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Line3 玉のお客様

この話は坂米霽の視点のお話です。

「さっきからなんなんだ!お前も父さんの手下ってわけか!?」

「ん?父さん?」

「ん…?」

父さんってなんだ?この女史は親子喧嘩でもしているのか?

「貴様、ジプシーではないのか…?」

「な、なに?実父死?お父君死んだのか?」

「し、死んでおらん!

…はぁ、妙に警戒して損したか…。」

「警戒して釘ぶっ放す人間を私は初めて見たけどな。」


落ち着いたようなので、彼女から話を聞くことにした。

「さて、いろいろと話をしようか。」

彼女は年季の入った外套を脱いで椅子に掛けた。

重い空気が周囲を包んだ。

いや、別にそれはいいのだ。

「服のセンス、どうなってるんだ…!」

外套の下に来ていたのはどう考えても男物のパッツパツのジーンズに

奇怪な化け物がプリントアウトされた、はっきり言ってクソダサいTシャツだ。

「いや、かわいいだろ!?オパビニア!」

「なんだよオパビニア!」

「貴様義務教育受けたのか!?カンブリア紀の生物の象徴たるオパビニアだぞ!?」

「普通の人はオパビニアっていう単語自体日常生活で使わねぇんだよ!

いや仮にオパビニアはいいよ!なんでそんなキツイジーンズ履いてるんだよ!」

「これは…べつにいいだろ!?」

「……はぁ、空気が台無しだ。外に食べにでも行こう。」

「待て!金はあるのか?」

「あ、あぁあ…。うん、あるよぉ。」

倉庫の金(Au)を質屋に出したってことは黙っておこう。

「わ、私もついていく…。」

「いや別についてこなくていいんだけど。」

「ついていくわけではない!大事な話だ!食事でもしながら話すとしよう!

