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星と海  作者: 雨足怜
7/26

星ねがい

「みうい!商店町の星を見つけに行こう!」

 ぽかんと口を開いて動きを止めているみういの手を引いて、僕は彼女と走り出す。

 放課後、動き出した人たちの間を縫うように進む僕は、けれどそこでようやく思考が追いついたらしいみういに手を弾かれた。

「……いかないの?星だよ?」

「今から掃除だから」

 行きたくて仕方がないというようにその目を輝かせたみういは、けれど拳を強く握って、使命感を瞳に燃やして告げた。

 ああ、彼女はいつだってまじめで、けれど星のことになると途端に目を輝かせる変わった女の子なのだ。

「わかった。それじゃあ僕は昇降口で待って……いいや、早く行くために掃除を手伝ってあげるよ!」

 彼女が断る前に、僕は他の教室の掃除当番の子に協力を申し出てまずは周りから囲む。

 ハァ、と小さくため息をついたみういを視界の端に捉えながら、僕は期待に胸躍らせながらほうきを手に取った。


 みういと初めて出会ったのは、小学二年生の時だった。学年全員で、バスで片道一時間ほどかかる市外の科学館に行った時だった。

 大きな天体模型を見上げて目を輝かせている彼女が、僕の視界に映った。その姿は、まるで文字通り夢見る少女だった。星が好きでたまらない、そんな感情が全身から伝わって来て、僕は気迫のようなものを感じた。昔、母に連れて行ってもらった時のオーケストラの迫力ある演奏を聞いたときに似ていたかもしれない。

 それ以来、僕は隣のクラスの彼女を意識するようになった。

 手製の鞄や筆箱には、星型のワッペンが縫い付けられていて、髪留めにも星の飾り。とにかく星が好きなんだということが一心に伝わって来て、僕はおかしくてつい噴き出してしまった。

 図書室に僕の小さな笑い声が響いて、いぶかしげに眉間にしわを寄せた彼女と、初めて目が合った。

 しばたたかれたその目は、次いで僕の手の中に在った小説を見て見開かれた。

「……その本、面白かったら教えて」

 僕の手の中に在った、表紙に地球が描かれたSF小説。妹のように思う相手に勧められた物語。

 それを見て目を輝かせる彼女が可笑しくて、そして彼女のことをもっと知りたいと思った。


 小学三年生でみういと初めて同じクラスになった。

 星が好きな彼女と、化学が好きな僕。同じ様でどこか似ていて、教室の中でも少し浮いていた僕たちは、だからこそというか、より一緒に行動することが大きくなった。丸くて大きな黒い瞳は、いつもは他者に対して無関心で光を帯びていない。けれど星のことになると、白皙の肌は上気し、目は爛々と輝き始める。

 肩までの黒髪を耳にかけ、彼女は僕が手にしている本を覗き込む。隣に彼女がいるという事実が、なぜだか無性にくすぐったかった。

 小学四年生、五年生と同じクラスになった。そうして今年、六年生となった僕たちは、相変わらず同じクラスで一緒にいた。

 僕はいつも彼女を目で追っていた。友人たちにその事実をからかわれて、ふと気づいた。

「あれ、僕ってみういのこと好きなのかも」

「お、おおう、そう、なのか?」

 あてが外れたというように目を瞬かせたクラスメイトの男子は、なぜだか残念な人を見る目で僕を見て、それから行こうぜ、と友人たちを引き連れて去っていった。

 それから、僕は彼女の関心を集めるべく、星に関して必死に学んだ。時には星に関する些細な噂を集め、みういに語った。

 そうして分かったことは、彼女は星を祈りの対象のように思っている、ということだった。星が繋げたロマンス、幸運の星、希望の星、そんな星の話を聞くとき、みういは恋する乙女のように一層強くその目を輝かせた。そんな彼女を見て、僕は自分の頬がひどく熱を帯びているのを感じていた。

 頬の赤さに彼女が気づいていないことが救いで、けれど僕に見向きもせずに星の素晴らしさに浸っている彼女を見て、少しだけ星という存在を憎く思った。

 そうして今日も、僕は星に関する情報を集め、みういとの放課後の約束を取り付けた。


「ほら、早く早く!」

 僕に引きずられるように歩く背後のみういの口からため息が漏れる。けれどその歩みが浮足立っていることに気づかない僕じゃない。

「別に慌てなくても星は逃げないよ」

「流れ星になって散ってしまうかもしれないよ?」

 本当の星ではないのだから消えやしないし、急ぐ必要はない。けれどからかい混じりにそう告げれば、彼女は僕の手から腕を振りほどき、逆に僕の腕をつかんで前を小走りに進みだした。

