表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

(閑話)ビクトリア、思いにふける


ある日、ビクトリアが執務室に戻ると、そこにシリルがいなかった。


(どこに行ったんだ?)


キョロキョロと部屋を見回していると、

外から楽しげな声が聞こえてきた。


窓から訓練場を見ると、そこにはガイウスと剣の打ち合いをしているシリルがいた。

ややへっぴり腰ではあるが、果敢に打ち込んでいっている。


(色々と問題はあるが、あの意気は悪くないな)


その様子をながめがら思い出すのは、ここ2カ月間の出来事だ。





ビクトリアが、シリルに出会ったのは2カ月前だ。


当時、ビクトリアは呪いをかけられて非常にショックを受けていた。

意思表示ができない生活も不便で、毎日苦労していた。


そんな中、リリアーナから、「読心」ギフト持ちの専属文官を付けると告げられた。


「彼に、君の周囲にいる共犯者を探してもらうんだ。あと、彼なら君の心を読んで代弁してくれる」


ビクトリアはもちろん拒絶した。

いくらこの状況を打破するためとはいい、見ず知らずの他人に心の中を読まれるなど冗談じゃない、と思ったからだ。


しかし、どんなに拒否しても、なぜかリリアーナは譲らない。

そして、何度目かの話し合いのとき、彼女は赤いベレー帽子を持って来た。


「これは君のために開発した、『読心』の能力を無効にする帽子だ。これを被っていれば心を読まれない」


そこまでされたら断るのも申し訳なく、とりあえずその青年に会ってみようということになる。




そして、面会の当日、

魔法研究所のソファに座って赤い帽子をいじりながら、彼女は憂鬱な気持ちでため息をついた。


(気が重いことこの上ないな……)


実を言うと、彼女はそもそも文官という人種を信用していない。

現場を知らずに偉そうなことを言うし、とにかく噂好きが多いからだ。

特に、第2魔法騎士団の現専属文官カスパーはひどいもので、あることないことペラペラと喋り歩いていた。


(あいつと同じタイプだったら速攻断ろう)


そう思っていたのだが、連れてこられた青年はカスパーとはまるで違うタイプだった。


年齢は20歳くらいで、背が高くて眼鏡をかけており、少し神経質そうではあるが真面目そうだ。


彼を見て、ビクトリアは思った。

そこまで悪い人間ではなさそうだな、と。


(呪いを早く解けるなら、まあ我慢するか……)


そう思って渋々彼を専属文官として受け入れはしたものの、彼女はずっと警戒していた。

彼が実はカスパーのようなタイプかもしれないからだ。


しかし、彼と一緒に会議に参加してみて、彼女は考えを少し変えた。


ビクトリアが言った言葉を、彼は何とかソフトにしようと苦労しながらも直接伝えたのだ。

伝えた言葉で相手が激怒する様を見て困っているのを見て、彼女は思った。


(どうやら本当に真面目な男らしいな)


もしもこれがカスパーだったら、笑って誤魔化すか、相手を持ち上げるような全く違うことを言ってお茶を濁しただろう。




その後、一緒に働くにつれ、彼のイメージはどんどん変わっていった。


最初に大きくイメージが変わったのは、街に視察に行った時だ。

本当は1人でお忍び的に行こうと思っていたところを付いてこられ、ややうんざりしていたのだが、彼と一緒にいるのは思いの外快適だった。


まず、全く邪魔にならない。

歩くときは黙って後ろを付いてくるし、知り合いと話をする際は、離れたところで静かに待っている。


頼みごとをすれば、これ以上ないほど的確に対応するし、お腹が空いたと屋台を見れば、その視線を理解して串肉を買ってきてくれる。


(本当に気が利くな)


驚いたのは、魔法書店に行った時だ。

魔法書を理解し、別の言語で魔法理論の本を読めると言い切った。


(ずいぶんと頭の良い男なのだな)





そして、彼のイメージが完全に覆ったのは、魔の森での定期討伐の時だ。


なんと戦えない彼が、ビクトリアのピンチに回復薬を持って駆けつけたのだ。

普通の人間だったら気絶しかねない状況で冷静に応急処置を行い、多くの団員たちを救った。


聞けば、早期に救援隊が来たのも、彼が異変に気が付いたかららしい。


(頭も良いが、腹も座った男なのだな)




