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07.原因分析


シリルは眼鏡を押し上げると、声を張り上げた。


「それでは、今回の遠征の被害を増大させた原因について、私の方から説明させていただきます」


会議場にざわめきが広がった。


「ほう、原因分析か」

「これは興味深いですな」


といった声が聞こえてくる。


シリルは眼鏡を押し上げると、淡々とこれまでの経緯について説明した。


・何者かが、魔物を引き寄せると同時に人を麻痺させる罠を仕掛けたこと

・守護符に、今回たまたま『麻痺防止』が入っていなかったことにより、被害が拡大したこと


「守護符に『麻痺防止』が入っていなかった理由は、討伐の2週間前に、魔の森で石化攻撃をする魔獣が現われたとの情報があり、『石化防止』を追加する必要があったからです」


何人かが、

「そういえば、石化の魔獣への注意喚起がありましたな」

とつぶやく。


シリルが点頭した。


「はい、その通りです。この情報を聞きまして、我々は守護符店に対して、『麻痺防止』を除いて『石化防止』を入れて欲しいと要請しました――これが討伐2週間前のことです」


しかし、とシリルが眼鏡を上げた。


「調べてみたところ、妙なことが分かりました。守護符店で働く魔法士によると、店は“依頼の1カ月前”から、『麻痺防止』を『石化防止』に変えた守護符を準備していたそうです」


会場が困惑したようにざわめいた。


「事前に作り始めていたということか」

「奇妙ですな」


という声が聞こえてくる。


シリルがうなずいた。


「守護符を作るのには時間がかかります。50人分ともなると1カ月以上かかるので、事前に準備を始めたのでしょうが、問題は、“なぜ事前準備できたか”ということです。まるで、我々が依頼することを知っていたかのようではありませんか」


会場から、


「確かにおかしい」

「何やらきな臭くなってきましたな」


というつぶやきが起こる。


シリルは続けた。


「それと、もう1つ不審な点が見つかりました」


彼は紙入れから紙を1枚取り出した。


――――――――

<魔獣出現の報告>


魔の森付近にて、石化攻撃をする中型の魔獣が出現。

被害者1名、コラン村出身ライアン、右手の石化の実害あり。

速やかな注意喚起が必要。


治安衛兵第2部隊

――――――――


「こちらは実際の報告書です。これを書いた衛兵に確認したところ、片手が石化した男が衛兵詰め所に駆け込んできたそうです。男は商人ギルドの身分証を提示したそうで、直接話を聞こうと商人ギルドに問い合わせたのですが……」


シリルはもう1枚の紙を出した。


――――――――

問い合わせのあったコラン村のライアンは、我が商人ギルドへの登録は確認できませんでした。偽造ギルドカードの疑いがあります。

商人ギルド

――――――――


「そのような人物はいない、という回答を得ました」


会場がざわめくなか、シリルが話を続けた。


「先日、第1魔法騎士団が魔の森を隈なく探索したそうですが、石化の魔獣など影も形もなかったそうです。また、魔法研究所によると、未だかつて魔の森に石化の魔獣が出たことはないそうです」


リリアーナが口を開いた。


「これは本当だよ。出たっていうんでこっちも注目してるんだけど、それ以降被害も目撃証言もないから、本当に出たの? って思ってるよね」


王族であるリリアーナの証言に、会場がシンと静まり返る。

シリルが眼鏡を上げた。


「存在しない男が、いないはずの魔獣の被害を報告してきた。しかも、街の守護符店が、1カ月も前にこのことを知っていた。――不思議ですよね。

まるで何者かが、第2魔法騎士団に『麻痺防止』を抜いた守護符を持って行くように仕組んだかのようです」


誰かが声を上げた。


「その何者かは分かっているのか?」


シリルは首を横に振った。


「いえ、分かってはいません。しかし、我々は関係者らしき人物を突きとめました」


シリルが証言を書いた紙を机の上に置いた。


「守護符店の魔法士によると、2カ月前、1人の男が店にやってきて、『麻痺防止』を『石化防止』に変えた守護符を発注していったそうです。また、この時にお茶を出した女性従業員が、2人の会話に『第2魔法騎士団』という名前が出たのを聞いたそうです」


会場が騒然となった。


「それは決定的なのではないか?」

「誰なんだ、その人物は?」


そんな声が聞こえてくる。


会場中が注目する中、

シリルは息を吐くと、眼鏡を押し上げた。


「その人物とは、カスパー・ワロン、第2魔法騎士団の前文官です」


「――――っ!!!」


シリルの口から出たまさかの名前に、会場が凍り付いた。

ワロン総務大臣が、怒りで顔を真っ赤にして立ち上がった。


「けしからん! こんなものはでたらめだ! 我がカスパーは第2魔法騎士団のために身を粉にして働いていたと聞いている!」


シリルは冷笑した。


「確かにがんばっておられたのは間違いないと思います。しかし、調査の過程で、カスパー前文官がかなりの額を横領していることが発覚致しました」

「なっ!」


シリルは紙入れから資料を出すと、机の上に並べた。


「こちらが証拠になります。彼は守護符店、鍛冶屋、道具屋と専属契約を結び、これらの店に水増し請求をさせていました。そして、その利益の半分を『紹介料』として懐に入れていたことも分かっております」


シリルは眼鏡を上げた。


「こうしたことから、我々はカスパー前文官は、信用に値しない人物だと思っております」


資料を見た出席者たちが「これは決定的ですな」とつぶやきはじめる。


ワロンが真っ青な顔で証拠資料に目を走らせた。

【まさか、まさか本当なのか? あの気の小さいカスパーがこんな大それたことを?】 

そんな心の声が聞こえる。


シリルは静かに口を開いた。


「今回、我々は何者かの陰謀に嵌められたと思っております。そして、この一端を担っているのがカスパー前文官であると考えています」


シリルは、眼鏡を押し上げた。


「よって、我々第2魔法騎士団は、カスパー前文官を、横領および魔の森襲撃事件、そしてビクトリア団長暗殺未遂事件の重要参考人として取り調べることを要求します」


「……っ!!!」


会議場中が息を飲んだ。

あまりの驚きに、誰一人として声が出せない。



――と、そのとき。


ゴーン、ゴーン


鐘の音が鳴り響いた。

会議終了の時間だ。


ビクトリアから【潮時だな】という心の声が聞こえてくる。


シリルは「了解しました」とつぶやくと、円卓を囲んでいる人々に向かって礼儀正しく頭を下げた。


「こちらからは以上になります。あとはお任せ致しますが、宜しいでしょうか?」


治安を司る治安衛兵団の団長が重々しくうなずき、ワロンが真っ青になる。


その後、会議は終了し、ビクトリアとシリルは廊下に出た。

第2魔法騎士団へ向かって並んで歩き始める。


ビクトリアは、そのクールな顔にほんの少しだけ笑みを浮かべると、隣のシリルの背中をバンと叩いた。


【良くやってくれた】


シリルは照れた顔を隠すように少しうつむくと、眼鏡をそっと押し上げた。


「お褒めいただき光栄です」








それからほどなくして、カスパーは横領の罪とビクトリアへの暗殺未遂関与の容疑で拘束され、地下牢へと投獄された。


連行した衛兵によると、彼は、自分は何もしていない、と叫び続けていたという。


そして、その日の夜。

思いもよらない事件が起こる。





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