第6話:尾瀬イベント
夜行バスで尾瀬沼山峠に朝7時に到着。梅雨のシーズンで天気がどうなるか心配だったが、皆の行いが良かったのかまずまずの天気になった。これから出発というところで、3人組が行動にでる。
「荷物は俺たちが持つよ」
どうやらペアになって荷物を持つ作戦のようだ。さすが作戦会議を開いていただけのことはある。女子側で残ったのは大塚さんだったので、荷物を持つことにする。
「大塚さんの荷物は俺が持つよ」
「え、向井君の荷物の方が断然大きいからいいよ」
「大塚さんの分を持っても大差ないし、それに俺だけもたないと恰好がつかないから」
「う~ん、じゃぁお願いします」
全員分の昼食を用意したりしたので、自分のザックは登山用の70Lタイプのもので巨大である。そこに大塚さんの分を足しても、大きな差があるわけではないのだ。
「そんな大きな荷物を背負って大丈夫なの?」
「週末に山とかに登って慣らしてあるから大丈夫」
「えっ、週末に登山しているの?」
「毎週ではないけど、それなりに行っているよ」
「なんか訓練してみるみたいだけど。遊びにはいかないの?」
「登山が遊びみたいなものだから」
社会人になってからの趣味を高校生に戻ってからも続けていたが、あまり高校生らしくなかったかもしれない。
沼山峠から40分ぐらい歩くと大江湿原に到着する。そこにはワタスゲの綿毛が一面に広がっていた。
「「「すごい!」」」
「はるかかなたまで広がっているよ。」
「おとぎの国そのまんまの風景だな」
大江湿原は有名な尾瀬ケ原よりは小さいといっても、なにしろ長さ1.5kmぐらいの巨大な湿原なのだ、公園で見られる花畑とはスケールがちょっと違う。
「白い綿毛がかわいいね」
綿毛はホワホワとしていて、とにかくかわいらしい。これが一面に広がっているんだから、やっぱり凄いとしかいいようがないよね。
写真を撮りながら、尾瀬沼の方まで歩く。
「本当は尾瀬沼を一周できればいいんだけど、距離が長くて時間が足りなくなってしまうので、途中まで歩いて引き返そう。」
バスだと時間が限られるのが難点だな。その後に大江湿原まで戻って少し早めのランチを食べることにした。メニューは最近の流行りのホットサンドメーカーである。サンドイッチを焼いただけとも言えるが、これが意外と美味しくて社会人になってからのハイキングでは愛用していた。といってもソロなのでカップラーメンで済ませることも多かったが。
このホットサンドは具材にバリエーションを付けられるのもいいところである。焼く時間がちょっとかかるのが難点だが、スケジュール的には余裕を持たせてあるので大丈夫だろう。
「たまご、ハム、チーズを挟んだ奴が焼けたよ」
「それちょうだい」
半分に切って河合さんに手渡す。
「チーズがとろけていておいしいね」
「ツナを挟んだのも美味しかったよ」
「他にもあるの?」
「コーンとソーセージを挟んだ奴か、あとはコロッケだな」
「コロッケも食べてみたいかな?」
要望が出たのでキャベツ千切りとコロッケを挟んで焼く。
「それにしても、向井は料理もできるんだな」
意外そうな顔をしながら清水さんがつぶやく。
「単に焼いているだけだけどね。」
実際には焼き加減がなかなか微妙なのだが。最初に焦がしてしまうのはホットサンドメーカーあるあるなのではないだろうか?
「私もやってみていい?」
河合さんがやってみたそうなので、やり方を教える。
「向井はまだ食べてないみたいだから、私が作ってあげるよ」
「ありがとう。河合さんの手作りなんて貴重だな」
「私だって料理ぐらいするよ」
焼いてくれたホットサンドは、社会人のときに自分で作ったものよりずっと美味しく感じた。
「食後に少し休憩した後は撮影タイムにしよう」
「来るときにも撮影してなかったっけ?」
「実は本格的な一眼レフを親から借りてきたのだ」
そう、親が新しい趣味としてだいぶ前に撮影機材一式を購入していたのだ。三脚やらなにやら揃えたりしていたが、いろいろと設定が面倒だったのかすっかり使わなくなっていた。なんと折り畳みできるレフ板まで買っていて、当初は相当にやる気があったらしい。
「じゃぁ緒方はレフ板をもって下から顔に光を当ててくれ」
「ここまで本格的にやるのか?」
「せっかくイベントに参加してくれたんだから、キレイに撮らないとダメだろう」
誰から撮ろうか?と女子の方を向くと、若干引き気味になっているようだ。モデル撮影の経験があるわけでもないから、ちょっとやりすぎたか?と思っていると…
「じゃぁ最初は私で」
と河合さんが立候補してくれた。いろいろと先頭をきって対応してくれるから本当に助かる。
「じゃぁ、そのあたりに立ってみてくれる?緒方、レフ板よろしく」
河合さんがポーズをとったところで、
「河合さんかわいいね。いまの表情最高じゃないかな。ちょっとアップでも撮影するね。その笑顔しびれるね」
などと声をかけていくと、なぜか緒方がはずかしがって離れていった。
「緒方、離れたらレフ板の光があたらないだろう」
「おまえ、キャラかわりすぎだよ。聴いてられないんだが」
「緒方には言ってねえよ。」
「どこから、そんなセリフがでてくるんだ」
「いやいや、ベストな表情で撮影するためには必要だろう」
社会人のときに知り合いで写真をやっていた奴が声かけで笑顔を作るのは重要としきりに言っていたはず。同意を求めるように女子の方を見たが、完全にドン引きしていた。さすがの河合さんも恥ずかしかったらしく、
「向井、それは似合わないから普通でいいよ」
どうやら社会人になってからのこの知識は役に立たなかったようだ。確かに無理があるかもとは思っていたが、タイムリープで社会人になってからの経験を活かすとすべてで無双になるんじゃなかったのか…
その後は普通に皆の写真を撮影した。まぁレフ板はつかったのでキレイに撮影できているだろう。撮影が終了したところで沼山峠に向けて出発することにした。
「今日はとても楽しかった。信じらないぐらいにキレイな景色もみれたし。企画ありがとう」
「本山さんに喜んでもらえて良かったよ」
楽しそうに笑う本山さんと話ながら、こうやって少しづつ距離を縮めていくのが正解な気がした。高校一年のときには無理に話しかけようとして失敗したから、高校二年はこのグループで親しくなっていこうと心に決めるのであった。
その後皆で峠まで戻ってイベントは無事終了となった。