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恋人は謎多き冒険者  作者: 七夜かなた
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第3章ー5

あの後、ウルフキングを含むベアドウルフの死骸の山を囲み、辺りはてんやわんやの大騒ぎになった。


ギルド長が静かにと叫んで、一旦騒ぎは収まった。

そしてそのままフェルはギルド長の部屋へ連れて行かれた。


残された一角モグラとウルフキングらの査定と始末にマリベルたちも追われて、あっという間にその日は終わった。


「すごいね、マリベルの恋人」

「そ、そうかな」


そんなことを皆に言われたが、一番驚いているのはマリベルだった。

これまでフェルはただの数多くいる冒険者の一人だった。

レベルもいたって普通。ただ受けた依頼は一度も失敗したことはない。

それは身の丈に合った依頼をこなしていただけだからだと思っていた。実際彼はランクに適用した依頼を受けていたから。

しかし、本来A級ランクの者が受ける依頼を、さらにウルフキングの出現でSランクに匹敵する事案を片付けたことで、彼への注目が一気に高まった。


(フェルさんって実は物凄い実力者?)


まだまだマリベルの知らないことがたくさんある。


反対にエミリオの評判はこれ以上ないという位に落ちた。


「あいつ、人がランク下だとまるで手下のように扱うんだ」

「しかも一緒に飲み食いしたら、下の者が出すのは当たり前だって言って、銅貨一枚出さない。普通逆だろ」

「おまけに一緒に組んだ依頼の報酬の配分は、一番多いんだぜ。何だかんだ言い訳して荷物運びも人にやらせて、依頼の達成報告は自分の名前で出す。最低だ」


ほんとに最低だ。

次から次へとエミリオに対する鬱憤が爆発する。


「プリシラも大変ね。あちこち借金もあるみたいだし、それもA級だからって信用貸してたみたいよ」


どこから聞いてきたのか、受付でもそんな話で持ちきりだった。


「マリベルさん」


マリベルの終業時刻になって、ようやくフェルがギルド長の部屋から出てきた。ちなみに副ギルド長は王都に行くと言って、留守になっていた。


「お、英雄のお出ましだな」


受付周辺にもう殆ど人はいなかったけど、それでも何人かいて、噂がもう飛び交っているのか、フェルの姿を見て皆が拍手喝さいをした。

医務室からはガービーさんや治療を終えたバーツさんが出てきて、そんなフェルにありがとう、命の恩人だ。ダルクのこともこれで家族に形見を送ってやれる。と涙まみれになって感謝されていた。

バーツさんは手指がいくつか凍傷により欠損したが、命には別状はなかった。

ただ、冒険者を続けるかどうかはまだ決めていない。


「マリベルさん、もう今日の仕事は終わり?」


彼らの感謝も、周りからの拍手喝采も、フェルは受け流してマリベルに声をかけた。

一見無視しているのかと思ったが、小さく「当たり前のことをしただけだ」と呟き、耳が少し赤くなっていたので、どう返していいかわからなかったのだろう。


「さあ、皆、今日は彼も疲れているだろうか、これくらいで勘弁してやってくれ。マリベル、同じアパートなら一緒に帰っていい」

「あ、はい…ありがとうございます。それじゃあ。フェルさんここで待っててください。支度してきます」


マリベルがそう言うと、フェルはこくりと頷いた。


「君がいてくれて良かったよ。ありがとう」


更衣室へ向かうマリベルの背中で、ギルド長がフェルにそういうのが聞こえた。


二人で朝と同じ道を歩いてアパートへと帰る。


「今日はお疲れ様。何か食べたいものがありますか?  私が何かご馳走しますよ。あ、でも、プリシラのいる居酒屋と、あまり高い店は無理ですけど」

「いやじゃなければ、マリベルさんのご飯が食べたい」

「え、でもお疲れ様会だし、昨夜も食べた…」

「でも、それがいいです」


マリベルとしては自分の料理よりもっと美味しい店があるのに。という思いはあったが、もしかしたら人が大勢いるところは苦手なのかもと思い直した。


「じゃあ、帰ってから作るからすぐには食べられませんけど」

「構いません。作って…くれるのですか?」

「ええ、じゃあ市場に寄って帰りましょう」


市場でコカトリスの肉と野菜を買い、卵やパンと果物も買ってアパートへ戻った。

荷物もフェルが持ってくれて、ある店では「新婚さん?」と尋ねられた。


「ち、違いますよ」


否定したマリベルだったが、フェルは驚いては固まってしまった。

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