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といっても、すぐに実行できるわけではない。
だって、さっきドッペルゲンガー作った時にほとんど魔力持ってかれちゃったし……。
しかも、服装がなぁ……ドレスしか持ってないからなぁ……メイドから盗もうかな。誰かいい服持ってないかな。
あ、それか、街で買うという手もある……いや無理か。流石に夜中に開いている服屋はないよ。みんな寝てる時間だしね。
どうしよう……本当に盗むしかないのか?嫌だな、それ。
……そういえば、生産魔法で作れた気がする。レベル3くらいで。
よし、明日から生産魔法を使いまくって服を作れるレベルまで上げよう。そしたら出発しよう。
それから一週間。ちゃんとレベル3まで上がりました。
早速服を作ってみた。
……ちょっとボロいワンピースができた。
まぁ、悪くはないよね。
私はこの国の王都に住んでいるが、王都は、中心から円状に、王城、貴族街、平民街、スラムといったふうに広がっていて、さらに南へ行くと魔獣の森がある。
つまり、魔獣の森に行くには絶対にスラムを通る必要があるのだ。
まぁ、国に入ってくる人たちは北にある門から出入りするんだけどね。でも、南には門がないから。
しかし、そこをドレスを着たお嬢様が通りでもしたら、どうなるかは想像に固くない。
よって、ボロいワンピースの方が安全だろう。
あ、そういえば見た目も変えとかなくちゃ。
リエラルオーティは、侯爵令嬢。ついでに悪役令嬢。
……不細工なわけがない。
顔は、吊り目でちょっと悪役顔だが、とても整っていて、まさに貴族といった感じだ。
まぁ、髪の色は黒で瞳の色は紫色だから、顔さえ見られなかったら大丈夫な気がするけど。貴族には個性的な髪色の人が多めである。
見た目変える魔法……残念ながら持っていないな。どうするべきか。
あ、ずっと影魔法で顔を薄暗くして、見えづらくしたらいいかも。そもそもあたりは暗いしね。
よし、じゃあひとまず今日は寝て、MPを回復させて、明日の夜出かけよう。
あ、ついでに、使う必要がなくて影の中にしまってたドッペルゲンガーに、魔力を足しておこう。
さぁ、旅立ちだ。
持っていくものは……特になし!
よって、風の障壁を出して……飛び降りる!
……よかった。ダメージは受けてない。
怪我もないし、早速魔獣の森に進もう。
た
流石にこの時間まで起きている人は、見張りの兵士くらいしかおらず、その人たちに精神魔法をかけてあげたら、簡単に家から出ることができた。
そして、ここはスラム。あ、平民街は普通の街だったから割愛する。
スラム、思ったより環境が悪い。悪臭がすごいし、空気も悪い。景観も汚い。謎の人骨が転がっている。正直言って、スラム、ここまでひどいとは思ってなかった。
ここを通って行かなきゃいけないのか……。ちょっと勇気がいるな……。
まぁレベル上げに必要なことだし、入るけど。
私は躊躇なくスラムに足を踏み入れた。
私はスラム街を軽く走り抜ける。
早くここから出たい…。流石に匂いが、ね。
しかし、小さな泣き声が耳に入って走るのをやめる。
どうやら子供が泣いているみたいだ。
まぁ、スラムではこんなこと日常茶飯事なんだろうなぁ。
なんか、この国にこんな場所があるの、不思議な感じがするな。現実味がないというか。私たち貴族はあんなに贅沢してるのに。
鳴き声は、小さなボロボロの家から聞こえてくる。
穴がいくつも開いているので中はのぞけそう。
……うわぁ。
そこには、すごくグロい状態の男の子が座っていた。具体的に言うと、傷だらけプラス血だらけ。
何があったんだろう……いや、スラムでは日常茶飯事なのだ、こういうことは。
でも、見て見ぬ振りをするのもなんかなぁ…。夢見が悪くなりそう。
……意を決して話しかけてみるか。
「ねぇ」
返事はない。それはそうか。こんな痛そうなのに、声を上げれるわけがないか。
しょうがない。魔力はあまり使いたくなかったんだけど…。
『光魔法レベル3:ヒール』
大きい傷は治せないけど、命を失うような事態は避けれたと思う。
男の子は目を見開いているけど、何も喋らない。
……気まずい沈黙が訪れる。
そもそも、助ける必要はなかったのでは?夢見は悪くなるけど、ヒールって結構魔力食うんだよね。
あ、でも、マフィアとかの情報は聞けるかも。ゲーム情報ではマフィアの本拠地はスラム街か平民街らしいし。
でも、喋らないからな、この子。どうしたものか。
悩んでいると、男の子がやっと口を開いた。
「なんで……」
「ん?」
なんで、っていうのは助けた理由かな?
「夢見が悪くなりそうだから」
理由はほんとにこれだけなんだよ。信じてくれるかはわからないけど。
たぶん、ここで怪我をしていたのが大人だったら見捨ててた。子供は死ぬべきじゃない。だって、未来があるんだから。
男の子は不思議そうな私を見る。まぁ、こんなことを言う人、スラム街にはいなさそうだし、そんな目で見られてもしょうがないか。
よし、じゃあマフィアの情報を……
って、こいつ寝てるぞ!?
うそぉ……助けた意味は?
でも起こすのも忍びないなぁ。
私は悩んだ末、魔獣の森に再び出発した。