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祝いの鐘が鳴り終わるまでに  作者: 蔵前
全てを破壊したいほど愛している
6/9

仲良し六人組で男性達は全員同じぐらい美男子で全校生徒の憧れだったけれど、女性達二人は全く同じぐらいじゃ無かった。

片方は太陽の光で出来上がったような金色の髪に空色の美しい瞳をした美女。

もう片方は、茶色の影と呼ばれるだけの地味な女。


シレーナはまるで澄みわたった青空のような透明感のある美女だった。

中身は親友だと思っていた相手を平気で裏切ったりできる人だったけど。


「君は帰りな。ガブリエル。爆発しても被害は聖堂だけだ。一般人には被害はないから安心して帰りなさい」


「いやいやいや。聖堂にいる人達は死んじゃうだよね?」


「ハハハ。死んだ方がいい奴らなんだから気にするな」


「でも、聖女様は――」


あなたの最愛の人でしょう?

ねえ、私が愛したイアン様。


「ぐふ」


私の口から踏みつぶされた蛙の声が出てしまったのは、イアンのせいだった。

私が聖女と言ったせいなのか、イアンの顔付きが変わったのだ。

全てを受け入れる微笑みなんかじゃない。

全てを破壊することしか考えない、魔王、みたいな逝っちゃった顔付だ。

それでも今日で一番素晴らしき顔に見えるのはなぜだろうか。


「い、いあん?」


「帰るんだ。これは俺の復讐だ。俺が愛したひまわりによく似た君は生き延びろ。こんな汚い人間の思惑から遠い所に居続けろ」


え?


私の頭の中は真っ白になった。

だって、愛したひまわりってイアンが言った。

聖女を例える青空じゃない。

シレーナと一緒の私に対し、バラと雑草なんて揶揄われた私に対し、イアンは私がひまわりだって言ったのだ。


「雑草? お前はそんなか弱くねえよ。凶器にも良さそうなひまわりだ」


「さいあくー!!」


私はやっぱり殴りかかっていたかもしれない。

酷い、と言いながらも、彼が好きな花がひまわりだって知ってたから、それでとっても嬉しい気持ちが押えられない心のまま、殴りかかっていたかもしれない。


でも今は。


「ひまわり?」


「ああ。俺の愛した女。濡れ衣を着せられて殺された女だ。違うな。国が望む勇者一行の能力不足を補うために生贄にされた哀れな女だ。俺はね、あいつの不幸を助けられなかった。俺が不在の時にあいつは囚われ、俺の知らない場所に隠された。あいつの居場所を探るために、あいつを助けるために俺はこの国の大魔術師になったというのに、俺のその力こそあいつのものだった。わかるか?」


「わか、わからない」


「わかれよ。俺がやろうとしていることは、あいつを殺した奴らをこの場所に埋めるだけだ。埋まったあいつらを助けるために、みんなしてここを掘るだろう。そして知るのさ。哀れな本物の聖女が殺され埋まっていた、その事実をね」


私は、はひゅっと、息を吸い込んでいた。

イアンが愛していたのは、私?

イアンは私を助ける為だけに生きていた?


でもって、あなた、あなたが考える私の居場所って!!


「さあ、ガブリエラ。帰りなさい。こんな男と心中しちゃいけない」


「あなただっても」


「ガブリエラ?」


「あなただっても死んじゃいけない。お願いだから、私以外の女の為に死のうなんてしないで!!」


「ガブリエラ?」


「私を愛しているなら私を助けに来てよ!!」


「ガブリエラ?」


「私はそこに埋まっていない。誰も知らない大聖堂の地下なんかに私を埋める人なんかいないでしょう? こんな場所があるって知っている人なんか、あなた以外今までいなかったのだから!!」


イアンは目を見開いた。

それから彼が私が埋まっていると思い込んでいたらしき地面を見返し、それから天井の自分が作り上げた術具を見つめる。


いいえ。

彼が見つめるのは天井のその上、結婚式を挙げている大聖堂かもしれない。


「あいつらは、あいつらは、俺のひまわり、サニアをどこに埋めやがった」


「イアン!!あなたが作ったあれを壊して。それでガブリエラと一緒に逃げて。それで、ええ、それで、私を迎えに来て」


「あいつらを殺してもいいだろう? どうしてあいつらを助ける?」


「あんな奴らの為にあなたが汚されるのが嫌なだけよ。私はあなたと私がいつまでも幸せに暮らしましたって結末こそ欲しいの」


私はイアンに抱きしめられた。

そして彼は、俺もだよ、と言った。

その次に起きた事は、天井の忌まわしき球体が一瞬に粒子みたいになって消え、そして私とイアンが青い光の中に包まれた、ということだ。


私はイアンの腕の中で最後の鐘の音を聞いた。

まるで、私達に捧げられたもののようにして。

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