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祝いの鐘が鳴り終わるまでに  作者: 蔵前
暗闇の中で明かされた秘密
3/9

「お前は本当にガーベランティスの生徒か?」


「はい。先輩!!現役生です!!」


肉体の主のガブリエラがね。

ただし、私が右腕に拳を作って振り上げた時、私の中のガブリエラが「私はそんな振る舞いはしない」と抗議した事は気が付かない振りをした。


「お前に先輩言われたくないな。劣等生」


「失礼な。幾重にも重ねられた結界に干渉されずに大聖堂地下に潜り込む、これを成し得た私が劣等ですか?」


「下水道を汚れに塗れながら先に進む、最悪だ」


イアンは苛立たしそうに自分のマントを適当に放り捨てた。

私は愛する人のマントを受け取って、おかえりなさい、そんな夢も見ていたが、イアンが投げ捨てたマントがひらひらと地面に落ちる姿を見送るだけにした。


だって、そのマントはイアンが呼び出したスライムが変化したモノに過ぎない。

彼は私が下水道を進むと決めるや、清浄な大聖堂地下通路に辿り着くまでそのマントで私達を覆ってしまったのである。


流石王国一の魔術師。

そして、スライムさん達、下水管の汚れ塗れにしちゃってごめんなさい。


「で、その次はどうなさるんですか? 劣等生様?」


「ムカつく。自分だって首席では無かったくせに!!」


私は思わずイアンに殴りかかった。

まるで五年前のあの日のように。

あの日は私の順位をイアンに揶揄われ、私は悔しさのあまり言い返したのだ。

今さっきと同じセリフを。


セリフだけじゃなく、私はやっぱりさっきと同じようにイアンに殴りかかっていたが、私の拳はイアンの胸をつく前にイアンによって手首を掴まれただけだった。

そのあとは、あの後は、私はイアンの手を振り払って逃げた。

大好きな美しすぎるその顔が間近で、とってもとっても精神が崩壊したから。


「でも、俺が一番いい男、だろ?」


にゅあああ、としか言葉が出そうになかったのよ。


「でっ!!」


今回は手首など掴まれなかった。

イアンは私の拳など受ける気など全くなく、私の拳はすかっと空振りしただけだ。

ちょっと前のめりに転びかけ、頑張って踏ん張って転ばなかった私、えらい。


「踏ん張って糞しようとする犬みたいだな」


「――大丈夫か?その一言がなぜ言えないの」


「大丈夫かって聞いても大丈夫しか返って来ない。無駄だろ?」


「ですね。合理的判断が素敵だと思います」


「ハハハ。では、無駄話を止めて先に進みましょうか? 後輩君」


私は同意を示すように頭を上下させると、何度も歩いて来た道のようにして足を踏み出した。歩くうちに後ろのイアンから不穏な空気を感じたが、私はそのイアンの気持の変化は大変歓迎である。


だってね、下水道からの侵入は私独自のものでもね、大聖堂地下通路の道順に関しては、イアンが歩いた道順そのままなのだから!!


「――考えればわかるはずだな。お前はどこまで見えていた?」


「たぶん、全部」


「だったらどうしてもっと早く訴え出ない? そうすりゃこんな当日にこんなことをする事は無かっただろう?」


「訴え出たらあなたが犯罪者になる」


「お嬢ちゃん? 犯罪者は犯罪したいから犯罪するんだよ? 犯罪者になりたいから犯罪するんだからね、そんな奴に同情しちゃいけないよ」


私は、そうか、と思った。

私は犯罪など犯してはいないが、犯罪したいと思われていたのか、と。

だから私は誰にも庇われなかったんだ。

皆には見え見えだったものね、私がイアンに恋をしていてシレーナを羨ましく思ってたこと。

「でも、大事な人が犯罪者になるのは辛いわ」


「いいんだよ。爆破が起こったあと、みんなは考える。どうして聖女ともあろうものが簡単に土の中に埋まったんだろう? どうして輝ける王子様の側近がこんなことを起こしてしまったんだろう? と」


「聖女があなたを選ばなかったから?」


「いいや。あいつは選んだよ。全部の男を選んださ。だが俺の心は俺のものだ。俺は拒み、するとな、頼んでもいない印を勝手につけられた。印は隷属を求めるものだった。手に入らないならば枷を付けてやろうってさ、全く、下種な奴らが必ず考える事だ」


私はイアンに振り返った。

イアンは私が振り返るや、少々荒っぽい仕草でシャツをはだけた。

ほんの一瞬だけだが、見えた。

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