来ない

 ――それにもう…、あンなメに遭うのは、マジでガチでイヤ…


 滝の如く噴出する湯の中で、愛莉は何かへおびえるかのように、両腕で上半身をしっかりと抱き締めていた…


 ★

 ★


 一方、その頃の莉央は――

 フラッシュバックに襲われていた。


 ――そうだ…

 ――あと1ヶ月で中学卒業だった時に、あたしをレイプしかけたのは、和真だ…

 ――荒い息づかいの和真が、あたしの上に載ってきて…

 ――重い…、重い重い重ィ…、重いぃィ~…




 「――莉央?…――莉央ぉ?!」


 右肩を揺さぶられた莉央が、ハッと眼を覚ます。

 ぼんやりとした視界が晴れてくると、駆琉がのぞき込んでいるのが分かった。


 「どうした?うなされてたよ?」

 「ご――、ごめん…」

 寝ていた布団からゆっくりと、莉央がロング丈Tシャツ1枚の上半身を起き上がらせた。

 「――また…、フラッシュバック?」

 駆琉から問われるが、莉央はうつむいて口をキュッと結んだまま。

 心配をかけまいと、しているのか…


 「――水…、飲んでくる」

 起き上がった莉央が部屋のミニキッチンへと、常夜燈だけが照らす薄暗い中を歩いて行く。

 ここは新宿百人町のマンションにある、駆琉の部屋。

 この部屋では五日前に、少女がOD(オーバードーズ)酩酊めいていさせられたうえ、駆琉から凌辱されていたことを、莉央が知るよしもない…


 ――せっかく駆琉とエッチして、いい気分だったのにィ…

 ミニキッチンの冷蔵庫から2L入りペットボトルを取り出して、グビグビと飲んでいる莉央。

 ――こんな時に…、思い出しちゃうなんて…


 ふと莉央が、視線を落とすと――

 流し台とドラム洗濯機との隙間(すきま)に、何かが落ちている。


 ――なに?これ…


 莉央が拾い上げた小さく丸まった紫のかたまりは、どう見ても女性の下着っぽい。

 紫色の下着を、莉央が身に着けたことは一度もない…




 「――どうした?」


 異変を感じた駆琉が、起き上がって来た。莉央が右手に持つ下着へ眼が留まると、一瞬顔をゆがませた。

 ≪――あの、バカ…≫


 「――ああ…、これかぁ」

 即座に表情を、笑顔へ変えた駆琉。

 「ゆうべ、アフターで連れ込んだ客が、忘れてったんだろう」

 汚いものをまむようにして、下着を取り上げた駆琉。そして、そのままゴミ箱へと放り投げた。

 「――そう、なんだ…」

 「おいおい、なんだよぉ、その顔はぁ?」

 駆琉が莉央の眼前へ立ち、威圧するかのように見下ろしている。


 「ホストはアフターを獲得出来ると、一流と認めてもらえるんだぜ」

 猜疑心さいぎしんいっぱいの、上目遣うわめづかいで見つめる綾だが…

 「喜んでくんねぇのかよ?」

 「――だってぇ…」

 「しょうがねぇだろ?アフターにセックスは、付きもんなんだし」

 精一杯の作り笑いで力説する駆琉が、莉央のほほを右手で触れた。


 「俺が愛情を持ってやるのは、莉央だけだから…」

 言い終わるが早いか、駆琉が莉央の唇へ吸い付いた。

 立ったまま激しく抱き合い、濃厚なキスを交わしている莉央と駆琉。二人はそのまま、敷いてある布団へと倒れ込んだ。


 ≪――ちょろいもんだぜ、オンナなんて…≫

 「――あっ?!…」

 無我夢中で抱き着いてきた莉央の上で、駆琉はめた顔のまま、行為に及んでいる…


 ≪――こうやってやれば、イチコロだしよぉ…≫

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