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俺は魔力を持っているので適性魔法である火魔法、風魔法、闇魔法を使うことができる。
それに、資金確保のために魔獣をたくさん狩ったことで、強くなったし、上級魔法も使えるようになった。
強さには自信があった。
なのに。
どうなってるんだ。
目の前の公爵令嬢に向かって、『影炎』初期メンバーであるオルティア――今はスレイだったか――と絶えず攻撃をしかける。
スレイも、上級魔法をいくつも持っていて、攻撃の合間にそれを使用している。
しかし、目の前の化け物には傷一つつかない。
風魔法『ハリケーン』で切り刻もうとしても、火魔法『地獄の業火』で燃やし尽くそうとしても、闇魔法『ブラックホール』で消し飛ばそうとしても。
何をしても、化け物は魔法の中心で微笑んでいるのだ。
どういう原理かわからない。
それに、この化け物はこの地下施設全体に結界をかけている。
俺達が上級魔法をいくつも放っても、周りに何も影響がないのがその証だ。
その分魔力は減っているはず、なのに。
化け物の魔力は減らないし、そもそも、元々魔力が少ない。
どうなっているんだ。
これは影武者なのか。
そもそも人間なのか。
全て夢なのではないか。
魔力が底を尽きたことで、倦怠感に襲われる。思わず膝をついてしまう。
だが、戦いをやめるわけにはいけない。
スレイがまだ戦っているのに、自分だけ休むわけには……そう思い、再び立ち上がろうとしたところで、化け物が、小さな口を開く。
「…そろそろいいかな?」
ゾッとした。
おそらく、スレイと二人同時に後ろへ下がったのは、人間としての防衛本能だったのだろう。
そして、次の瞬間襲ってくる、謎の重圧。
俺達は、地に伏せさせられた。
あまりの重さに、立ち上がることすらできない。
俺は今、生まれて始めて、心の底から恐怖を感じている。
「ねぇ、はなしを聞いてほしいんだけど、マ――」
化け物がなにか言っているが、聞き取れない。
俺の意識は遠ざかりつつあった。
あぁ、本当に、ツイてない人生だ―――
〈リエラルオーティ視点〉
スレイとゴーデルが襲いかかってきた。
…まぁそうだよね。投げ飛ばされたら怒るよね。
私だって、戦闘が起きないなんて思ってない。この人たちのマフィアを乗っ取ろうとしているわけだし。
それにしても、人との戦闘は初めてだ。
今まで、魔獣の相手ばっかりしていたから、どうしてもフェイントに引っかかりそうになってしまう。
まぁ、そう言っても全くと言っていいほど動いてないけどね。
ゴーデルの拳による攻撃や、スレイによるナイフでの攻撃は、摩擦力を操作で摩擦を無くし、肌の表面を滑らせることで、ダメージをゼロにする。ちなみにこれは地魔法の応用でできた。重力操れるんだから、力も操れるんじゃない?と思って試してみたら、大正解だった。
魔法での攻撃は、空間魔法で亜空間を創造して、新しく作り出した亜空間にポイッと放り込む。
え、地下なのに崩れないのかって?
大丈夫、ゴーデルを投げ飛ばした時点でスキル『結界』を使ってたから。
私は空間魔法『テレポート』によって逃げれるけど、この二人や、奥で様子をうかがっている何人かは生き埋めになっちゃうからね。
それは交渉に響く…というか、交渉ができなくなるので良くない。
でも、いい加減飽きてきた。
魔力が少なくなってきたのか、小さな魔法ばっかり打つようになってきたし。拳やナイフさばきには、さっきくらいのキレはない。
あ、ゴーデルが膝をついた。ここらへんが切りどきかな?
「…そろそろいいかな?」
そう二人に聞いた。
すると、二人はバッと後ろに下がった。
すごく警戒されてる。このまま話し合いは無理か。
そう判断し、大人しくさせれそうな魔法を考える。
うーん…とりあえず重さを加えてみよう。
地魔法『重力操作』を、今度は二人にかける。もちろん、重力の方向は下向きに。
「グッ……」
「う………!」
二人とも呻いてる。そして、頑張って立とうとしている。
そこに声を掛ける。
「ねぇ、はなしを聞いてほしいんだけど、マフィアをわたしに――」
――くれないかな、って言おうとした。
でも、やめた。
バタッと音を立てて、二人が同時に気絶したから。
……やりすぎた?
二人が目覚めるのを、椅子に座りながら待つ。
…………こちらを伺っている人たちに、声をかけたほうがいいのだろうか?
気配は消しているんだけど、魔力がだだ漏れ。私にバレていないと思っているのだろうか?
とりあえず暇だし、声掛けよう。
「そこのひとたち……」
「ヒッ……」
……怖がられてる?
まぁ、あれだけゴーデルとスレイをボコボコにしたらビビられるか。
出てきたのは二人。
男女一人ずつである。
ほんとはもう一人いるんだけど、屋根裏からでてこない。…怖がられてるか。
出てきたうちの一人――男の方が、私を睨みつけて口を開く。
「この化け物……!」
「ちょっと!!!」
女が男を青い顔で宥める。
私は目をパチクリ。
化け物って言われた。
「……人間だよ?」
私は首を傾げて、二人にそう言った。
すると、二人は「何この子…」と言わんばかりに、変なものを見る目で見てくる。
何で?