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01.いざ討伐へ


少し長めです。


シリルの討伐への参加は、比較的あっさり決まった。


魔法研究所から正式に「新回復薬の試用実験依頼」が出されたことにより、

「まあそれなら仕方ない」と、全員が納得したらしい。


ビクトリアだけは【心配だ】と難色を示していたが、絶対に危ない真似はしないことを条件に渋々同意。


シリルは試用する回復薬を携え、後方の拠点で待機することになった。




――そして、討伐当日のまだ夜が明けきらない早朝、

馬に乗ったシリルが、第2魔法騎士団と共に王都の郊外へ向かっていた。


行き先は「魔の森」と呼ばれるところで、半年に1回行われる定期魔獣討伐だ。

今回参加するのは、第2魔法騎士団の約半分にあたる騎士魔法士50名。

第1魔法騎士団と手分けして討伐を行うらしい。


(結構大規模だよな)


馬に揺られながら、シリルは前方をながめた。

先頭には、馬に乗るビクトリアの姿がある。

美しい銀色の鎧を身に付けており、艶やかな黒髪と青いマントも相まって、とても凛々しい。

今日は森だからか、大剣ではなく双剣を身に付けており、朝日を浴びて銀色に輝いている。


(本当にかっこいいよな)


先日街を楽しそうに歩いていた女性と同一人物とは思えない。

切り替えがすごいと思う反面、実は無理しているのではないかと、チラリと思う。




――と、そのとき、後ろから女性の声がした。


「シリルさん、大丈夫ですか?」


馬で近づいてきたのは、見習い魔法士のミルフィだ。

雑用係と勉強を兼ねて同行しているらしい。


シリルの腕に光る腕輪を見て、目を丸くした。



「それって、守護リングですか?」

「ああ、リリアーナ様に貸し出された」



そうですよね、とミルフィがうなずいた。



「何かあったら困りますもんね」



ちなみに、ミルフィ曰く、前回は軽症者が多かったらしい。



「ネズミ型の魔獣の群れが出たみたいです」



苦手な動物の名前に、シリルは思わず身震いした。

今年は出ないで欲しいな、と密かに思う。



ちなみに、周囲はというと、どこかシリルに警戒している感じで、たまに聞こえてくる心の声も



【てっきり馬車を出せと騒ぐかと思った】

【食事とか我儘言いそうだな】



など何とも微妙なものばかりだ。


(……この変な文官のイメージ、たぶんカスパーさんの影響だろうな)


あのオッサン、よっぽど偉そうだったんだろうな、と内心苦笑いする。



そんなことを考えているうちに、遠くに空き地が見えてきた。

すでにたくさんの騎士や魔法士たちが集まっており、金色の鎧が朝日を受けて輝いている。



「あれは第1魔法騎士団ですね」



ミルフィが小声で教えてくれる。


シリルは内心苦笑した。

こちらの汚れて古びた鎧に対し、向こうの鎧は光り輝いている。


(予算の有無が如実に表れているな)


そんなピカピカの第1魔法騎士団を見て、シリルの周囲が殺気立った。

向こうもこちらに気が付き、馬鹿にしたような顔で睨んでくる。


(……これは相当仲が悪そうだな)


そして、先頭のビクトリアが空き地に到着すると、向こうの騎士団が動く気配がした。


光り輝く集団の中から、一際目を引く金髪の男がゆっくりと現れる。

金色の鎧に赤いマントを羽織った、まるで王子様のような雰囲気の美丈夫だ。


彼は、見る者を魅了するような優しげな笑みを浮かべながら、ビクトリアに近づくと、恭しく礼をした。


ミルフィが、まるで物語の登場人物を紹介するように、囁いた。



「あの方が、第1魔法騎士団の団長、フィリップ様です」



彼女によると、彼は侯爵家の子息で、『俊敏』のギフト持ちらしい。



「すごく強いんですよ。あっという間に魔獣を蹴散らしてしまうんです。それなのに全然偉そうじゃなくて、いつも笑顔で優しくて紳士で、気さくに声を掛けてくれるんです! それから……」



うっとりとしゃべりまくるミルフィは、どうやら彼のファンらしい。



そんな中、フィリップが心配そうな顔でビクトリアに何か話しかけた。

彼女の反応を見て、完璧な笑みを浮かべる。


ずいぶんと親密そうだな、とシリルが思っていると、

ミルフィがヒソヒソ教えてくれた。



「お2人は、実は恋人同士なんじゃないかっていう噂もあるんですよ」



そう聞いて、シリルは改めて2人をながめた。

王子様風の美男子に、クール系の美女。

確かにお似合いのカップルという感じがする。


(ビクトリア様には、ああいう何もかも持っているような男が合うのかもな)


