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祝いの鐘が鳴り終わるまでに  作者: 蔵前
暗闇の中で明かされた秘密
4/9

見えたのは彼の肌に刻まれた魔法陣の一部であるが、その印は私には十分すぎる程によく知っている呪いの印であった。


「それは枷なんかじゃ無いわ」


それは奴隷からエネルギーを受け入れる方の印であって、エネルギーを搾り取られる奴隷の方の印じゃない。


「枷だよ。強い術を行う度に誰かの命を搾り取っていた。それに気が付いたそこで、これは呪いの印となる。共犯者の印、だ。俺は知らなかったと言えど、誰かの命を搾り取っていたんだよ。この世で許される所業じゃない」


「たく、たくさん、いるの?」


私は震える声を出していた。

私一人じゃなくて、もしかして、たくさんの人達が私みたいな目に遭っていたの?

罪を犯したから、どうしようもない人だって、誰にも助けてもらえない人を。

冤罪なのに声を上げられない人をたくさん作っていたの?


「一人だ。守るべき人の命を受け取っていた」


ああ、シレーナの恵みだと思っていたのね。

だから自分が許せない? シレーナから裏切られた気持ちになってしまったの?


「だからあなたはそんなにも絶望してしまったの?」


「絶望ならまだいいよ。純粋だ。俺はもっとどす黒い」


「その印はあなたが望んだものでは無いでしょう?」


「望んでいないが最初は受け入れた。あいつは王子(ライオネル)を愛している。そんなあいつと繋がっているんだと、あいつにざまあみろという気持だった」


私の目の前の男性は、私が恋焦がれた人ではなくなった。

勝手に夢見てキラキラした人に仕立て上げていた人は、私に負けず劣らずのドロドロしたものを抱えていた。でも、それで彼を思う気持ちが消えるどころか、私こそ彼を思うがために抱えていたどろどろが溢れそうになった。


どんなに頑張っても愛してもらえない、私の腐った恋心だ。

身代わりだって構わない。

あなたに抱かれるためなら何でもするって、そんな情念だ。


「だけどさ、俺はあいつを抱きしめたいんだ。生きているあいつを抱き締めたかったんだよ」


私こそ。

私こそ愛されて抱きしめられたかったから、自分を偽ることを止めたのだ。

私にできる最初で最後の魔術によって私自身を硬化させた。

あなたとの繋がりを絶ったのだ。


だからきっと、イアンは暴走したのだろう。

自分に流れてくる聖女の力が無くなったと思い、それが聖女が王子一人を選んだ結果として受け入れ、それで彼は壊れたのだ。


私はきゅっと唇を軽く噛むと、目指すものへと向かうために前を向いた。

イアンが職を辞したのは本当だろう。

大聖堂を爆破する、その犯罪を犯すために出来る限りの縁も切っているはずだ。

たぶん、爆破と共に自分自身を殺すつもりでもあるはずだ。

だけどね、私はあなたには生きていて欲しい。


「青空が似合わないって恰好つける人がいるんです。私は彼こそ青空が似合う男だって思うんですけど、先輩はどう思いますか?」


「そいつは幸せ者だって思うよ。そんな事を言ってくれる女がそばにいてさ」


「では、先輩も青空に帰りましょう。私は先輩も青空が似合うって思います」


私は返事を待たずに歩む足を早めた。

あの頃の私がイアンに捧げた言葉など、きっと彼は完全に忘れているはず。あの頃の自分など彼にとってはその他大勢の一人だった。そんなこと自分で認めていても現実で知るのは辛いなって、私は逃げ出したくなったから。


やっぱり私は弱虫で情けない。

思い切りを付けなきゃ天国に行けないぞ。

そう思ってのこれなのに、ね。

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