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恋人は謎多き冒険者  作者: 七夜かなた
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第5章ー6

少年の手を握りマリベルは時折転びそうになりながら走った。


しかし、子供二人の足ではすぐに追いつかれてしまい、袋小路に追い詰められた。少年がマリベルを男たちから庇って立つ。


「頼む!何だってするからこの子だけは見逃してくれ、母親が病気なんだ。きっと心配している」

「…、今更正義感を振りかざしても遅い。ここから逃げても、お前も立派な犯罪者だ」


男の言葉に少年がギュッと握った拳が震えている。彼だって怖いのに、必死でマリベルを守ろうとしてくれているのだ。


切羽詰まった状況なのに、一人じゃないとマリベルは心強かった。


「マリベル!」


そこへ聞き慣れた声が聞こえた。


「お父さん!」


男の背後から父の姿を認め、マリベルは駆け出した。


「くそ!」

「あ、だめだ!」

「マリベル!」


少年が引き止めようとしたが、男が抜いた剣の方が速かった。


「え」


一瞬、何が起こったのかわからなかった。背中に何かが触れたと思った後、鋭い痛みが体を駆け抜けた。


「ガハッ」


男の抜いた剣が後ろからマリベルの細い体を貫いていた。


「マリベルゥーッ」


彼女に向かって走ってくる父の姿が霞む。


「ゲボッ!」


男が剣を引き抜き、マリベルが血を吐いてふ地面に落下した。


誰かの悲痛な叫び声が耳を劈く。自らの流す血の海の中で、マリベルは目を閉じた。


「!!!はあ!」


あまりの衝撃にマリベルは飛び起きた。


「ゆ、夢…」


まだ心臓がドキドキしている。あれは単なる夢?それとも…

高鳴る鼓動に胸を抑えようとして、誰かに手を握られていることに気づいた。


「フェ、フェルさん?」


見覚えあるアッシュブロンドの頭に向かって名を呼ぶと、その人物がガバっと起き上がった。

そこはギルドの医務室の個室だった。


「マリベルさん、気が付いたんですね」


そう言って顔を上げた彼の顔は、痩せて頬が痩け目が落ち窪んでいた。

でも、そうなっても彼は男前だと思った。


「良かった…なかなか熱が下がらなくて、もう駄目かと」


声も握る手も震えている。


「私…」

「物凄い高熱が続いて、五日も意識がなかった。ガードしたつもりだったが、魔物の毒に当てられたみたいだ」

「魔物の…」


そう言われて、何があったのか思い出した。


「そうだ、わたし…剣で殺されて…あれ、じゃなくて、副ギルド長…魔物の死骸が…真っ黒の鎧を着た人が…」


どれが現実でどこまでが夢なのか、頭の中がぐちゃぐちゃだった。


「マリベルさん?」


心配して彼女の顔を覗き込むフェルと目が合う。その顔が夢の中で見た少年の顔と重なった。


「フェルさん…わたしたち、前に会ってる?」


そう呟くと、フェルの顔が強張った。


「あの…ご」

(あ、違ったかな)

ごめんなさい、勘違いでしたと言おうとした。

「思い出したのですか?」


今にも泣き出しそうなフェルの表情に、マリベルは言葉を失う。

剣を突き立てられたのはマリベルなのに、フェルの方が辛そうだ。


「私…一回死んだの?」


記憶が蘇って恐怖に震えたが、十二年も前のことだからだろうか。思ったよりパニックにはならなかった。


「危なかったけど、死んではいません」

「何があったの?」


気を失ってからのことを知りたくて尋ねた。


「君が血塗れになったのを見て、俺の魔力が発動した。君を抱きかかえて気が狂ったように魔力を暴走させたのを、駆けつけた魔導騎士団団長が何とか抑え込んでくれた。俺も気絶して、そのまま国に保護された。一週間後、君のお父さんが訪ねてきて、君があの日のことはまったく覚えていないことと、出来れば思い出させたくないこと、だから俺にも会わせたくないって言ってきたと」


マリベルは魔導騎士団の術士二人がエクストラヒールを掛けてくれて助かった。フェルに命令し、マリベルを売り飛ばそうとしていた男たちは、フェルの暴走した魔法で跡形もなく消えた。

その後すぐに母が亡くなって、そのままマリベルは父とラセルダに来たのだった。


「でも君のことはずっと忘れたことはなかった。団長の養子になって、魔導騎士団に入って、いつか君を守れるようになりたいって頑張ってきた。養父ちちの後を次いで団長になることが決まった時、君のお父さんに会いに来たが、君があの時のことを自ら思い出すまでは、そっと見守っていてほしいと言われた」


それで冒険者フェル=カラレスとして、訪ねて来るようになったのだった。


「君のお父さんが亡くなった聞いて慌てて君の所へ飛んできた。でも、俺にはどうしたら君を慰められるのかわからなかった」


月に一度訪ねてくる冒険者が、急に大変だね。俺が力になるよって言っても、素直にありがとう、と受け入れることはなかっただろう。


「家を探してるって聞いたから、評判のいい家主が経営するアパートを探して買い取って、彼らには大家のままそこに住んで貰うようにした。安い家賃で君が住めるようにしたんだ。本当はタダで良かったんだけど」

「え、ちょ、ちょっと待って」


ドリトシュ夫妻のアパートのオーナー?

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