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09.魔法書店


街を歩いていると、突然、


【魔法書店に寄っていくか】


というビクトリアの声が聞こえて来た。


彼女の視線の先に目をやると、そこには立派な門構えの古めかしい店があった。

古びた看板を見ると、『魔法書専門店グリモア』とある。


(おお、まさかの魔法書店!)


魔法書店とは、魔法に関する本だけを集めた特別な書店だ。


魔法を使うためには、体内の魔力量が一定以上である必要がある。

また、魔力が十分でも、魔法を使うにはたくさんの知識が必要で、魔法士になる者は膨大な量の本を読まねばならない。


この魔法書店は、そんな魔法士のための特別な書店で、普通の本屋と比べて本の数が桁違いに多い。


本屋の看板を見上げながら、シリルの胸は高鳴った。

彼は残念ながら魔力量が多くなく、魔法は使えない。

しかし、魔法の本は大好きで、家にあった魔法書を読んでは自分も使えたらいいなと夢見ていた。

使えないクセにと、からかわれながらも、自分で魔法書を買うこともあった。


(まさか王都の魔法書店に来られるなんて)


明らかに浮足立った様子のシリルを見て、ビクトリアが不思議そうな顔をする。


(いかんいかん)


彼は眼鏡を押し上げた。

自分の任務はビクトリアに害意を持ったものがいるのを探ることだ。


彼は心を落ち着かせながら店の扉を開けた。

ビクトリアが入った後から扉をくぐると、プンと古い本の匂いがしてくる。


そして店内に入り、彼は雷に打たれたように立ち尽くした。


高い天井に、ぎっしり本が並んだ背の高い本棚。

店内は薄暗く、真ん中には2階に行くための古びた螺旋階段がある。


ダミアーニ領の魔法書店とは比較にならない規模だ。


(すごいな……)


ポカンと突っ立っているシリルを見て、ビクトリアがクールな顔に面白そうな色を浮かべる。


彼は慌てて眼鏡を押し上げると、彼女の後に付いて店の中を歩き始めた。

魔法士のローブを着た人々が静かに本を見ている。


ビクトリアは奥の本棚の前で足を止めると、本を見始めた。

シリルはその後ろに立って本棚を見上げた。


(へえ、雷系か)


以前、とんでもない威力の炎系の魔法を使っていたので、

てっきり炎系の魔法に特化しているのかと思いきや、どうもそうではないらしい。


ビクトリアが分厚い本を手に取って開いた。



【読みにくいな……】



という心の声が聞こえてくる。


シリルは後ろからそっと本をのぞき込んだ。

文章の中に外国由来の言葉が混じっており、確かに読みにくそうだ。


大好きな魔法書のことになると黙ってはおれず、

シリルは本棚から別の1冊を探し出すと、押しつけがましくならないように口を開いた。



「ビクトリア様、そちらの本は外国語が混じっていて読みにくいと思われます。こちらの方はどうでしょうか」



ビクトリアの冷静な顔に驚いたような色が浮かぶ。

そして、渡された魔法書を少し読んで、驚いたような目でシリルを見上げた。



【確かに読みやすい】



そして、腕に触れられて【もしかして魔法士なのか?】と問われ、シリルは思わず苦笑した。



「いえ、私には魔法士になれるほどの魔力はありません。ただの魔法書好きです」



ビクトリアの目の奥に不思議そうな色が浮かぶ。


【魔法を使わないのに魔法書が好きだなんて変わっているな】


「まあそうだよな」と心の中で自嘲しながら、シリルが尋ねた。


「失礼ですが、ビクトリア様は何の魔法書をお探しなのですか?」

【――雷系の魔法書だ。少し使える程度なので、改めて理論を勉強したいと思っている】


「なるほど」とシリルが思案に暮れた。



「入門書とその次くらい、というところですか」

【――ああ、その通りだ】

「では、店員に聞いてみましょう」



シリルは、店員であるローブを着た白髭の老人を捕まえた。

ビクトリアの注文を言うと、老人が本棚から本を1冊手に取った。



「ふむ、ではこちらの本ではどうかの?」



ビクトリアが中を開き、シリルがそれをのぞきこむ。


【……もう少し難しくても良いな】


シリルがそれを伝えると、老人が奥から本を持ってきた。

ビクトリアがそれを見て、満足そうな顔をすると、シリルの腕に触った。


【私が求めていた本はこれだ】



シリルは思わず口角を上げた。

他人事ながらぴったりの魔法書を見つけたことに喜びを覚える。


その後、老人が本を包んでくれるのを待ちながら、シリルは傍の本棚をながめた。

とある本が目に留まる。


『空想魔法理論 下巻』


おお! とシリルは思わず本を手に取った。

以前読んで続きが読みたいと思っていた本だ。


夢中で中身を読んでいると、ビクトリアがやってきた。

シリルの読んでいる本を見て、訝しげな表情で腕に触れる。



【それは外国語ではないか】

「多言語を使う土地で生まれ育ったので、大抵の言葉は読めるのです」



シリルの答えに、ビクトリアが驚いたような顔をする。



【思った以上に頭が良いのだな】



という心の声が聞こえてくる。

そんなこともないけど、と若干照れながらシリルは本を戻した。


時計を見るとかなり時間が経っている。

どうやら結構な時間立ち読みをしていたらしい。


(しまった、ついつい夢中になってしまった)


シリルが、バツが悪そうに「すみません、つい」と謝ると、

ビクトリアの顔に、ほんの少しだけ笑いを堪えるような表情が浮かぶ。




その後、2人は魔法書店を出た。


以前よりも少し近い距離で並びながら、にぎやかな街を歩く。


そして、街の外れで待っている馬車に乗り込むと、本部へと戻っていった。





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