「陸が言ったんでしょ。ほら、早く!」

「分かってるって!」

 彼女と一緒にいられる時間を思って、僕は頬が緩むのを自覚しながら彼女と手を握り直し、商店町へと歩き出した。

 今日僕が仕入れて来たのは、近くの商店町の願いが叶う幸運の星の話だった。商店町に飾られたイルミネーション。そこにただ一つだけ星型の飾りがあって、それに祈りをささげると願いが叶うのだという。客呼びのための話題だろうけれど、それでみういが目を輝かせるのであれば子どもだましな噂だって僕は気にしない。

 まだ空は明るいとは言え、あと一時間もすれば薄暗くなっていく。本当は土曜日なんかに半日ほど時間をかけてじっくりみういと星探しを名目としたデートをしたかったけれど、それは諦めることにした。何よりも大事なのは、みういが楽しむことだから。笑顔なみういの隣にいるだけで、彼女の笑みを見ているだけで、僕は幸せだった。

 けれどできることならば、その幸せそうな顔を僕にだけ見せてほしかった。みういに、僕のものになってほしかった。

 そんな醜い心を隠しながら、僕は今日もみういと星を探す。

「おばあちゃん、商店町の幸運のお星さまについて何か知りませんか?」

 商店町の入り口、古めかしい見た目の和菓子屋さんをやっているおばあさんへと、みういは突撃していった。おじいちゃんとおばあちゃんと育ったからか、みういは高齢の人に愛される。白髪が目立つ駄菓子屋さんのおばあさんも「あらあらまあかわいらしいお客さんね」なんて言いながらみういを歓迎した。

「そうねぇ。この商店町にあるっていう話のお星さまは、それはもうきれいで、けれどはかない星なのよ」

「やっぱりあるんだ!」

 これ以上は秘密よ、とおばあさんは目を輝かせるみういと、それから僕を見てウインクをして見せる。うん、星を探すのだって大事な楽しみだ。僕たちは甘くて、けれどどこか酸味の混じった香りにそろってお腹を小さく鳴らし、顔を見合わせて笑いあった。

 頬が熱かったけれど、みういも恥ずかしそうに頬を赤くしていたからお互い様だろう。

 微笑ましげに僕たちを見ていたおばあさんの視線が痛くて、僕は恥ずかしさを振り切るようにひとしきり笑ってから、みういの手を取って商店町の中に入った。

 商店町に入ってから三十分ほど、まばゆい、けれどどこか寂しげなイルミネーションの明かりを見ながら、僕たちはひとけの少ない商店町をそぞろ歩いていた。

 きょろきょろと見回すみういの目はいまだに強い輝きに満ちていたけれど、僕はもう星探しの方は飽きていて、飽きもなく星を探して視線をさまようみういを観察するばかりだった。

「ないねぇ?」

「そうだね。……ねぇ、あの和菓子屋さんのおばあさんが言っていたこと、みういには何か分かった?」

「んー?」

 生返事で答えたみういは、僕が足を止めたことに気づいて不思議そうに振り返る。

「陸がもっとちゃんと探してくれたら見つかったかもしれないよ?」

「これまでの道にはなかったと思うよ。そもそも、星をこよなく愛するみういが、視界に入った星を見逃すはずがないでしょ?」

 星への愛を試すようなことを言われれば、みういは「もちろん」と胸を張って見せた。これで僕が途中から星を探していなかったのはみういの星への愛を信頼していたからとなり、僕は罰から逃れることに成功した。

「それで、さっきの話なんだけどさ」

「さっき?」

「……聞いてなかったんだね。ほら、駄菓子屋のおばあさんの話。なんかヒントみたいなのを話していた気がするけれど、何か分かった?」

 目を瞬かせたみういは、すっとライトの一つを指さす。

「お星さまがはかないって言っていたでしょ?それって多分、寿命のことだと思うんだ。例外はあるだろうけれど、だいたい若い星は青色で、年寄りの星は赤色になっていくの。あんな感じに」

 みういと一緒に読んだ星に関する本の内容を思い出して、僕はそういえばそうだったと思い出した。星を愛するみういと違って、僕の星への愛はそこまで強くない。だから覚えていなかったことを責めるような視線を向けられても困る。

