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10.12日目の疑問


シリルが第2魔法騎士団に配属になってから12日後。

彼はリリアーナとライラと共に王宮のティーサロンにいた。


王族専用とのことで、やたら豪華なのはもちろん、防音性もバッチリらしい。


シリルから3メートルきっちり離れたところに座ったリリアーナが、シリルが渡した報告書をながめた。



「なるほど、つまり怪しい奴がいなかったということだね」

「そうなります」



この12日間、シリルはビクトリアに同行して周囲の人間の心を読んだ。



憧れを持っている者。

恐れを持っている者。

生意気な小娘だと思っている者。



色々な人間がいたが、ビクトリアに対して害意を持っている者はいなかった。


もう少し突っ込んで聞いてみた方が良いかもしれないと思い、

家の使用人たちに、それとなくビクトリアが喋れなくなった理由について尋ねてみたのだが、心当たりがある者はいなかった。


騎士団本部内にいる使用人や、執務室に頻繁に出入りするミルフィやその他の見習いも同様で、みんな心配はしているものの、思い当たるような節はないようだった。



「なるほどねえ」



リリアーナが腕を組んで考え込んだ。



「となると、一緒に戦っている騎士や魔法士が共犯者の可能性もあるということだね」

「……そうなりますね」



ビクトリアとの関係は良くなってきているが、基本的に第2魔法騎士団は文官嫌いだ。

特に騎士や魔法士は、シリルのことを露骨に避けているため、今のところ心を読む機会が少ない。



「今後は、彼らと積極的に接触していこうと思っています」

「そうだね」



リリアーナがうなずく。


そして、「何でもいいから他に気になることはないか」と尋ねられ、シリルが苦笑した。



「実を言うと、気になることだらけです」

「ほう?」



リリアーナが面白そうに目を細めた。



「なんだい?」

「まず気になっているのは、書類仕事の細かさです」



ライラが目を軽く見開いた。



「それは意外ですね。王宮内では、第2魔法騎士団は大雑把なことで有名でしたから」

「私の見立てでは、かなりキッチリしていると思います」


(……正直キッチリしすぎてると思うんだよな)



騎士や魔法士の彼らが、書類仕事にあれだけの時間をかけるのは、絶対に無駄だと思う。


リリアーナが興味深そうにつぶやいた。



「へえ、大雑把でサボってばかりという名高い第2魔法騎士団が、実は物凄くちゃんとしてたってわけか。前の文官は誰だっけ?」

「カスパーさんです」



ああ、とリリアーナが頬杖をついた。



「あの厭味ったらしいワロンの甥か」



シリルは驚いた。

ワロンといえば、いつもビクトリアに嫌味を言う総務大臣だ。


(そういえば、体形とか髪型とか似ている気がする)




そして、他には気になっていることがないかと問われ、シリルは答えた。



「言いにくいですけど、お金が全然ないことです」



これは、担当文官として予算管理をしようとしたところ発覚した。


魔法騎士団は、第1と第2があり、それぞれ独立運営となっている。

給与は王宮から支払われ、その他について年に1度予算が与えられ、それをやりくりすることになっている。


しかし、これが物凄くカツカツなのだ。

日々の経費や遠征費を払ったら底をつくような状態で、建物も備品もボロボロだ。


この状況に、シリルはかなり驚いた。

天下の魔法騎士団がまさかこんな金欠状態だとは思わなかったからだ。


第1魔法騎士団もこんな感じかと思っていたのだが、先日用事があって第1魔法騎士団の本部に行った時、シリルは衝撃を受けた。



「全然違う!」



建物は新しくてピカピカだし、訓練用の設備もピカピカ。

同じ魔法騎士団とは思えない。


このことをリリアーナに尋ねると、「それはそうだよ」という答えが返ってきた。



「だって、第1は団員の実家から援助があるもの」



どうやら、騎士団は身分によって分けられており、第1が上級貴族、第2が平民および下位貴族という風に分けられているらしく、金回りが違うらしい。



「ただ、予算と成果は比例してないようですよ」



ライラの話では、第2騎士団はビクトリアを中心として活躍しており、第1よりも成果を上げているらしい。



「その目覚ましい活躍に、彼女を次期魔法騎士団統括に推す声が上がっているそうです」



確かにがんばっているもんな、と思うシリル。

ビクトリアのがんばりを近くで見ているだけに、成果が出ていると聞いて嬉しくなる。


リリアーナは立ち上がった。



「とりあえずは、心を読む範囲を広げることにしよう。――確か来週、魔の森で魔獣討伐の予定があったよね?」

「はい」



シリルはうなずいた。

王都から少し離れたところにある「魔の森」という深い森に魔獣が生息しているらしく、定期的に討伐して数を減らす必要があるらしい。

これについては、さすがに危険だということで、シリルは留守番することになっている。


リリアーナがにっこり笑った。



「じゃあ、私から話をつけておくから、それに参加してくれ」

「…………は?」



シリルが固まる横で、ライラが眉をひそめた。



「それはさすがに危険です。第2魔法騎士団もきっと反対します」

「なあに、シリル君に回復薬を持たせて、『新しい回復薬の使用実験がしたい』とか適当に理由をつければいいよ」



ライラがジト目でリリアーナを睨んだ。



「そういう問題ではありません。シリルさんは文官なのですよ!」

「じゃあ、“守護の腕輪”を貸すよ。あれがあれば問題ないでしょ」

「大ありです!」



2人の攻防を聞きながら、シリルはため息をついた。

きっとライラは丸め込まれ、魔獣討伐に付いて行く羽目になるのだろう。


(行きたくないけど……まあ、行った方が効率はいいよな)


遠征に行けば、騎士や魔法士たちと自然と接触できる。

言葉を話せないビクトリアの助けにもなれるかもしれない。


(覚悟を決めるか)




そして、案の定ライラはリリアーナに丸め込まれ。


その2日後。

シリルは「魔術研究所から提供された回復薬を試す」という名目で、来週の遠征に参加することが決まった。






※守護の腕輪


毒、麻痺、石化など、魔獣が仕掛けてくるあらゆる状態異常攻撃から身を守ってくれる腕輪。

大変高価で、王都で立派な家1軒買えるくらいする。


後から出てきますが、説明が少し先なので、用語として一応解説です。


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― 新着の感想 ―
後書きに「大変効果」とあるのは、「大変“高価”」の誤字ではないかなと思います。後書きは誤字報告できないので、感想欄にて失礼しますね。 誤字報告だけなので、修正後は削除して頂いて構いません。誤字ではなか…
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