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04.そこはかともない違和感


第2魔法騎士団本部に帰るや否や、シリルは魔法研究所へと駆け込んだ。


「魔の森で襲撃を受けました!」


リリアーナは不在で、ライラがすぐに動いてくれた。

研究員と共に第2魔法騎士団本部に現れ、寝かされている怪我人たちを見て顔を歪める。


「これはひどい……」


彼女らはすぐさま怪我人の確認を始めた。


真っ先に見たビクトリアには、すぐに家に帰って休むようにと言った。

クールな顔で耐えてはいたが、部下を庇ったときに負った傷の出血が多く、血が足りなくなっているらしい。


もちろんビクトリアは難色を示した。

シリルを通じて、【自分はここに残って働く】と言い張る。


(いやいや、ここは絶対に休まないとダメだろ)


その後、シリルとライラに、

「今無理をするより、よく休んで早く復帰された方が皆さんのためになります」

と説得され、渋々帰宅したが、明日は絶対に来るらしい。


その後、ライラたちは次々に怪我人を見ていった。

怪我を見た後、魔力を流して体内の状況も確認する。


そして、すべての団員の状態を確認し終えると、軽傷の者たちに対する聞き取りが行われた。


彼らによれば、小屋に到着するまでは、いつも通りだったという。


「周辺に異常がないことを確認してから、慎重に扉を空けました」


中はごく普通の避難小屋で、床が濡れてはいたものの、「きっと雨漏りだろう」と特に気にしなかった。


しかし、数名が中に入った瞬間、突然上から何かが降ってきた。

ぶわっと独特な香りが充満し、一気に気分が悪くなったと言う。


「体が急に重くなったという感覚でした」


逃げようとするものの、気が付けば魔獣の群れに囲まれており、戦うしかなかったという。


「しかし、体がどんどん重くなり、仲間が次々とやられ……」


立っているのがビクトリアと数名だけになり、これはヤバいというところにガイアスたちが到着したという。


ライラと一緒に話を聞いていた研究員が口を開いた。


「床の水に魔誘粉をばらまく仕掛けでしょうね。水が少しでも乾くと使えませんから、その商人とやらが直前に仕掛けたのでしょう。――それと、重傷者から軽い麻痺の跡が見つかっています」


研究員曰く、魔誘粉の中に麻痺させる成分も入っていたのではないかということだった。


「守護符はどうされていたんですか?」


ライラの問いに、ガイウスがため息をついた。


「石化の魔物が出るってんで、今回は、『麻痺防止』を外していたんだ」


シリルはゾッとした。

麻痺した状態で、あの数の魔獣に襲われて、よくぞ死人が出なかったものだと今更ながら震えがくる。




そして、ライラが帰る際に、シリルはハンカチに包んだ小箱を渡した。

件の箱です、と囁くと、「分かりました」と真剣な顔でうなずかれる。




――そして、日が暮れて、

片づけを一段落させたシリルが、今日はもう帰ろうと執務室に戻っていると、疲れた顔のガイアスが歩いてきた。


その只ならぬ顔に、どうしたのかと問うと、ガイアスが深刻な顔でため息をついた。


「今、王宮で事情聴取を受けて来たんだが、ヤバいことになるかもしれねえ」


呼ばれて行ったところ、文官がずらりと並んだ部屋に連れ込まれて、根掘り葉掘り討伐の様子を尋問されたという。


「なんか、団長のあら捜しするような質問ばかりでよ。まあ何とか上手いこと答えてきたつもりだが、下手すると団長の責任問題になるかもしれねえ」

「え? 責任問題? ビクトリア様は何も悪くありませんよね」


ガイアスがにがにがしく言った。


「団長は悪くねえが、アイツらは犯人捜しが何より大事なんだ。そのせいで、半年前に何も悪いことをしてねえ前団長が左遷された」

「え、左遷?」


報告よりも魔獣が多くて被害を被っただけにも関わらず、前団長は厳しく責任を問われて左遷されたらしい。


「でも、ビクトリア様は国の守護の要でしょう?」

「ああ、その通りだ。でも、国の守りの要は王都にいなくてもいいって連中も多いんだ。例えば辺境の暗黒森林とかな」


シリルは無言になった。

辺境の暗黒森林と言えば、強力な魔獣が多くいると言われている地だ。

そこから魔獣が溢れるのを防ぐため、罪人が兵役として戦わされているらしい。


ちなみに、前団長は別の東の国境の最前線に送られたという。


(なんだよ、それ)


シリルは眉をひそめた。

まさかビクトリアもそうなるのか? と不安な気持ちになる。




――そして、1時間後。


シリルがビクトリア邸に戻ると、心配顔の使用人たちが出迎えた。

ビクトリアが部屋にこもったままらしい。


心配になってビクトリアの部屋に近づくと、ドアの向こうから彼女の心の声が聞こえてきた。


【私がもっと油断しなければ、もっと強ければ、あそこまでの被害はなかったかもしれないな……】


聞こえてくるのは自責の言葉だ。


どうやら、今回の被害の多さは自分の不甲斐なさが大きかったと思っているらしい。


シリルはやるせない気持ちになった。


この3週間、彼女がずっとひたむきにがんばっているのを見てきた。

今日だって、彼女がいなければ全滅していたと思う。

それなのに、彼女自身は自責の念に苛まれ、周囲は彼女の責任を問うている。


(どう考えてもおかしいだろう)


悪いのはこんな事態を引き起こしたヤツらなのに、なぜ彼女がこんな理不尽な思いをしなければならないのか。


シリルは強く思った。

何としてでも彼女を助けたい、と。



(それに……、なんか引っかかるんだよな……)



暗い廊下で、シリルは考え込んだ。


今回の件は、たまたま守護符の麻痺防止の効果を除いたら、たまたま麻痺の粉が撒かれた、ということだ。


(なんか、“たまたま”が重なり過ぎてやしないか……?)


たまたま、と思えば、たまたまだ。

でも本当にそうなのだろうか。


シリルは眼鏡を拭きながら思案に暮れた。

心の中に引っかかりを感じる。


(……明日、ちゃんと調べてみよう)


彼は眼鏡をかけると、片手で押し上げた。

ビクトリアの部屋に向かって「ゆっくり休んでください」とつぶやく。


そして、自分の中の情報を整理しながら、暗い廊下を歩いて自室へと戻っていった。






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