(閑話)第3王女 兼 魔法研究所所長リリアーナ
シリルが出て行ったあと、リリアーナは机に頬杖をついて座った。
(いやー、これから楽しみだ)
彼女の脳裏に浮かぶのは、ここ1カ月ほどの出来事だ。
*
1カ月前、彼女が魔法の実験を行っていると、副所長のライラがやってきた。
「リリアーナ様、外れギフトが出たそうです」
「へえ!」
リリアーナは実験道具を脇にやり、目を輝かせた。
「ギフトの名前は?」
「読心だそうです」
「おお、それはすごいね。20年ぶりか。もちろん生かして連れて来るんだよね?」
「はい。隷属の首輪を付けて、こちらに向かっているそうです」
リリアーナは興奮を隠せなかった。
10万人に1人に与えられるというギフト。
現在確認されているものは12種類で、「超魔力」「超記憶」「剛腕」など、多くは人間の能力を飛躍的に高めるものだ。
しかし、その中には少し異質なギフトもあった。
「読心」「誘惑」「操心」の3つの精神系ギフトだ。
これらは「外れギフト」と呼ばれ、エレシア王国では危険視されている。
理由は、100年前にこのギフトを持つ者たちが国家転覆を企て、王室を危機に陥れたからだ。
その後、国王は外れギフトを発見次第、すぐに処分してきた。
「成人の儀」は、貴重なギフトの発見を目的としているが、実際には外れギフトを見つけて処分するための意味合いが強い。
(まったく、身内ながら、愚かなことこの上ないねえ)
リリアーナは、外れギフトが非常に強力だと考えている。
たった3人で国家転覆を狙えたほどの力だ。うまく使えば国益を生み出し、その研究は新たな魔法開発に繋がると考えていた。
そのため、彼女は約5年前に『隷属の首輪』を開発した。
この首輪は「精神系ギフトを封じ、登録された命令に逆らうことができなくなる」もので、王族と指定された者以外は外せない。
その効果が証明され、外れギフト持ちを処分する制度は廃止された。
(まったく、ここまでしなければ駄目なんて、どこまで臆病なんだよ)
――そして、外れギフトが出たという知らせを受けてから5日後、
リリアーナは大神殿へ向かった。
ギフトは神に授けられるため、最初に神殿に預けられる。
王族自ら外れギフトを調査するわけにはいかないため、フードを深くかぶり、ただの魔法士として訪れた。
そこで、リリアーナは外れギフトを持つ青年シリルを見て驚いた。
(今までの外れギフト持ちとはずいぶん違うね)
過去の2人の外れギフト持ちは、どちらも大泣きして運命を呪っていた。
しかし、この青年は落ち着いていた。
頭の回転も速く、受け答えも的確で、調査はスムーズに進んだ。
(もしかすると、国賊ビスマスもこんな感じだったのかもしれない)
そして、分析を終えたリリアーナは、驚くべき結果を得た。
(すごいな、まさに国賊ビスマスだよ)
青年は、触れなければ能力が発動しないという定説を覆し、半径2~3m以内の人間の心を読める能力を持っていた。
(この青年が能力を開花させたら、どうなるんだろう)
研究者としての好奇心が刺激された一方で、能力を開花させるのは難しいだろうと考えた。
開花させるには、少なくとも半年は首輪なしで生活する必要があるからだ。
(まあ、さすがにそれは無理だよね)
それでも、この青年は研究対象として非常に興味深い存在であり、リリアーナは彼の能力を少し改ざんして報告した。
国賊ビスマスと同じだと報告すれば、彼は処分されかねないからだ。
その後、シリルの処遇はリリアーナの手を離れ、王宮の上層部で議論が始まった。
シリルの能力を利用すべきだと主張する者がいれば、危険だと反対する者もおり、なかなか結論が出ないらしい。
(くだらないなあ)
そんな中、大きな事件が発生した。
国の守護者である第2魔法騎士団の団長、ビクトリアが呪いにかけられ、意思表示ができなくなってしまったのだ。
王宮は急いで魔法研究所に解呪を命じたが、未知の呪いを解くのは非常に困難だった。
(せめて術者が分かれば…)
その時、リリアーナは閃いた。
ビクトリアの近くには、生活習慣を知る共犯者がいるはずだ。
その共犯者を探し出せば、解呪の手がかりが得られる。
(彼のギフトが最適だ!)
シリルの「読心」の能力があれば、共犯者を見つけることがきっとできる。
そして、もしシリルがこの仕事を引き受ければ、首輪を外して生活することになる。
そうすれば、彼の能力が開花するかもしれない。
「これだ! これしかない!」
リリアーナは素早く行動に移した。
ビクトリアを赤い帽子の存在で納得させ、同じ方法で王宮の長老たちを説得した。
かなり強引に王族パワーを使って物事を進めていく。
そして、彼女はシリルの管理権を手に入れると、彼を呼び出した。
*
彼の嫌そうな顔を思い出し、彼女はクスクスを笑った。
(まあ、これも国の平和と魔法の発展のためだから、仕方ないよね)
彼女はシリルが消えた扉を見ながら、笑みを浮かべた。
「さてさて、これから楽しみだ」
本日はここまで&第2章終了です。
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