そんなことを思いながら目を逸らす。


しばらくして、ガイアスがフィリップと何かを話し始めた。

熱心に何かを相談している雰囲気だ。



そして、ガイアスが、くるりとこちら側を振り向いた。



「今年は南側だ!」



団員たちが「おう!」と返事をする。

シリルも小さな声で返事をし、――ふと、フィリップと目が合った気がした。

視線を合わせると、すぐに目を逸らされる。


(……気のせい、かな。特に面識もないしな)





――その後、ビクトリアを先頭に、シリルたちは再び移動を開始した。

30分ほど進み、ようやく大きな森の入口にある広場に到達する。


ガイアスの声が響いた。



「ここに拠点を作るぞ!」



どうやら、ここを拠点に、何度かに分けて森に入るらしい。


シリルは他の騎士に倣って、馬を降りると手綱を木に結び付けた。

ビクトリアの方を見ると、目が合う。

どうやら気にしているらしく、表情はクールだが目の奥に気遣うような色を浮かべている。


(優しい人だな)


大丈夫だと伝えるように軽く頭を下げると、安心したように、すっと目をそらされる。


その後、全員が空き地に整列した。

シリルが一番後ろに控えめに並ぶと、前方でガイウスが声を張り上げた。



「2週間前に、この森でカエル型の石化の魔獣が出現した! 対策はしているが、十分注意しろ! 見つけ次第討伐するように! それと……」



大きな声で、次々と注意事項を上げていく。


騎士や魔法士たちが熱心に耳を傾け、場の雰囲気が熱気を帯びていく。


そして、最後に守護符が配られた。



「各自この場で確実に装備しろ! 予備もあるから、発動が甘いやつはすぐに申し出ろ!」



守護符は、魔力を通じて約半日、3種類の状態異常攻撃を防ぐことができるアイテムだ。

比較的安価で手に入るため、よく使われている。


シリルが受け取ったそれは、親指ほどの大きさの札で、特殊なインクで、『毒防止』『盲目防止』『石化防止』の3つの魔法陣が描いてあった。


(なるほど、石化対策はこれでバッチリってわけか)


リリアーナから借りた守護リングがあるものの、シリルは一応言われた通り守護符に魔力を通した。

ぼうっと軽く光るのを確認し、肌着に付いているポケットに入れる。


(みんながいるから大丈夫だと思うけど、気を付けないとな)


気を引き締めなければと気合を入れる。




その後、ガイウス主導でチーム分けが行われた。

どうやら、3チームに別れて順番に森の中に探索に行くらしい。


先行して、ビクトリアを含む15名ほどが森の中に入っていく。

少し入ったところに避難小屋があるらしく、チェックしに行くらしい。


さすがに森の中までは付いていけないため、

シリルは、設営や料理の準備をしている見習いたちの手伝いを始めた。


野菜を切っていると、ミルフィが感心したように声を掛けてきた。



「シリルさん、手慣れていますね」

「実家にいた時、よくこんな感じで食事の準備をしていたんだ」



父の領地で、騎士たちと共に中庭で料理をした記憶が蘇る。


そのうち、鍋から香ばしい匂いが漂ってきた。

何人かが待ちきれない様子で鍋の周りに集まり始める。


ガイアスが声を張り上げた。



「お前たち、団長が戻ってきてからだぞ」

「ちぇ、出来立てが旨いのによ!」

「本当だぜ」



団員たちが、そんな軽口を叩いていたそのとき、

森の奥から微かな音が聞こえてきた。


振り向くと、そこに現れたのは小さな荷馬車を引いた商人のような男だった。

騎士たちがいるのを見て、愛想よく挨拶をする。



「何だ、紛らわしいな」

「団長かと思った」



団員たちがぶつぶつ言いながら、商人から目を離す。


そんな中、シリルがジッと商人を見つめた。


(……あの商人、妙だな)


頭に巻いている布と顔立ちは外国のものなのに、服や身に付けている物が全てこの国のもので、それが妙にアンバランスだ。

若干ガラの悪い第2魔法騎士団に向かって、怖気ずきもせず気軽に挨拶するのも不自然な気がする。


何となく嫌な予感がして、シリルは立ち上がった。

物を取りにいくふりをしながら商人に近づく。


そして、その瞬間。

シリルは鳥肌が立つような感覚を覚えた。

それと同時に、商人が外国語でつぶやく声が頭に響いてきた。



【――いくらでも待つがいいさ。あんたたちの待つ団長さんは、今頃死んでいるかもしれんがな】



シリルは思わず息を呑んだ。

団長とは、明らかにビクトリアのことだ。


(何かが起きた!)


彼は大声で叫んだ。



「この男を捕まえてください、ビクトリア様に何かしました!」






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