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祝いの鐘が鳴り終わるまでに  作者: 蔵前
喜びの鐘が鳴っている
1/9

今日はお祝いの日だ。

ただのお祝いじゃない。

国をあげて、もしかしたら世界中の人々全員のお祝い、かもしれない。


聖女様と王子様の結婚式が執り行われるのだ。


ゴーン、ゴーンと、アイスゴニア王国国内の教会は、素晴らしき婚姻に対する喜びと賛成の意を込めて鐘を打ち鳴らしている。

ただし、今の鐘は、これから式が執り行われますよ~、というお知らせ。

聖女と王子が王城を出発して大聖堂に向かうって合図。

彼らが大聖堂に入り、式が終わったその時には、もっと盛大に鐘が鳴らされる。

まずは、大聖堂の大きな鐘が。


それが合図となる。


「急がなきゃ」


国民全員の意識が喜びという一つのものになっている中、その喜びが納得できない人がたった一人いる事を私だけは知っている。

その人が何をしようとしているのか。

止めなきゃいけないってことも。


だけど悲しいかな、私は自分の体を動かすことができない。

そこで、こんなことになってしまった時点、きっと彼こそ同じ気持ちだっただろうあの頃と同じ私達の年齢の女の子の体を私は借りてしまったのである。


王立ガーベランティス魔術高等学校の生徒の一人、ガブリエラ・イミスの体を。

顎までの金色の髪の毛はさらさらとして、丸くて大きな黒目は希望に輝く。

元気いっぱいの仔犬みたいな可愛らしい少女。


もちろん、もちろん、無理矢理じゃ無いわ。

真実を求める彼女はとても行動的で、そして、私とこれから罪を犯すであろう彼に同情して協力してくれたのだ。


「ただし、私の意識は残していてくださいね。何が起きるのか起きたのか、私は全部観たいです!!」


協力? ちょっと首も傾がるが、でも、私は感謝ばかり。

どうして、どうして。

自分の足で地面を駆けるなんて、私には五年ぶりの気持良さだもの。


そう、あの頃の私は元気いっぱいだった。

だけど実は元気に振舞っているだけで、嘘ばっかりだった。

自分の本心を見破られないようにって、無理に騒いでいただけだった。


ええと、本当にそうかな。

ええ、違います。

好きな人の前でテンション高くなってた時だってあります。


そんな考え無しだった。

だから、私は今の私になったのだ。


後悔ばっかり。

だから、今度こそ真実を語るしおためごかしはしない。

彼には後悔なんかさせるものか!!


私はよく知っているが、五年前とは違う彼の後ろ姿に声をあげた。


「そこのおにいいさあああん。止まって。お願い、お話を聞いてええええ!!」


今の私が出せる、私の思いっきりの大声で叫んだ。

私の声を背中に受けた人はゆっくりと振り返った。


背が高いから、水色の空がそのまま彼の背景になっている。

なんて美しく、なんて爽やかな空に似合わない男だろう。

漆黒に近い深い青緑色という(くろがね)色の髪は夜の住人のようであり、見ず知らずの私に向けた赤褐色のその瞳は炉の中の炎のようだ。


「何か?」


ああ、いい声。

静かすぎる感情など窺えない低くて音楽的とも言える声。


「あの、本当に、何か?」


はっ!!

久々の彼の声にうっとり堪能している所ではない。

私は彼に向けて顎を上げた。


はう!!


額の形から太すぎず長すぎず形の良い鼻梁が素敵、とか、ああ、汚れ物を見るような目線でももっと見つめられたいと思ってしまう、目の形も良い!!


って、彼は私から顔を背けて立ち去ろうとしてる!!

私は慌てて彼の袖口をつかもうとして、……振り払われた。


ずさっ。

痛い。


ああ、思いっ切り転んだから膝小僧が擦り剝けている。

ごめんなさい、ガブリエラ。

でもね、この痛みに少し感動しちゃってる。

涙さえも出るくらい。

生きているって感覚は久しぶり。


「すまん。大丈夫か?」


私の目の前に男性の手が差し出された。


本気で涙が出そう。

ずっとずっと握りたかった手がそこにある。


イアン・アンドレアス。


私を決して見ることの無かった、私の初恋の人。

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