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9/13

第9話:文化祭

研修旅行がおわってからも8人グループでの週1回の勉強会は続いていた。


「そういえば今月は文化祭があるね。みんなのクラスではなにやるか決まった?」


河合さんの一言で、とりあえず勉強は中断して文化祭の話になった。


文化祭といえば高校の一大校内行事で好きな相手との距離を縮めるチャンスである。ただこの高校は進学高ということで、高校三年の参加は不可で、クラスとして出展できるのは高二のみという制限があった。あとは文化部が出展できることになっている。運動部は出展なしである。ちなみに、なぜ高一のクラス出展が不可なのかは知らない。


「私たちのクラスはアメリカの文化の紹介をすることになっているよ」


どうやら大塚さんと清水さんのクラスは文化的な展示をするらしい。そういえば進学校とあって真面目な出展が多かった覚えがある。


「私のクラスはティールームにすることになったよ。茜は?」


河合さんのところは定番だな。


「運勢占い」


本山さんのところは、かなり変わった出展をやるようだ。


「なんか怪しげな服を着てやらなきゃいけないみたいで」

「でも見に行ってみたいかも」

「それならみんなで占ってもらいに行こう」

「いいよ、みんな忙しいだろうし」

「「「いや、絶対に行く」」」


この後の話の流れで、このグループで文化祭を回ろうという話になった。


□◇□


来週から文化祭というタイミングでの勉強会では、やはり文化祭の話がでてきた。どのクラスも準備が大変らしい。


「そういえば、小野たちのクラスでは何を出展するの?」


清水さんから、俺たちのクラスの出し物について聞いてきた。そう、まとまりのない男子クラスである。当然、なにも決まっていない。というか出し物を決める会議すら開催されていない。文化部に入っている奴は当然それを優先するとしても、中には男女クラスの手伝いに行っている奴までいる。クラスに女の子がいないだけで、ここまで違うものなのかと思ってしまうが、当然ともいえる。一周目のときには、男女クラスだけ打ち上げをやっていて、自分達のクラスはそのまま解散になった。クラスの出し物も、教室の前後の入口を机と椅子で通路を作ってつなげただけの、おおよそ出し物といえるものでもなかったが。


「いや、まだ何もきまっていないな」

「はぁ、あと一週間でどうするつもりなの?」

「何も出さずに終わるんじゃないかと」

「ダメでしょ、それじゃあ。クラスごとの出展することになっているんだから」


小野が清水さんから突っ込みを受けているのを、他人事のように聞いていたのだが。


「それじゃあ、池田くん、緒方くんと向井くんも、あと一週間でちゃんと準備してね」

「「「えーっ!」」」

「そんなの、同じクラスなんだから当たり前でしょ」

「皆でまわるんだから、ちゃんと楽しめるものを期待しているね」


河合さんからのその期待は要らなかったが…


□◇□


勉強会のあと、4人で対応を検討することに。


「どうすんだよ小野、あと一週間だぞ。なんとかごまかせなかったのかよ」

「清水さん相手に、反論しきれるやつがいるかよ」

「なにしろ、やる内容も決まっていないうえに、協力してくれる奴がいるかもわかんねーからなぁ」

「でも、まずは、何を出展するかを決めないと始まらないんじゃないか。何をやる?」

「「「う~ん」」」


一周目では通路を作って終わりだった。だとすれば、山の四季をジオラマで表現するというのも手ではないだろうか?という提案をしてみると。


「もう時間もないし、それで行こう」


ということになった。


そして、文化祭前日の金曜日の午後、俺たち4人は死んでいた。何人か手伝ってくれる奴は集まったが、それでも数人で一週間で準備できるわけもなく…


「終わんねー。あといくつ作るんだこれ」


そう、俺たちは展示物を作る作業に忙殺されていた。山の四季ということで、春は赤城山の千本桜、初夏として尾瀬、秋が北アルプスの紅葉、冬はどこかの冬山とした。あとはジオラマで千本桜や一面に広がる綿毛を作ることになるのだが…


