ガブリエラちゃんの報告
アイスゴニア王国は、王子と聖女の結婚式が国のピークだったと言えるだろう。
違う、王族と聖女の人気のピークか。
王族は祝典などがあれば集まった国民に王城のバルコニーから挨拶をする。そしてその時には、国内の要所要所にて魔術師が空に巨大な水球を作り上げ、全国民がその情景を見られるようにするのが習わしである。
ここまで書けばお気づきだと思うが、国一番の魔術師はその習わしを利用して、彼が愛する乙女の不幸を全国民に知らしめたのだ。
大聖堂を破壊して知らしめるよりも、平和的で、効果的であった。
誰もが不幸な恋人達の受難に涙し、誰もがそれを招いた権力者に怒りを抱いたのである。
そして王家は、美しい聖女に懸想したイアンの嫌がらせだと、全部嘘だと必死に打ち消しの声明を上げ続けたが、それは逆効果にしかならなかった。
「女は怖いな」
一連の事件の流れを自由研究として第三者的にまとめている私に対し、私の書いたレポートを勝手に読んでいる私の同級生で幼馴染で親友は聞き捨てならない台詞を溜息交じりに漏らした。
「どういうこと? イアン先輩が恋していた本物の聖女、サニア様への侮辱は許しませんよ?」
「うーん。君こそ怖いな。本当だったら大魔術師様の方を様付けじゃない?」
私は、う~んと考え込んだ振りをして誤魔化した。
あの大事件の日に私の中にサニア様の意識が入り、それで、イアンに対して私が気さくにブンブン拳を振り上げていたから、なんていくら親友でも言えない。
あの後も時々会って、なんか妹認定されたイアンに揶揄われ、自分に戻った私でもやっぱりイアンに拳をブンブン振り回しているのである。
うん、もう、お兄ちゃん、と言う感じだ。
あの日まで、我が国の大魔導士はひと睨みで人を火柱に出来るって、信じていたぐらいに畏敬の人だったのに、ちょっと残念な兄的な人になるとは。
「サニア様は綺麗でも聖女様ほどじゃなくて、でもって誰もが憧れるぐらい綺麗な顔立ちのイアン様が選んだのがサニア様ってところが女性の夢なんだろうな」
「ぶわ~か。そんなんだから君は駄目なんだよ? 女は顔だけど顔だけじゃねえ、って、お兄様も言っていたわ!!」
「君って一人っ子だったよね?」
私はお喋りな口元を押さえ、親友に笑って誤魔化した。
サニア様の不幸は自分の恋心を誤魔化していたから、と仰っていたから、私は次にあのお二人と会う時はこの親友も連れて行こうと考えた。
親友から恋人になって欲しいなって、そんな気持ちが通じるように。
「で、その男は誰?」
「はへ?」




