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01.先が読めない王都生活




『成人の儀』から3日目、空が血のように染まる夕暮れどき、

シリルを乗せた黒塗りの馬車は、王都に到着した。



「これが王都……!」



それは見たこともないような都会だった。


広い通りには背の高い建物が並んでおり、その間を見たこともないほどたくさんの人々が忙しそうに歩いている。

店も多く、街全体がカラフルで華やかな雰囲気だ。



「……ダミアーニ子爵領が田舎って言われるわけだ」



馬車の中からこれらの風景をながめながら、シリルは不安になった。

こんな見たこともないような都会で、自分は一体何をさせられるのだろうか。




馬車は大きな通りを駆け抜け、大神殿の前に到着した。

ダミアーニ子爵領にある神殿の10倍はあろう巨大な神殿で、周囲がぐるっと高い塀に囲まれている。


中に入ると、気さくな感じの青年神官と、大人しそうな雰囲気の神官見習いの少年が出迎えてくれた。


夕方の到着だったため、詳しい話は明日に持ち越されることとなり、小さな部屋に案内された。

その後、神官見習いの少年テオに連れられて、やたら天井が高くて広い食堂で、皆と同じ夕食を食べさせてもらう。


(……意外だな)


差別的な扱いをされるかと思いきや、ものすごく普通だ。


テオに理由を尋ねると、

「シリル様が初めてではないからだと思います」

という答えが返って来た。

どうやら過去に2人、外れスキルを授かって滞在した人物がいるらしい。



「その2人は、どのくらい滞在したのですか?」

「大体1か月くらいですね」

「その後は?」

「…………分からないです」



すっと目を逸らされて、シリルは物凄く不安になった。

(本当に分からないのか、言えないようなことになったのか、どっちだよ!)

と思うが、聞けずに終わる。



そして、その翌日。

痩せて神経質そうな文官が現われて、シリルのこれからについて話をした。



「まずは、ここで神官見習いとして過ごしていただきつつ、ギフトの分析をさせていただきます」



なんでも王立魔術研究所が是非分析させて欲しいと言っているらしい。



「大体1か月かかる予定です」

「そんなにですか」

「ええ、調べることが多いこともありますが、『隷属の首輪』の機能上、1回付け外しをすると、しばらく時間を置かなければならないそうです」



シリルの処遇については、分析が終ったあとに決まるらしい。



「恐らく、こちらの指定した仕事をして頂くことになるかと思います」



文官の話だと、ギフト『読心』は、上手く使えば有用なものだと考えられているらしい。



「例えば、尋問ですね。心が読めるのなら、今ほど手間をかけずに相手に情報を吐き出させることができるでしょう。それと内偵ですか。心が読めれば、危険な思想を持つ者を探し出すことも容易でしょうから」



シリルは、眼鏡を押し上げながら内心ため息をついた。

つまり、シリルに自由はなく、命令されればその通りに尋問や内偵などを行わされるということだろう。


(一生首輪が付いた犬のように生きるしかないということか)


しかし、彼にあらがう術はない。




という訳で、シリルの大神殿の生活が始まった。


神殿の生活は規則正しく、朝晩の祈祷と仕事が日課だ。

朝早く起きて走り、見習いたちと一緒に日課に取り組む。



これと並行して、シリルのギフトの分析についても進められた。


到着して3日目に、目を輝かせた魔術師たちがやってきて、シリルのギフトをあらゆる方法で調べ始めたのだ。


どのような条件下で心が読めるのか。

一度に何人の心の声が聞こえるか、

シリルの体調や、屋内と屋外では何か変わるのか


などを、週に数回来て何度も検証する。


これについては、言われた通りに行動するだけなので、特に問題なく行えている。


(まあ、たまに実験用のネズミを見るような目で見てくるけどな……)


これについては言っても仕方なさそうなので、気が付かないフリをしている。



実家については、たまに思い出すことがあるものの、なるべく思い出さないようにしている。

下手に考えると、絶望的な気分になってしまうからだ。



こんな感じで、穏やかで規則正しいながらも、今後についての不安が付きまとう日々が淡々と過ぎていく。




――そして、3週間が過ぎた朝。

シリルが、朝食を食べに大食堂に行くと、いつもと何やら様子が違っていた。

何だか妙に人が少ないのだ。


そこにいたテオに理由を尋ねると、

「離宮で会議があるのです」

という返事が返ってきた。


通常、王宮での会議は王宮内で行うのだが、日取りや縁起の問題で、たまに神殿の離宮にある大会議室で行うことがあるらしい。


(なるほど、その準備で人が少ないのか)


そして、朝食後はシリルも手伝いをすることになり、

彼は王宮の文官のものだという青いマントを羽織り、神官と共に山のような資料を抱えて大会議室に続く渡り廊下を歩いていた。


横を歩いているのは、いつも面倒を見てくれる青年神官だ。

彼は申し訳なさそうな顔をした。



「済まないね、手伝ってもらって」

「いえいえ、しかし、どうしてこのマントを?」

「体裁だね。文官じゃないと会議の準備は手伝えないって決まりがあるんだってさ」



そして、歩くことしばし。

前方に、衛兵に守られた大きな扉が見えてきた。

その前には、シリルと同じ青いマントを羽織った背中の丸いチョビ髭の男がおり、右往左往している。


彼は資料を抱えた2人を見ると、満面の笑みを浮かべた。



「お待ちしておりましたよ!」



文官が資料を確かめている間、シリルは会議室の扉をうかがった。

会議はもう始まっているようで、扉の向こうから人の声が聞こえてくる。


(かなり大きな会議みたいだな)




そして、資料を渡し終わった2人が立ち去ろうとした、そのとき。



「正気の沙汰とは思えん!」



突然、扉の向こうから凛とした女性の声が響いてきた。


その単なる怒りだけではなく凍るような冷たい響きに、シリルは思わずビクリと立ち止まった。


(……この声)


脳裏に、なぜか王都に来る途中で見た美しい剣姫の姿が浮かぶ。


まさか、と思いつつ扉の方向に目を向けると、そこから更に声が聞こえてきた。






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