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02.外れギフト『読心』




 「選択肢を2つ提示しましょう。1つはこのままここに残って子爵家の指示に従うこと。もう1つは、我々と一緒に王都に来ること。無理強いする気はありません。貴方が決めてください」



王宮神官からそう言われ、シリルが王都行きを宣言したあと。

子爵が、絶対に逃さないぞという風にシリルを睨みつけると、神官(王宮神官)に食ってかかった。



「シリルは私の息子だ! いくら王家とはいえ勝手に連れて行くなど横暴過ぎる!」

「そ、その通りですわ! シリルは私たちの息子ですわ!」



夫人が、夫を援護するように叫ぶ。


そんな彼らを、シリルはぼんやりとながめた。

あまりにも非日常的な状況に、現実感が全く伴わない。


(昇爵のためには俺が邪魔なんだろうな)


騒ぐ両親をながめながら、そんなことを考えるも、頭がうまく働いていない感じがする。


必死の形相で詰め寄る夫妻に、神官は穏やかに微笑んだ。



「大切なご子息を連れて行くのですから、もちろん相応の埋め合わせはさせて頂くつもりです。もちろんギフトのことも守秘しますし、多少の融通を利かせることもできますよ、“色々と”」



その言葉を聞いて、子爵の顔があからさまに変わった。

目から殺気が消え、計算高そうな表情になる。


夫人も同様で、考えるように黙り込む。


神官が愛想よく言った。



「奥にある別室でお話しませんか? もちろんそちらのご家族の方もご一緒に」

「……いいでしょう、話を聞こうじゃありませんか」



子爵が合意し、4人がぞろぞろと神殿の奥に消える。


神官が、ぼんやりしているシリルを振り向いた。



「君は少し待っていてください。護衛を付けましょう」



神官は神殿の奥に向かい、それと入れかわるように中年の男性騎士がシリルの前に現れる。



「私がご一緒させていただきます」

「……よろしくお願いします」



シリルが反射的にお礼を言うと、騎士が何とも言えない目で彼を見る。


そして、騎士に付いて座れる場所に向かって歩き出した、そのとき。

突然、シリルの頭の中に言葉が流れ込んできた。



【礼儀正しい真面目な青年じゃないか。気の毒に】



シリルはびくりと肩を震わせると、無意識に眼鏡を押し上げた。


(なんだ? 今の声は?)


声の主を探して周囲を見回すが、前を歩いていく騎士以外は誰もいない。


彼が戸惑っている間にも言葉は続く。



【やはり貴族の家から外れギフトが出ると揉めるな】

【神官様も大変だ】



明らかに前を歩いている騎士のものであろう言葉に、シリルは思った。

もしかして、これがギフト『読心』の力なのではないだろうか、と。


そして、澄ました顔でお茶を持ってきた巫女姿の女性から、



【きゃー! すごーい! ギフトの印、初めて見た! 何のギフトだろう?】



という心の声を聞いて、それを確信すると、シリルは大きなため息をついた。


(……大変なことになった)


未知の能力の開花に、ヤバいことになったという実感がジワジワと湧いてくる。


そこへ、



ガチャリ



神殿の奥から扉の開く音が聞こえてきた。

複数の人間がにぎやかに話す声が響いてくる。


騎士に付き添われて声の方向に行くと、そこに神官と父母、レイジー、そしてアンジェラの5人が立っていた。

先ほどの険悪さから一転、和やかで友好的な雰囲気に包まれている。


(どういうことだ?)


不思議に思いながらシリルが近づいて行くと、子爵が機嫌良さそうに口を開いた。



「お前のことは、こちらの神官様が責任をもって見てくれるそうだ。せいぜい励むように」

「シリル、がんばるのですよ」



母親も機嫌良さそうに笑う。


(……何があったんだ?)


父母のあまりの変化にシリルが戸惑っていると、2人の心の声が聞こえてきた。



【とんだ恥さらしだと思ったが、悪くない価値がついたな】

【何という幸運なのかしら。邪魔な息子を追い払えた上に大金が手に入るなんて】



どうやら、大金と昇爵の推薦状、外れスキルの件を隠ぺいすることと引き替えに、シリルを売り渡すことにしたらしい。


(……まあ、そうなるよな)


シリルは視線を落とした。

両親が家やお金を大切にしているのは知っていたし、きっと息子の自分よりも大切なのだろうなと薄々思っていた。

今回の結果も予想外ではないが、こうやって直接突きつけられると、やはりショックだ。


そんなシリルの前に、弟のレイジーと婚約者のアンジェラが寄り添うように立った。

レイジーが残念そうな顔をする。



「兄上の幸運を祈ります」

「シリル様、これからもがんばってください」



アンジェラが慈愛の籠った眼差しでシリルを見る。


一見、シリルを気遣っているような2人の態度だが、シリルにはその心の声が聞こえてしまった。



【コイツがいなくなったら清々するな。ようやく俺にも運が回ってきた。金も家もアンジェラも俺のものだ】

【将来有望だと思って優しくしてやっていたのに、外れギフトを授かるなんて大失敗だわ。なんて気味が悪いのかしら。でも、これで堂々とレイジーと付き合えるわね】



どうやらレイジーとアンジェラは、シリルが領主代行の業務に追われている裏で付き合っていたらしい。


(……マジか)


シリルは、雷に打たれたような衝撃を受けた。

何とか表情を保つものの、ショックが大きすぎて声が出ない。


そんなシリルを意にも介さず、4人は踵を返した。

振り返りもせず、さっさと大神殿を出て行く。


その後姿を、シリルが呆然と見送っていると、神官がにこやかに近づいてきた。

手には、冷たく光る隷属の首輪を持っている。



「決まりですから」



そう言うと、神官は首輪をシリルの首にはめた。

手をあてて魔力を流すと、


ガチャン


という音がして、シリルの首に冷たくて重い首輪がぶら下がる。




――そして、その日の夜。

1台の黒塗りの馬車が、静かに教会を出た。

そのカーテンは固く閉じられ、中に何が入っているか察することさえできない。


馬車は人の目を避けるように街の外れを走ると、門を出て夜の闇へと消えていった。





次回、ヒロイン登場!


ーーーーーーーーーー

補足:『隷属の首輪』について


5年前に王立魔法研究所が開発した魔道具で、


・精神干渉能力の発動禁止

・逃亡の禁止

・反撃以外の他害の禁止


という、ギフト持ちを無害にする3つの命令が仕込まれている


この首輪が開発される前は、外れギフトは見つかり次第その場で処分されていたが、この首輪が開発されてからは制御可能ということで、有効利用しようという流れになっている


後から出てきますが、用語として出て来たので、先に解説しました。



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