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そして当日がやってきた。
でも、いくら待っても両親が乗った馬車は到着しない。
まぁ、そうだよね。この世界では、予定がズレることが結構ありがちである。
だって、何かトラブルがあっても早馬を出すくらいしか出来ないもん。その人が到着するのにも結構時間がかかるし。
スマホが欲しいよ……生産魔法を極めれば作れるようになったりして。
で、結局夜まで待ったけど到着せず。
先に風呂に入ることになった。
そして風呂から上がったくらいで到着の知らせが入った。
タイミング悪すぎ……!
この世界の貴族女性の支度って相当時間かかるんだよなぁ……平均で、いや短くても1時間くらい。
私は結構短い方だが、それでも1時間弱かかる。
急がなきゃ、と思ったけど、到着してすぐにやらなきゃいけない仕事があるらしく、会えるのは明日の晩餐の時だとメイドが伝えに来てくれた。
良かった。
でも、ビビらすなよ……。
「晩餐なので、ご案内します」
「うん」
そして翌日の夕方、ついにメイドが呼びに来た。
どうやらお父様とお母様はすでに食卓についているらしい。
もう、心臓がバクバクドキドキしてる。
まあ、めっちゃ久しぶりに会うんだもんね。しかも、どういう態度取ればいいかわからないし。
メイドの後ろで長々とした廊下を歩くと、大きな扉の前で止まる。ここは公爵家の食堂だ。
「リエラ様がご到着なさいました」
「うむ」
扉の向こう側から低い男性の声がした。おそらくお父様だろう。
そして、扉の両隣に控えていた騎士によって扉が開かれる。
部屋の中には長い食卓、そして豪華な服を着た二人。私のお父様とお母様だ。
うわ、こんな顔だったわ!
2人の顔を見ると、どうやら私はお父様似みたいだ。
正直に言うと、ちょっと悪役顔である。
いや、でもすごく顔は整ってるから。学園時代はさぞモテたことだろう。
とりあえず席に向かう。
メイドが椅子を引いてくれたので、座る。
しばし無言。
「……リエラ、久しぶりだな」
静かな部屋に響いたのは、お父様の声。
「…はい、お久しぶりです」
お父様に合わせて、私も少し堅い態度で2人に接する。
そして訪れる、再びの沈黙。
……なんだろう、この違和感は?
思っていたのと違う、感じがする。
あ、そっか。私はもっと心配されてると思ってたのかも。私って頭を打って、一時的に意識不明だったんだよね。愛されているなら、食堂に入った瞬間に抱きつかれたりするのかと思ってたんだ。それに、そもそも倒れたと報告が来た時点で私に手紙を送るはずだし。
だが、実際はそうじゃなかった。
意識を失ってたのに、その話題に触れもしない。
お母様は私に声すらかけないし。
もしかして…。
いや、愛されていないと決めつけるのも良くない。
愛の形は人それぞれって言うしね。
でも、2人の目を見ても、冷たい感情しか浮かんでない気がするのだ。
ま、確かめる方法がない以上、どうすることもできないが。
と思っていたのに。
夜中、図書館で手に入れた『身体強化魔法』を使って聴力を強化していたら、聞こえてしまった。
『―――結局、後遺症などはないのだな?』
『はい、お嬢様には傷一つございません』
『そうか、安心した。あれは王太子の妃に据える予定だからな。傷が残ってはたまらん』
…………。
いや、なんとなく確信してはいたけど。
やっぱり私のことを愛してないのかぁ……。
ちょっと悲しくはある。
でもそれ以上に、悪役令嬢リエラルオーティのことが可哀想に思える。
だって、こんな、私のことを道具としてしか思ってない人のために傷ついたんだよ?
でも、私は大丈夫。
あいつらのために死んだらしないよ。
……こんなことを考えるあたり、私も少し弱っているのかもしれない。
でも、1つ肩の荷は降りた気がする。
だって、もし断罪の時に暴れて、実家のベナティア家が取り潰しになっても、心が痛まないんだから。
他に大切なものができたときはそうはできないけど、そんなものができるっていう保証もないしね。
暴れられる可能性ができたのはいいことじゃないかな。
なんか、そう考えたらすごく心がスッキリした。
よし、寝よう。
そして、あの人たちに会いたくないし、また明日ドッペルゲンガーを作って、明後日には魔獣の森へ出かけよう、そうしよう。
そして四日後、魔獣の森でドッペルゲンガーと視覚共有していると、さらに3日後にお父様とお母様は出発するらしい他の情報が入った。
お二人ともさっさと帰ってください!そこは私の安らぎの家ですので!と心の中で叫んでおいた。
ついでにしばらく帰ってくんな、と呪詛を吐いておいた。
あ、そういえば、魔獣の森にあるもの――岩とか木とかを鑑定しまくったおかげで鑑定のレベルが3になったんだよね。
レベル2で物を鑑定できて、レベル3はなんと、ステータス画面を整理できる。
これがめちゃくちゃ便利。
最近スキルが増えすぎて、すごく見にくかったしわかりづらかったんだよね。
というか、鑑定がステータス画面に影響するってことは、このステータス画面って鑑定して出たものなのかな?
最初にステータスを見た時に鑑定があったのは、ステータスを見たからスキルが生えた、っていうのはあり得ると思う。
まぁ、今となっては関係ないし、どうでもいいけど。