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まさか真ボスに転生するなんて。
嬉しいか聞かれると、全く嬉しくない。
最強なのに、なぜかって?
そもそもボス討伐イベントは、主人公をいじめてきた悪役令嬢の断罪イベント後である。
そして、断罪イベントでは悪役令嬢が剣で切り殺されたり、連れて行かれて拷問を受けたり、毒殺されたり、大怪我させられたり、国外追放の後、事故に見せかけて殺害されたり……と。悪役令嬢はひどい目に合う。
え?そうしたら、真ボスとして登場できないだろうって?
恨みで生き返ったらしいぞ。
真ボスは何でもありなのだ。
まぁそんなわけなんだけど。
私は死にたくない。
痛いのも好きじゃないし、傷つけられたくない。
前世で、私は結局死んだのだろうか?思い出せない。
確か、最後に見たのは……片付いていない自分の部屋?
でもやけに視点が低い。床に転がっていたのかな?
そして、私の視界は赤く染まっていき―――
―――思い出すのはやめよう。
私は死んだ、その事実だけわかれば大丈夫だ。
死に際なんて思い出すもんじゃない。
まぁ、そういうわけで今世こそ楽しい人生を謳歌したい。
でも。
いくら強くても、悪役令嬢リエラルオーティは侯爵家の名前に泥を塗らないように、断罪イベント時に戦わないことを選んだのだ。マフィアの次代頭領や王族を殺せば、きっと家族が殺されるから、と。まぁ、結局リエラルオーティ〈わたし〉が死んだあとに両親も暗殺者によって殺されてしまったが、と。これは真ボス登場イベントでリエラルオーティ本人が言っていたことだ。
そして、今の私も権力には逆らえない立場。
このままではいつか、何かを失うときがくる。
いや、まぁ別に私は両親のことが好きとかそんなことはないんだけど。だって、OLとしての記憶があるし。正直言って自分の命のほうが大切。
でも、将来自分より大切な人ができるかもしれない。
ならば権力を捨てて平民になる?
――冗談じゃない。
今の私は3歳。外に身一つで出て、生きていけるとは思えない。
ならばどうすればよいのか。
権力を振るう側になればよいのだ。
おさらいしておこう。
この王国は王族の権威はほとんどない。
そして3つのマフィアが代わりに台頭している。
つまり、実質この国のボスはマフィアの頭領。
だから。
私はマフィアの頭領になる。
といっても、今やれることってそんなにないんだよね。
だって、私は侯爵令嬢。
家の敷地外に一人で出れるわけがない。
しかも、私って頭を打って、それから目覚めたばっかりなんだよね。原因は覚えてないけど。
それなのに激しい運動をするのは、流石に良くないかな。
うーん……あ、そういえば今の私の強さはどれくらいなんだろうか。
真ボスとして戦っていたときは相当強かったけど、子供の時の今はそんなに強くない可能性がある。
なぜあんなに強かったかは明かされていないし。どこかで修行した可能性や、何かの道具を使って強くなった可能性もある。
でも、どうやって調べれば良いんだろうか?
やはり、ここは定番の――
「すてーたす」
……何も起こらない。違うか。というか、これじゃ独り言をいう変な人みたいだ。誰にも聞かれてないとはいえ、少し恥ずかしくなってき―――
ブォンッッッ
なんかでてきた。
目の前の青い板を見つめる。
それはステータス画面であった。
乙女ゲームのときと全く同じ画面だ。当たり前だが、書かれている名前は違うけど。
とりあえず触れてみる。
スカッ
「あれ?」
どうやらこの青いパネル――ステータスパネルと呼ぼう―――には触れないらしい。
しょうがなくこれに触るのはあきらめて、文字を読むことにした。
文字は日本語ではないが、読める。公爵家では2歳のときに文字の教育が始まったからね。英才教育である。
……ステータスパネルには、次のような内容が書かれてあった。
『名前:リエラルオーティ・ベナティア
年齢:3歳
種族:人間
出身:ルベル王国
レベル:1
HP:6/7
MP:8/8
STR〈筋力〉:5
AGI〈敏捷〉:8
VIT〈防御〉:1
INT〈知力〉:12
DEX〈器用〉:3
特殊スキル:成長補正(Level:∞)
スキル:痛覚耐性(レベル1)、自然回復(レベル1)、鑑定(レベル1)、マナー(レベル1)
称号:転生者、侯爵令嬢、真ボス、悪役令嬢
祝福、加護、呪い:なし 』
…………あれ?弱いな。
思ってたんとちゃうなぁ。
強いと思ってたんだけどなぁ…。
……ちょっとだけ、期待してたんだけどなぁ…?
…………嘘です、めっちゃ期待してました。
最初から強いんじゃなかったの、真ボスって。
普通のスキル、何個かしか無いけど!?
ということは、真ボスが強かったのって特殊スキルのおかげか。
成長補正、レベル無限…
よくわからないけど、すごそう。
私が思うに、多分このスキルは、レベルアップした時に、HPとかのステータスの数値の上がり幅が大きくなるんじゃないかな?
レベル無限は……わからん。上がり幅が大きいって感じかな?
まぁ、レベルを上げないことには何も始まらないな。
今のままだと正直言って弱すぎる。
多分、この世界の3歳児の平均ぐらいの強さなんだろうけど……私がこの先生き抜いて行くには、まだまだ足りない。
だから、レベル上げをしたいんだけど…。
この世界でレベルを上げるには、魔獣を倒すことが必要だ。
魔獣は、魔力を持っていて、闇属性に魔力が傾いている動物だと言われている。本当かどうかはわからないらしいけど。
魔獣は主に森や平原、広く言えば人が少ない場所に生息している。
つまり、ここらへんにはいないってこと。
だって、今私がいる侯爵邸、王都のど真ん中。
つまり、大勢の人がいる。
……魔獣、こんな場所にいるわけ無いよね。
…………どうしよう?
考えたけどいい方法が思いつかず、3日が過ぎた。
……暇だ。
いや、完全にやることがないってわけではない。
だって、午前中は家庭教師が来てるんだもん。
転生しても勉強……世知辛い世の中だ。