私は甘いものがいいぞ!」

「なんでおごる前提なんだよ…。」

まぁでも、不法侵入の件で私はすでに弱みを一つ握られている。

それぐらいは罪滅ぼしとしてさせてもらうとしよう。


改めて外に出てみると、ここは昔の日本なのだということを痛感させられる。

歩道はダートを少し舗装した程度であるし、車も少ししか走っていない。

我々は街道沿いでふと目についた甘味処に足を運ぶことにした。


「いらっしゃい。何にします?」

「私は…何にしようかなぁ…。じゃあ、一番人気で。」

どうやら彼女は甘いものが好きらしい。随分かわいいところもあるものだ。

「では、私は一番不人気を頼もう。」

「は、はい。かしこまりました。」


「なんで一番不人気なのを頼むんだ?」

「人とかぶることがないからだ。最もほかの人間と違う経験が味わえる。

人間というのは経験でできている。もちろん、人間という種の本質の部分も

当然あるだろうが、人間はどんなものをどんなときに経験したかで構成される。

すると、私はほかのどの人間とも違う特別な人間になれるというわけだ。」

「でも、それではほかの人間と合わせることができない。」

「合わせなくていい。私は私だ。」

「変な奴だな。でもそういう根幹が強い人間は好きだ。」



「改めまして、初めまして。私の名は坂米 霽。もともとは総合化学商社でサラリーマンをしていた。

ここには…まぁ、自殺をしてやってきた。」

「自殺?そんな理由で時間超越が…。いや、そうか。

私の名は陽西。陽西 (なずな)だ。」

「君があの研究所の博士か?見た目的にはかなり若いが…。」

薺の容姿は10代後半、長髪白髪、いや銀髪か?上に着ている茶色の外套は

かなりボロボロに使い古されている。

「いや、私の父のものだ。」

「そういえば、お父さんとは何かあったのかね?」

「……」


その後薺はすべてを話してくれた。

薺の父は、「異世界への扉を開く研究」をしていたこと。

その研究は失敗したこと。

それでもまだあきらめず、時間超越、すなわちタイムスリップを繰り返して

各時代から有用な人材を集め、実験を繰り返し続けていること。

薺が一度それを邪魔したがために、命を狙う刺客を父親が仕向けていること。


「…かなりハードだな。」

「ああ、そして私は…いや私の父親は時間超越を体験した人間のことを旅人(ジプシー)と呼んだ。

そしてジプシーは時間を超越したときに、特殊な能力を手に入れる。」

「あの釘打ち機の仕掛けはそういうわけだったのか。それで、その能力というのは?」

「人によってさまざまだ。多分坂米にもあると思うぞ。」



「え、いらないんだけど…。」



「…随分変わった人間だな貴様は。まぁそう言うな。試してみろ。」

「試すって、どうやって?」

「イメージだ。自分の能力が発動されるのを想像してみろ。

例えば、手から火を出したり…」

「出ないな。」

「風を巻き起こしたり!」

「起こらないな。」

「血液を操ったり!」

「痛いのは嫌なんだけど。」

「貴様!どうやって自殺実行したんだ!?」

「薬物過剰摂取による自殺。」

「お、おう。」


どうやら私にはその特殊な能力とやらがないらしい。

素晴らしい!私は普通の時間超越者とは違うのだ!それでいい!

…とはいえ、彼女と一緒にいるとその刺客とやらに狙われる可能性があるのか。

しかもその能力がない以上、戦闘になれば私に勝ち目はほとんどないということだ。

さっさと新居でも見つけて、この女の前からおさらばしなくては。



そうこう考えているうちに、注文を受けたのとは別の女将が

お盆に抹茶のわらびもちとみぞれを載せ持ってきた。

「お待たせいたしました。まっちゃわらびとみぞれでございます。」

甘味を目にした瞬間、薺の目の色が変わった。

これまでで最高級のほほえみと目のキラキラ具合だ。

とても命を狙われている少女とは思えない。

「おお!見ろ!なんかきれいなたまっころもついているぞ!」

わらび餅の方にはガラス細工のような玉が一つ添えられていた。

「これはなんだ…?ビー玉?」

「あ、それは飾りですので食べられません。お気を付けくださいませ。」

「だってよ。」

「よし!いただきまーす!」

彼女が口を大きく開けて一口を味わおうとした瞬間、玉が宙に浮きあがり、

薺の口の中に飛び込もうとした。

間一髪、頭を傾けそれをよけると、その女将の方をにらみつけた。

「霽!伏せろ!」

私の頭を伏せさせながら、座っていた座席を遮蔽物として身を隠した。

空に飛んだビー玉らしき球体は物理法則に反する動きをしながら、空中で

上下左右に複雑な軌道を描きながら、配膳をした女将の手元に収まった。


「現代人なのに、スーパーボールを知らないというのは嘆かわしいねぇ。」

「!!」

「まぁ、こういうので遊ぶ若者も最近は少ないからねぇ。

にしてもよくぞよけられた。さすがは陽西先生の娘さんだぁ。」

「ジプシーだな。文字通り正面から攻撃とは、よっぽど死にたがりと見える。」

立ち上がりながら、懐に無理やり隠していた釘打ち機を構える彼女。

それとは対照的に齢70はいっているであろう女将のおうなは隙だらけにしか見えない。

「あんたにだけは言われたくないね。先生の研究を邪魔しようだなんて。」


「あのう…」

隠れている座席から少し顔を出しながら慎重に発言した。

「申し訳ないんだが、ここで殺し屋ごっこはやめてもらえるかね。

あまり騒ぎを起こされると私としてもこm…」

私が話し終わる前に、女将の手からこぼれたスーパーボールが床でワンバウンドした後、

私のみぞおちに高速で撃ち込まれた。

「ひっ…はっ…」

呼吸ができない。

「坂米!」

「あまりあなたのことは傷つけずにことを済ませたかったが…。

まぁこの程度ならいいだろう。死ぬほどの威力じゃあないだろう?」


まずい、力を抜くと気絶しかねない。

なにが死ぬほどの威力じゃないだ。

死ぬほどこっちは痛いんだぞこのババア。

「さて…と。殺すよ?陽西のお嬢ちゃん。」

「やってみろ。その時代遅れの顔のしわ一本ずつに釘をおまけしてやる。」



その記憶を最後に、私は気を失った。

ご拝読ありがとうございます。

超能力要素出ましたねぇ、ついに。

そして、襲われましたねぇ、ついに。

もともと出す気はあったんですが、どういう形で出すかというのが

すごく悩んでしまって、結局第三話で登場です。

遅すぎるかな?早すぎるかな?

分かりませんが、超能力自体も物理や化学の概念の延長線上みたいに作っていたりもするので、

理系の皆様は歓喜しつつ読み進めていただけたら嬉しいです。

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