しかし、これらはほんの序の口で、彼に驚かされたのはここからだった。


事件の翌日、彼は独自に調査し始めた。

守護符について過去の資料などを調べ上げ、関係各所から情報を集める。


そんな彼を、ビクトリアは黙って見ていた。

意味のないことはしない男だから、きっと何かあるのだろうとは思ったからだ。

しかし、彼が


「守護符の構成が故意に変更された可能性があります。それと、これには恐らくカスパーさんが関わっています」


と言ってきた時はとても驚いた。

まさかそんなことを調べているなど思いもしなかったからだ。


同時に、カスパーに対して猛烈に腹が立った。

団員たちが大けがを負ったのだ。

黙ってなどいられない。


とりあえず一発殴りに行こうとするビクトリアを、彼は必死に止めた。

まずは証拠を集めて、完膚なきまでに叩きのめしましょうと提案してくる。



「来週の定例会で、この件を報告しましょう」


そう言われても納得できずにいると、彼は言葉を重ねて彼女を説得した。


「カスパーさんは、ワロン総務大臣の甥です。普通に告発したら、揉み消されるか有耶無耶にされるに決まっています。でも、定例会の場で『魔の森の被害拡大の理由』として報告してしまえば、その心配がなくなります」


この話を聞いて、ビクトリアは渋々同意した。

確かにそうだと思ったからだ。


そこから、彼女は証拠集めを手伝い始めた。

といっても付いて行って顔を見せるだけだったりもしたが、彼はそこでどんどん証拠を集めて来た。



そして、迎えた定例会議。

ワロンの嫌味を皮切りに、シリルの報告が始まった。


穏やかな口調でされる分かりやすい説明は、内容を知っているビクトリアですら、聞き入ってしまうほどのものだった。


(彼は本当に優秀だ)


最後に彼の背中を叩いて「よくやってくれた」と伝えたが、あれは心の底からの本音だ。



その後、ビクトリアは一気に忙しくなった。


事件についての事情聴取や、損害額の計算。

横領された金が戻って来て、それをどう使うのか計画書を作る必要もあった。


1人では対処が難しかっただろうこれらに対し、彼は的確にサポートしてくれた。

どんどん仕事を進めてくれ、日々の業務もやりやすい方法に変えてくれた。

彼がいなければ、ビクトリアは鍛錬の時間が取れない日々が続いただろう。


(彼は本当に頼りになる)


そして、事件から約1か月後。

ようやく業務が落ち着きを取り戻し、シリルが剣の稽古に参加するほどの余裕ができてきた、という次第だ。







ビクトリアは、窓枠に頬杖をつくと、一休みするシリルの姿をながめた。


木陰に入り、水を飲んだり、汗をぬぐったりしている。


その姿をながめながら、ビクトリアは心の中でつぶやいた。


(そういえば、あの男は何者なのだろうな)


北方に領地を持つ子爵家出身ということや、外れギフト持ちということは知っているが、それ以外はほとんど知らない。


最近、親しくなってきたせいか、

彼が一体どういう家に生まれてどう育ったのか、やけに気になるようになった。


(今度聞いてみるか)


お昼に誘ってみるのもいいかもしれない。


そんなことを考えていると、シリルがビクトリアの方に気が付いた。

ぺこりとお辞儀をしてくる。


ビクトリアは、軽く手を挙げて応えると、

窓を背に寄りかかりながら、ゆっくりと書類をながめはじめた。





これにて第1部完結です。

長い間お付き合い頂きましてありがとうございました。m(_ _)m


この作品は、大体小説1冊分の文字数ごとに投稿・管理する予定です。

第2部については、同じく小説1冊分くらい書き溜まりましたら投稿しますので、気長にお待ちください。


最後に。


もしよければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると、作者が泣いて喜びます!


イマイチだと思われた方も、☆1つでも付けて頂けると、作者としては今後の参考になりますので、ぜひご協力いただければと思います。m(_ _)m


感想などよかったらぜひ!(*^.^*)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
楽しく読ませていただきました。第2部再開を期待して、お待ちしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