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Line4 赫色の血から

この話は陽西薺の視点の話です。


注意! Caution!

この話には少量のグロ要素が含まれます。

苦手な方はご拝読をお控えください。

「…くぅっ。」


残弾(くぎ)がもうすぐなくなる。あと30。全力で連射すれば時間にして10秒でなくなるだろう。

減りゆく釘を数えながら苦悶の声を漏らす。

()()作るのだって大変なんだからね?おばあちゃん。


「もうちょっと節約したらどうだい。」

「やかましいぞ、この死にぞこないがッ!」


やっぱりどこかおかしい。老人の反射神経でこの釘をすべて避けられるわけがない。

ましてやこの狭い茶屋の店内、なのにすべての釘が避けられている。


「なっ…!?」

「っと、弾切れか。それじゃ、次は私の番って訳だ…ねぇ!」


ジプシーの老婆は体を少しひねらせると、両手からそれぞれ一つずつスーパーボールを店内の壁面に投げつけた。

幾度も壁面、天井、床に高速で反射し続ける。

老婆が手を前方に突き出すとボールがこちらに飛んでくる。

それぞれ右足、頭狙いと見た。


右半身を後ろ左に流しながら後ろに飛んだ。

ボールは私の眼前を過ぎ、大通りを挟んで向こう側に駐車していた旧型の車に撃ち込まれた。

車窓が運転手の血で真っ赤に染まる。


「避けられるとは…。本当に殺す気だったんだがね。」

「一般人殺していいわけ?父さんが一番嫌いそうなもんだけど。」

蝶効果(バタフライエフェクト)か。まぁ大丈夫だろう。本当に困るんなら先生が止めに入るさ。」


こいつ、私さえ始末できればなんでもいいと思っている。

鬼畜だ。鬼畜生だ。狂人だ。

なんで父さんなんかにそこまで肩入れをする。

気持ち悪い。


「後ろ。」

「…っ!?」


返ってきたボールに横腹を貫かれた。

服に紅いしみがじわじわ染みていく。

まずい、こっちに気を取られている場合ではない。

次が飛んでくる。どこだ、どこからどこへ…。

振り返ると、ボールが高速で飛んできている。

思わず反射的に右掌で頭を防御した。

私は威力に吹き飛ばされて、ボールは右掌をかすめ取った。


「いっ…ああああああああ!」


店内の壁に血しぶきがかかる。

痛い。痛いっていうか、熱い。

すごくむず痒い感じと熱い感じと、あと血がちょっとべとべとしてて

気持ち悪い。

痛いからなのか、死ぬのが怖いからなのか、涙が出る。


「言ったじゃないか。後ろ、って。」

「 うっ…うあっ…」


言い返したいけど、なんも言葉が出ない。

私の銀色の髪の毛の端から、床に落ちた血に染まって赤くなる。

あいつがこっちに近づいてきた。

私が動けないってわかって、殺せるって思って近づいてきてるんだ。


「ああ、そうだ!名前を言ってなかったね。私の名前は…」


お前の名前なんて心底興味ない。

とっとと近づいてこい。

とどめを刺しに来い。


「…っていうの。死んだら地獄の夜摩にそう告げるんだね。」

「んっ…  ぐっ…」


私は右手で、私を見下ろしている老婆の細っこい左足をつかんだ。

「おや、命乞いかな。言ってごらん?言い終わった二秒後に殺す。」

まるで孫娘と話しているような柔らかい表情で私の最期の言葉を待っている。


「つ、つっ…」





「掴んだ。」

「!?」



私の髪の毛や服から血のシミが抜けていく。

壁や天井に着いた血も、床に流れ落ちていく。

床に大量の血が広がる。それから水滴のようになって一滴ずつ宙に浮かんでいく。

そう、待っていた。

私のとどめを刺しに来るのを。

殺せると思って、慢心したその瞬間を。


「私はさ…」

「けっ!!」

「私は…確信したんだよ。お前は私の釘をよけていたわけじゃない…逸らしてたんだ、軌道を…。

二回目の被弾で出した血しぶき、あれの跡を見て確信したッ…!」


そう、あの血しぶきはあいつを避けるように飛んでいた。

どういう原理かはわからないけど、たぶん…多分こいつの能力は…


「自分と自分の触れたものの周囲の力場を歪める…ってところかな。」

「なっ…!?」

「その反応は図星だな?スーパーボールを使うのは

力場を歪めたタイミングを弾性力でごまかすためか。」

「わかっているなら、いつまでもこの老人の足に、へばりついて…ないと思うけど……な!」

右手がどんどん重くなる。


「ほらほら、手を離さないとそのかわいいおててが折れちゃうよ!」

「……」

「あんたが私の能力を当てたお礼だ!私だって当ててやるよ!

あんたの能力は自分の血を操る能力だろ!?そうだろうな!

あんたみたいな小娘にはその程度の能力がお似合いだよッ!」

「…そんなに離してほしいのか。そう。じゃあ…」


手を離した。とたん、老婆の左足が宙に浮き、宙吊りの形になった。

「惜しい。」

宙に浮いた私の血を老婆の洋服にしみ込ませる。

そう、私の能力は…


「血の付いた物体の運動エネルギーを操る。」


老婆の服の運動エネルギーを操り、その老体を右側の壁にたたきつける。

壁は力に耐えきれず崩壊し、さらにとなりの壁を突き抜けて呉服屋にお邪魔することになってしまった。


「わすれちゃあいないかい……私が…私がいつ…」

老婆はポケットからおもむろにボールを取り出した。一つ、二つ、三つ…四つ。

「ボールが二つしかないだなんて言ったぁ!!?」


さっきのようにボールを周囲の壁に乱反射させる。

「なんで私ばっかりこんなに痛めつけるの!私はただ!ただ先生のことが好きなのよ!!」


狙いは心臓。さっきよりも速い。

でも…



「あののっぺらぼうのどこを気に入るんだよ。訳が分からん。」



ボールに下向きの運動エネルギーを加える。

私の股下をくぐり、部屋内で幾度か反射して老婆の右足ひざ下を完全に弾き飛ばした。


「あがっ!!こっ…この……陽西先生の…汚点があぁっ!」


汚点って呼ばれるのも…別にいいがすこし癪に障る。

「汚点か。私の能力のみならず名前すらも教えられていないと見える。一つ名乗るとしよう。

せいぜい私の名前をその老いぼれた耳に刻み込め。」


「私の名前は…」





「陽西 薺。()()()の幻想をぶち壊す、その人だ。」

最後までご拝読いただきありがとうございます。

結構ピンチでしたね。(そういう展開にしたのは誰だよ…)


さて、ついに明かされました薺の能力。

実は「運動エネルギー」といっても、「運動モーメント」といった方が正確だったりします。

釘打ち機から発射した釘がまっすぐ飛ぶのは、彼女の能力で血の付いた釘に対して回転のモーメントを与えているからです。

ここが第二話のテルミット反応の原因の一つでもあります。が…。


ちなみに、老婆の能力は「自分と触れたものの周囲の力場を歪める」能力ではありません。

老婆が図星の反応を示したのは、老婆自身もそのことについて気が付いていないのです。

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