「千本の桜を作って、綿毛をまた千個作ってって殺す気かよ」

「他に案がなかったんだからしょうがないだろ」


さすがにジオラマといっても、そんなに凄いものではなくて紙でそれらしきものを作るだけなのだが、何しろ数が多い。この学校では文化祭のために教室を使って準備ができるのは金曜日の午後のみとなっていて、ある程度は自宅などで作ってはあったが、大部分は金曜日の午後だけで作成しなければならなかった。


まぁ、それでも気合をいれて作り上げることができたのは、それはやはりあの4人の女の子達の期待の声があったからだろう。高校男子というのはかくも単純なものなのだ。


□◇□


学園祭が始まった。グループで見て回るのは最終日となる二日目の午後にした。そのころには、だいぶ落ち着いているだろうという理由だ。俺たちのクラスは、やっぱりクラスメートはほとんど誰も来なかったが、それなりに訪れる人はいた。一応、説明員として4人でそれぞれの場所の説明をするようにした。といっても冬山は単に真っ白な山というだけで説明もなにもなかったが。


そして最終日の午後、8人で各教室の出し物を見てまわることになった。最初は俺たちのクラスからだ。


「あー。今年いった尾瀬とアルプスを再現したんだね」

「あれはきれいだったものね」

「これを見ていると思い出すね」


なかなかに好評のようで、やっと肩の荷が下りた気がした。


「山の春というとこの赤城山の桜が日本一なの?」


と大塚さんから聞かれた。


「有名なのは確かだけど日本一とまではいかないかも。春はいろいろ花が咲くし。例えばツヅジとか」

「へー、本当に詳しいんだね」

「まぁ山だけね」


次は大塚さんと清水さんのアメリカ文化の展示へ。さすが進学校だけあって、みんな真面目に取り組んだようで、時代別にアメリカの文化を調べて展示がされていた。海外出張でアメリカには何回か行ったが、文化ということは全く意識していなかったから、なかなか興味深い内容だった。


「向井君は英語も得意だし、アメリカ文化には興味があったりする?」


展示されたものを興味深く読んでいると、大塚さんから再び話しかけられた。


「そうだね。英語は勉強していたけど文化という面ではみていなかったし、面白いよこれ」

「よかった」


大塚さんは展示物についていろいろと説明してくれた。その後は、河合さんのティールームで一休みすることに。


「学年一位、紅茶の種類を当ててよ」


すると、河合さんがブラインドテストをしだす。


「はぁ、紅茶といえば黄色の袋の奴じゃないの?」

「いや、さすがにアールグレイとかダージリンとかぐらいはわかるだろう?」

「えっ、緒方でもわかるのかよ」


実家では紅茶といえば、黄色の袋の奴しか飲んだことはない。


「うん、全然わからん」

「学年一位なのにダメだなぁ」

「おれは庶民だから、紅茶は黄色の奴なの」


河合さんは笑いながら戻っていった。


しばらく休んだところで最後は本山さんのクラスの出し物である。


「茜のところは占いだっけ?当然、茜がやってくれるんだよね」

「えっ、それは…」

「せっかくみんなで来たんだから、茜がやってくれないと」


清水さんからのリクエストで本山さんが担当してくれることになった。どうやら星座を伝えると占ってくれるらしい。順番に一人づつ運勢を占ってもらう。今日のあなたは少し疲れていますねみたいな意外と当たっているようなものもあったが、


「向井君は、遅刻して失敗しがちとでているわ」

「えっ、遅刻はあまりしないほうなんだけどな。まぁでもありがとう。気を付けてみるよ」


次に占ってもらう清水さんが「なるほどね」とつぶやきながら席に向かっていった。う~ん、自分は割と時間は守る方なんだが、肝心のデートとかで遅刻するという予言みたいなものなのだろうか?


その後、文化祭は終わりとなった。この学校の文化祭はこじんまりとしたもので、全体での打ち上げのようなものはなく、二周目も俺達のクラスはそのまま解散となった。もちろん男女クラスだけは、クラスでの打ち上げをやったみたいだが。

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