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04.無口な剣姫様(1)


「赤い帽子を被っている時は心の声に答えないように」



その言葉が終わると、女性は何も言わずに扉を開けて中に入っていった。

何のことやら全く分からないまま、シリルも続いて部屋に入る。


部屋は広大で、無機質な空気が支配していた。

中央には、ソファセットと幾つか椅子が無造作に置いてある。


そのソファに、1人の女性が背を向けて座っていた。

扉が開いた音に気が付いたのか、ゆっくりと振り返る。


(……え?)


その顔を目にした瞬間、シリルは思わず眼鏡を押し上げた。


青みがかった黒髪に、澄んだ青い瞳、美しく整った顔。

圧倒的な存在感と凛とした透明感。


それは、間違いなく剣姫ビクトリアだった。

以前見た白い制服を着ており、頭にやけに目立つ赤いベレー帽をかぶっている。


(どうして彼女がここに? あと、なんだあの帽子?)


訳が分からず戸惑っていると、魔法士が2人の間に立った。



「まずは紹介から始めようか。こちらがビクトリア第2魔法騎士団団長で、こちらが『読心』ギフト持ちのシリル君」



とりあえずシリルが「初めまして」と挨拶すると、ビクトリアが無言でシリルの顔を見た。

その目の奥には警戒の色が感じられる。


(え? 何だ? 俺、普通に挨拶しただけだよな?)


状況が読めずに戸惑うシリルの頭に、魔法士の心声が聞こえてきた。



【あちゃあ、警戒してるねえ。うまいことやらないと】



そして、シリルの方に「頼んだよ」という感じに目を向けると、ビクトリアに笑顔を向けた。



「シリル君は、身体の接触があった人間の心が読める能力があるんだ。まずは自分で試してみるといい」



ビクトリアは軽くため息をつくと、シリルに近づいてきた。


シリルの頭の中にビクトリアの心の声が流れ込んできた。



【こんな見知らぬ文官に心を読まれる羽目になるとはな……】



そして、覚悟を決めたような顔で赤い帽子を取ると、シリルの腕に軽く触れて、その目を見上げる。


(……っ!)


急な接触と美しい瞳に思わずドキリとしていると、頭の中に声が響いてきた。



【……聞こえるか?】



シリルは目を見開いた。

明確に話しかけられている気がする。


(これ、答えた方がいいんだよな)


そう思いながら、「はい、聞こえます」と答えると、ビクトリアの目が軽く見開かれた。

青い瞳が探るようにシリルを見る。



【本当に聞こえるのか?】

「はい、聞こえます」

【今私は何色の服を着ている?】

「……白です」



一体何の会話だろうと思いながら、こんな会話を少し続けることしばし、

ビクトリアがため息をついた。

諦めの目でシリルを見上げる。



【……よく分かった。彼女に『了解した』と伝えてくれ】



そして、手を離して再び赤い帽子を被ると、はあ、とため息をつく。


(……これ、どういう状況なんだ?)


訳が分からずも、少し離れたところに立っていた魔法士に「了解した、だそうです」と伝えると、魔法士が嬉しそうに笑った。



「じゃあ、決めた通りにするということでいいわね」



ビクトリアが、【……仕方あるまい】と視線を下に向けると、黙って部屋を出て行った。


バタン、とドアが閉まる。


(……何なんだ、これ?)


シリルは呆気にとられて閉められたドアをながめた。

頭の上は疑問符でいっぱいだ。


そんな彼の状況など意にも介さない様子で、魔法士が部屋の中央にあるソファを指差しながら楽しそうに口を開いた。



「シリル君はそっちに座ってくれる? 私はこっちに座るから」



そう言って、自身はソファからかなり離れた場所――シリルの能力の範囲外にある椅子に座る。

そして、楽しそうに微笑みながら口を開いた。



「ビクトリアが出て行くとき、心の中でどう思っていた?」

「『仕方あるまい』と思っていらっしゃいました」

「はは、そりゃ傑作だ。君の能力は結構楽しめるね」



楽しそうに笑う魔法士に、シリルはたまらず「あの」と声を掛けた。



「これはどういう状況ですか?」

「そうだね、説明しないとね」



魔法士が足を組み直した。



「何から話そうか。とりあえず、何か質問はある?」

「まず、あなたが誰なのか教えてください」



シリルは思っていた。

色々と疑問があるが、そもそも一体こいつは誰なんだよ、と。


魔法士がくすくす笑った。



「実は、君には以前会っているんだけどね」


(え?)


シリルはまじまじと彼女の顔を見た。

既視感がある気はするが、どうしても思い出せない。


彼女がにっこり笑った。



「私の名前は、リリアーナ・エレシア。魔法研究所の所長をしてる」



シリルは思わず息を飲んだ。

エレシアとはこの国の名前じゃないか!


(道理で首輪を外せたわけだ)※ 


そして、同時に思い出した。

彼女が、「君は面白い」と言って自分を微妙な気分にさせたフードの魔法士であることを。


(……あの時の魔法士か)


シリルは、心の底からゲンナリした。

なんかロクな仕事じゃない気がしてくる。


そんなシリルを見て、リリアーナがニヤニヤ笑う。

そして、ふっと真面目な顔になると、声を落とした。



「……ここからは極秘事項になるから、そのつもりで聞いて欲しいのだけど、――実は、ビクトリアが魔法攻撃を受けたんだ」





※シリルの首輪は指定した人間と王族にのみ外せます

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