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第11話:主人公フェーズ

三学期には高二最後の校内行事である合奏コンクールがある。週一回の勉強会でもその話題があった。


「来週は合唱コンクールだよね」

「茜はピアノを弾くって聞いたけど、本当?」

「うん、その予定」


どうやら二周目も本山さんがピアノの伴奏をするらしい。


「小野達もちゃんと練習している?文化祭のときのようにならないようにね?」

「さすがに先生主導で練習しているよ」


男子クラスはまとまりがないので、最下位争いをするかといえば、一周目では意外と男女クラスとはいい勝負になっていた。合唱はみんなの調和が重要なので、かえって女子がいないほうが肩の力が抜けてよい結果になるのかもしれない。


コンクール当日、俺は音痴ということもあり、そこそこの声量で歌っておいた。クラスごとの合唱も進み、最後は本山さんのクラスのようだ。


本山さんのピアノの伴奏から曲がスタートする。舞台の上でピアノを演奏する本山さんはとても輝いて見えた。自分は子供の頃に短い期間だったがピアノ教室に通ったことがあった。親が音楽が好きで、子供にもピアノを弾けるようになってほしかったらしい。ただ、子供の頃の俺は外で遊ぶことしか考えていなかったし、なによりピアノの練習はつらかった。なかなかうまく弾けないし、基礎的な練習の繰り返しだったし。自分は結局、教室をやめてしまったのだが社会人になってあのときにちゃんと練習していたらと思ったこともあった。

今、ここで合唱コンクールの伴奏を弾いている本山さんは、ちゃんと練習をここまで続けたということになる。自分にはできなかったことを続けて舞台の上で輝いている本山さんをいつまでも見続けていた。


□◇□


三学期ももうすぐ終わりの週末に、学校だとあまり話ができないということで大塚さんと会うことになった。


「おはよう大塚さん、今日は会ってくれてありがとう」

「こちらこそよろしくね」


午前中はアクセサリーショップや雑貨屋などを巡った。気の利いたアクセサリーなどを見つけられると良いのだが、さっぱりである。


「いろいろとアクセサリーがあるんだけど、どれがいいのかさっぱりわからないな」

「あはは。向井君は実用一辺倒っぽいものね」

「登山グッズばかり買っているからなぁ。でも少しぐらいはかわいいものとかつけてみたいんだよ」


登山用品は、どうしてもデザインよりは性能第一になってしまうのだ。カバンなどについけるちょっとしたアクセサリーを選んでもらって買うことにした。


ファミレスでランチを取った後は公園というコースである。高校生はお金がないのだ。


「いろいろとお話をしたいので、公園でいいかな?」

「うん」

「これまで学校でも話をしてきたけど、趣味とかの話はしたことがなかったかなと思って」

「イベントでもそういう話はしてなかったね」


公園では趣味、好きな食べ物や音楽それから週末の過ごし方などいろいろな話をした。お互いの話をして、なんとなく距離感が近くなった気がした。


「そろそろ夕方だし帰ろうか」

「向井君、最後にちょっと話があるんだけど」

「うん」

「まずは、これまでいろいろなイベント企画してくれてありがとう。尾瀬も紅葉も本当に凄かった。私にとっては高校の最高の思い出になったと思う。それで2周目で考え直してくれるといった件なんだけど、もう一度チャンスがあるということでとても嬉しかったんだけど、でも私には向井君が今誰を好きなのかはわかっているんだ」

「…」


そう、結局最初から考え直すとは言ってはみたものの、あいかわらず自分が好きなのは本山さんだった。


「そんなにわかりやすかったりする?」

「合唱コンクールで茜を見つめている表情をみたら一目瞭然だね。」


大塚さんが笑っていた。


「これまで、本当にありがとう。向井君もがんばってね」

「こちらこそありがとう。」


こんなに素敵な女の子が好意を寄せてくれたというのに、結局はそれをつかめずに終わってしまった。


□◇□


「向井、なにその服?。山にでもいくの?」


次の週末は河合さんと出かけることになった。しかしデートなのにしょっぱなから厳しい一言が河合さんから放たれる。といっても高校生のこづかいとちょっとしたバイトでは登山用の服とかグッズを買っていると他にはなにも買えないのだ。


「いや、この服は実は通気性が良くて、すぐに乾くし便利なんだよ」

「こんな街中で着る服じゃないでしょ」


そりゃそうだ。登山用の服だし。


「まずは服を買いに行きましょ。服を選んであげるわ」

「それは助かる」


デートといえば、服選びは定番だよね。ただ着せ替え人形になるのも定番で…こんなに試着して買わないというのも、大丈夫なんだろうか?と思ってしまうが、女の子にとっては普通のことらしい。午前中に回った中で、シンプルで落ち着いた感じの上下の服を買って、それに着替えることにした。


ランチのためにファミレスに行こうとしたところで、お弁当を作ってきてくれていたため、近くの公園に行くことにした。


「お弁当つくってきてくれてありがとう。大変だったんじゃないの?」

「そこまで手の込んだものじゃないから大丈夫」


手作り弁当なんて、モテない男からすれば夢のようなアイテムなのだが…


「おー、すごくおいしい。河合さんって料理上手だったんだな」

「家でもよく作っているしね」

「そういえば尾瀬でもホットサンド作ってくれていたな」

「私からすれば、向井の方こそ昼食用意してくれていて驚いたけどね」


ランチ後もしばらくいろいろな話をしていたのだが、


「私、本当は余計なことをしたという自覚はあるんだ」

「えっ、余計な事?いやお弁当はとても嬉しかったけど」

「いや、そのことじゃなくて、紅葉イベントの後に唯が向井に告白したときに私も便乗したこと」

「河合さんなりの想いがあったのだから余計ということはないんじゃないの?」

「唯が前々から思いを寄せていたのは知っていたし、あの場で私が立候補しなければ、そのまま付き合っていたんじゃないかって」

「…」

「それに今日も向井といろいろと話ができて楽しかったけど、向井が好きなのは私じゃないことは、この間の合唱コンクールでわかってしまったんだ。」


河合さんは気軽に話せる唯一の女の子で、いろいろな場面で話しかけてきてくれて、すごい助かったんだが、結局はその手をつかむことはできなかった。


「イベントは本当に楽しかった。企画ありがとうね」

「河合さんこそ参加してくれてありがとう。すごく楽しいイベントになったのは河合さんのおかげだよ」


こうして主人公フェーズはあっさりと終わったのであった。

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