08.不審な影
カスパーは横領の罪とビクトリアへの暗殺未遂関与の容疑で拘束され、地下牢へと投獄された。
そして、その夜、思いもしない事件が起こることになる。
* * *
その日の深夜。
王宮の地下牢にて。
カスパーは冷たい牢獄の中を、爪を噛みながらぐるぐると歩き回っていた。
「くそっ! なぜこんなことに!」
「第2魔法騎士団を弱体化せよ」という指示に従い、横領して金欠状態にしてやった。
書類仕事を増やし、訓練の時間を削ってやった。
「魔の森に、『麻痺防止』なしの守護符を持って行かせろ」と指示され、その工作のサポートに全力を尽くした。
全ては完璧だったはずなのに、なぜ自分はこんな場所にいるのか。
「あのシリルとかいう若造の仕業か! もっと注意すべきだった!」
彼は立ち止まると、鉄格子の嵌められた窓を見上げた。
カミソリのように鋭い月が彼を冷たく見下ろしている
彼は焦燥感に襲われて頭を掻きむしった。
衛兵の話では、明日から事情聴取が始まると言っていた。
「なんとかそれまでにここを出なければ!」
――と、そのとき。
コツコツコツ
という足音が聞こえてきた。
音はどんどん近づいてきて、カスパーの牢の前で止まる。
そして鍵を開ける音が響き、扉が開いて男が1人入って来た。
黒いローブを着て顔を隠している。
カスパーは思わずといった風に駆け寄った。
「お待ちしておりました! きっと来て頂けると信じておりました!」
「……声が大きいぞ」
くぐもったような声で注意され、カスパーが慌てて両手で口を塞ぐ。
男がカスパーに尋ねた。
「取り調べは明日からという話だったな」
「そうです! 本当に間一髪でした!」
「シリル・ダミアーニには心を読まれてはいないだろうな?」
カスパーは得意げに胸を張った。
「はい、もちろんです。執務室に来た時も絶対に触られないように距離をとりましたし、それ以降も接触しないように気を付けました」
そうか、と男がうなずいた。
「ならば問題ないな」
カスパーが焦ったように言った。
「私はご指示通りに動きました。助けてくれるのですよね!?」
「もちろんだ。すぐに逃がしてやる」
カスパーが安心したような顔をした。
「それを聞いて安心しました。ささ、早く逃げましょう!」
男が落ち着いて答えた。
「まあ待て。もうそろそろだ」
と、その時、カスパーは体に違和感を覚えた。
ふらりとよろめき、石の床に崩れ落ちる。
男が足早に部屋を出ていく。
そして、その数時間後。
見回りに来た衛兵が、カスパーが冷たくなっているのを発見した。