第12話:高校三年
ついに高三になってしまった。一周目と同じで、俺はやっぱり男子クラスで、池田は理系唯一の男女クラスになった。ここからは受験一直線で学校の校内行事もなしである。あの8人でのグループ集まりも高三になったところで終了となってしまった。緒方も高二では男子クラスの悲惨さを嘆いていたが、すっかり受験に頭を切り替えたようだ。小野はというと、ちゃっかり清水さんと付き合うことができていた。あの8人グループの集まりでの作戦会議もちゃんと成果があったということだな。
「まさか小野が清水さんとつきあうとはなぁ」
「清水さんってハードル高そうだよね」
「その清水さんからOKをもらうんだから、たいしたものだよ」
と緒方、池田、俺が小野をほめたたえると。
「いや、そんなに簡単にOKがでたわけじゃないから。最初はダメだったし」
「そうだったのか?」
「あたりまえだろ。諦めずに何度も告白したからこそだよ」
そっか。諦めなかったからこそなのか。その言葉はなんとなく俺の心に響いた気がした。
□◇□
その後もひたすら受験勉強の日々が続き、高校生活も残り半年となった二学期の秋、清水さんと話をする機会があった。
「久しぶりだね、清水さん。受験勉強は順調?」
「高二で勉強会をやったのが良かったよ。いまのところ志望校はA判定だね」
「それは良かった。小野との付き合いも続いているみたいだし順調だね」
「イベントのおかげだね。本当にありがとう」
「いや、小野ががんばったからだよ。実はあいつが勇者だったんだな。」
「ゆうしゃ?」
「困難に立ち向かって難攻不落な相手から勝利を取ったってことだよ」
「私はラスボスかよ」
「清水さんはしっかりしてそうだったし、そんじゃそこらの男では相手にならなそうだったからなぁ。」
確か一周目では小野と清水さんが付き合うということはなかったはずなので、タイムリープで結果がかわったということか。小野の諦めない心が重要だったのであろう。
「そういえば、大塚さんと河合さんに彼氏ができたと小野から聞いたけど、本当なの?」
「うん、8人の集まりもなくなって、積極的に告白する奴がでてきたからね。」
「まぁモテそうな二人だったからなぁ」
「茜だって数人から告白されたらしいよ」
「そうなのか、まぁ俺が好きになるぐらいだし、やっぱりモテるか」
「でもすべて断っているらしいよ」
「…」
「向井はさ、唯と春奈のこともあって茜へ告白しないでいるんだろ。でももう二人にも彼氏ができたんだから、もういいんじゃないかな。高校生もあと半年で終わってしまうよ」
「ありがとう。なんかやっぱり清水さんにはかわないな」
「向井は恋愛レベルが低すぎるんだよ」
「なかなかレベルアップしないんだよなぁ」
2人で笑いあって話は終わった。
□◇□
数日が経って俺は本山さんと話をすべく下校時の校門で待っていた。下校時に校門で待っていると、とても目立つので昼休みにクラスに行った方が良かったかもとは思ったが、いまさら方法を変えると、勇気がなくなりそうだったので、そのまま待ち続けることにした。
本山さんは友人と一緒に帰るようで、特に自分には目もくれずに目の前を通り過ぎていった。心が折れそうになりつつもなんとか声をかける。
「本山さん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「いいけど、なにかな?」
本山さんの友人は、告白するならさっさと済ませてよといいながら、少し離れたところに移動してくれた。
「あの、一年のマラソン大会の前での約束で一位だったらデートというのがあったと思うんだけど、その二位でもOKにしてほしいというか、とにかくデートしてください」
と頭を下げてお願いする
「遅刻」
「はい?」
「約束してから一年半もまたせるなんて、向井君って遅刻魔なの?」
「いや、イベント待ち合わせでも時間厳守だったし、遅刻はしないほうだよ」
「じゃぁデートも遅刻しないでね」
「えっ、茜 断るんじゃないの?これまでどれも断っていたのに」
「じゃぁこれが本命ってこと?」
といきなり友人が乱入してきた。
「その話はいいから。とにかく向井君、デートの日あとで連絡してね」
「うん、ありがとう本山さん」
本山さんは笑顔でうなづきながら、どういうことと叫んでいる友人を連れて帰っていった。
□◇□
デートについては、受験勉強もあるし一日ではなくて午後からということにした。
「本山さん、今日はきてくれてありがとう」
「今回は遅刻しなかったね」
「あー。マラソン大会の約束についてはゴメン。一位といったのに実現できなくて、デートする資格もないのかなって思っちゃって」
「舞も言っていたけど、向井君って本当に恋愛レベルが低いよね。普通に考えたら二位だって相当に凄いことだよ」
「そういってありがとう。あっありがとうというのは二位が凄いと言ってくれた方ね」
本山さんはフフッと笑ってくれた。
「それで、いろいろと話をしたいので公園に行くというのでいいかな?」
「いいよ。いろいろと聞きたいこともあるし」
公園の空いているベンチに座っていろいろと話をする。
「最初に自分の気持ちを説明しておきたいんだけど、前にも言った通り自分はタイムリープで高校時代に戻ってきていて、一周目で好きだったのが本山さん。二周目の今回でリセットして考え直すという話をしていたんだけど、やっぱり僕が好きなのは本山さんです」
「…」
「これまで大塚さんとか河合さんに告白したという話も噂ではあったと思うんだけど、純粋に勉強を教えただけで、その好きとかとは全く別だったんだ」
「私もそこは聞きたかったんだけど、すごい熱心に教えていたみたいだし、好きでもないのにあそこまで親身になるというのが不思議というか」
「社会人になって、高校の時に勉強しておくことの大事さに気づいたら、どうしても手を抜けなくて」
「確かに高二のグループでの勉強会も相当に準備してあったよね」
「本山さんのリクエストだったし」
「一年のとき唯と春奈の二人とも成績がかなり上がっていたから羨ましかったんだよね」
「それなら、これからは本山さんと二人で勉強会をやろうよ」
「いいの?」
「もちろん。すっかり遅くなっちゃったけど」
「やっぱり向井君は遅刻魔だね」
こんな風に二人で笑いあえる日がくるとは。タイムリープして本当によかった。
「それで最初の話に戻るんだけど」
「…」
「俺は本山さんが好きです。でも今はお互いに受験で大切な時期だし、一緒に勉強会やりながら、こうやってたまに会って話ができたら、それで十分というか。なんか断れないようにしているというか一方的に気持ちを押し付ける感じになって申し訳ないんだけど」
「改めて向井君の恋愛レベルの低さを実感しているけど、でもわかったわ。」
「ありがとう、それでここまでは身の上話的な話ばかりで、もっと趣味とか好きなこととかの話をしたいんだけどいいかな」
「うん、いいよ」
「それじゃあ、まずは好きな音楽アーティストの話から教えてよ」
「それ、最初に聞くということは、もう一周目で聞いてあったんじゃないの?」
えっ!とっておきの切り札が見抜かれ驚いていると。
「向井君、表情でわかりやすすぎるよ。」
「まじかー。これ話題の切り札だったのに」
「どういう話にするつもりだったの?」
仕方なく事前に曲を聴きこんで置いて、偶然にも好きな音楽が一緒ということにして盛り上がる予定だったなどのたくらみをすべて白状することになってしまった。まぁ結果として話はたしかに盛り上がったが。その後もいろいろと話をして初デートは終了となった。
その後も週に二回ぐらいの勉強会と、隔週ぐらいの週末の午後に会って話をしたりしながらお互いに受験勉強にとりくんだ。その結果、自分も本山さんも第一志望の大学に現役合格することができた。