第二話 事情
そして、あの少年だね。
年の頃はおよそ十二歳くらいかな、と細目で分析しながら「怪我はなかったかなー!?」と語りかけてみる。
「あの、ありがとうございました……」
「それにしてもおっかしいんだー!! 大人ひとりが、子どもにあんな力任せにね!! 此処は切ない気持ちになるから違うところに移動して、落ち着いてから警察に行こうぜ!! ね、良いだろ?」
「あ、は、はい」
何処がいいかなーって考えた時に、おぼろげながら頭の中に「喫茶」って浮かんできたんすよねぇ。
だから、俺は少年の手を引いて行きつけの喫茶「マルコポーロ」に入店。此処は静かでいい。
ドアベルの音が俺たちを出迎えている。
俺は珈琲のブラックと、メロンソーダを注文。
「ここはお店の中だから声を小さくしよっか」
「あ、はっ……はい……」
「それで、君はどうしてあんな奴に捕まったの? 親御さんは? ってま、こんなに聞いちゃっても答えにくいよね。ごめんなさいな」
「その……親、いないんです。死んじゃって。逃げろって言われて、一人だけ逃げてきて」
そう言い出して、少年は大粒の涙を溢れさせたぜ! マジかぁ。言わせたくないこと言わせちゃったな。
「あの人たち、相良組とか言ってて俺のお父さんが持ってる遺産とかってのが欲しいって。それか俺の中にあるとかで……」
「はーそりゃあ大変だな。どうするか考えんといけませんな。こういうのに詳しい奴がひとりいるぜ!」
「誰、です」
「俺! 俺俺!! あっ、自己紹介しようね。友達になろう。俺の名前は──……一之輔! よろしく!」
「あっ、おれ、俺……春野桜緖です」
「愛らしい良い名前だ。桃色の君の髪に合うね。……これで俺たち友達だね。むふふ、人生で初めての友達だぜ!」
相良組とかいうのはあの男がいた組織だろうね。俺そういうのわかっちゃう天才児だから。俺のブレインはジーニアスってね。
「じゃあ、まずは君を警官に送るから、あと君が数え始めて二十五秒後に来るのを飲んだら店を出よう」
おそらくぴったり。春野桜緒少年は驚きながらメロンソーダを飲んでいた。ふふふ、俺はスーパー感知能力者の「百景種」だからな! 脳みそを強化すればちょっとした未来予知だってできる!
だって俺……! だって俺〜……!! 異能淵だから!! 決まったね、こりゃ。決まっちゃったな、こりゃ。
一人でもなんでもできるって罪だね!
おかげでずっと孤独だ。
「美味しいでしょ、ここ。ね! おやじさんね!」
「静かにしなさいや」
此処の店主は目が利かないらしいけど多分俺と同じ百景種だからそんなのは関係ないよね、とばかりに美味い飯を作ってくれる。しかも安い。なんと安い。
もっと高くても良いんだよね。俺が困るけど。
でも、俺が困るくらいなら容易いことだよ。今までたくさん困ってきたんだもの。こんなお困りならいくらでも請け負うよ。だって俺は異能淵だもの。
「ごっそさん。美味かったねぇ」
「はいっ」
マルコポーロを出る。そんで、駅前にあった交番に預けた。行方不明になってた子供だったんですぐに引き取ってくれた。
「警察って仕事が早いぜ! マジサンキュー!」
「一応君の名前なども聞きたいのだけど」
「ココだけの話、一之輔です。俺金ないんでケータイ持ってないんす。だからご堪忍ね」
本当を教えるわけがないよね。いつ捕まるかも分からないのに。顔だって結界で変えてるんだぜ。本当のオレの顔は傷だらけなんだ。昔切り刻まれたからね。
「さて……相良組ね……どこだろうかなぁ。探すにしたって東北中探し回るのも嫌だなぁ。……待てよ?」
俺が暴れたら「実相寺淵生が盛岡にいる」ってばれんじゃん。俺の故郷に!! 俺の故郷の、九十九部隊に!
「…………」
少し葛藤が生まれた。俺だって聖人じゃない。自分のほうがかわいいとか人生で一度は言ってみたい言葉だから言ってみるけどあんま実感ねーっすわ。
でも、理性的になってみると、知らない子供のために捕まるリスクをおかすなんてやってられないと思う。
まぁ、いいか。
「なるようになったんだな」
なるようになったなら、ちょっと文句は言えないな。
「見つけた。東京にいるのか。あの草薙とかいうのは、盛岡まで出張してきたんだな。案外真面目なんだなぁ」
わざわざこちらに人員を向かわせるのも面白いけど、手っ取り早く終わらせたいので、今回はコチラから向かってみることにしようと思う。
夏っていうのは暑いものだから、これもまた一興だろう。もうそろそろ甲子園も始まるしな。
夏ってのは楽しみがあっていけないな。
うちにもラジオが欲しくなる。
「とりあえずは、がんばろう!」