 僕が好きなのは星好きなみういであって、星ではないのだ。

「もう一度しっかり復習しておくよ。で、つまり赤色の星だってことだね?」

「たぶん。だから陸は赤色だけでもいいからしっかり確認して」

 そう告げて、みういは再び商店町の一本道を歩き出す。ゆっくりと亀が進むような遅さで歩きながら、僕たちは両脇の光を観察する。けれど費用のせいか、イルミネーション自体それほど多くなくて、さらにはよく見れば今日は光っていない明かりも多かった。

「ねぇ、まだ光っていないライトが星の形になるとかじゃないよね?」

 不安になったそう尋ねれば、違うと思う、と静かな言葉が僕の耳に届いた。

「もし今日は光っていなかったら、おばあさんは『またおいで』って話してくれたと思うから、多分今日も光ってる……はず」

 先を行くみういは、言葉を尻すぼみにしながら立ち止まる。両側に並ぶ、半分ほどシャッターが下りた商店町の店。その外に飾られたイルミネーションを観察するのをやめ、僕はみういの背中を見る。

 彼女の視線の先、燃えるような赤がそこにあった。一瞬、僕たちが探している星だと思った。

「……今日はおしまいだね」

 悲しそうに眉尻を下げたみういが振り返る。その背後には商店町の終わりがあって。そして空は夕日で真っ赤に染まっていた。

 商店町を戻って帰り道を早歩きで進みながら、やっぱりみういは星を探していた。星型の、飾り。ただの客寄せだろうそれは、けれどみういにとっては大きな価値を持つ。

 星が好きな彼女の顔に、あふれんばかりの幸福に満ちた笑顔を取り戻したい。自然と、手はポケットの中へと入っていた。

 じゃらりと、砂粒のような塊が手に当たる。

 今じゃないと、自分に言い聞かせて。僕は再び前を向くみういへと視線を向けて。

 ふと、顔を上げた際、視界の端を赤いものが映った気がした。そこにあるのは、ガラス窓のお店。何を売っているかもわからないお店は、筆記体で店の名前が書かれていたけれど読めなかった。

「みうい、ちょっと待って」

 早く帰らないの?とみういが視線で僕に問う。みういに苦笑で答え、僕はちょいちょいと店の扉を指で示す。

 不思議そうに首をひねりながら、みういは黙って扉に手を伸ばした。

 チリン、と涼しげな音が響く。その先には、埋め尽くすようにそびえる無数の本棚と、色あせた背表紙の本が並んでいた。

 わぁ、とみういが小さく歓声を上げる。ぽかんと口を開けていたのは、多分みういだけではなく僕もだった。

 星と化学の本を求めて学校の図書室に通う僕たちは、本好きでもある。目の前にあるたくさんの本たちから気に入るものを探す行為は、宝物を探すのに似ていた。けれど今日探しているのは、面白い本ではない。

「……ほら、あれ」

 本の海にトリップしそうなみういの肩をたたき、僕は視界の端にあるそれを指さした。その先へと視線を向けたみういが、大きく目を開いて僕を見る。

 瞳の中、キラキラと天の川のような星々が輝いていた。頬は上気し、頬は限界まで吊り上がる。差し出された手に、僕は静かに、けれど軽く音がするように手のひらを重ねる。

「やった!」

 小さく告げたみういは、すぐに僕のことなんて忘れたように、その古本屋の奥にひっそりと飾られた赤い星を見つめ続けた。まさか店の中にあるとは思わなかった。けれど確かに店の中だって商店町だ。半分ほどシャッターが下りているとはいえたくさんある店を回らずに星を見つけられたのは幸運だった。

 いいや、一軒一軒お店を回って、みういとショッピングをするのもよかったかもしれない。星を探すとなれば、みういは何時間だって僕と一緒にいてくれただろう。

 失敗したとそう思ったけれど、手のひらサイズの小さな星のイルミネーションを見て目を輝かせるみういの横顔を見ていれば、そんな後悔はあっという間にかき消された。

「ほら、お願いをしよう?」

 僕の言葉でようやく日が落ちかけていることを思い出したらしいみういは、それからそっと両手を合わせ、長いまつ毛に縁どられた目を閉じた。僕もまた、少しだけ横目でみういを観察してから赤い幸運の星の飾りに手を合わせて祈りをささげた。

(どうか、僕に告白する勇気をください。そして、みういがいつまでも幸せにいられますように)

 その願いが届くとは思わなかったけれど、それでもよかった。覚悟は決まった。あとは行動するだけ。

 再びポケットの中に手を入れ、僕はそれをぎゅっと握りしめた。

「ねぇ、陸はどんなお願いをしたの?」

「秘密。みういは?」

「わたしも秘密」

 顔を見合わせ、僕たちは笑いあった。まじりあって本棚の海の間に消えていく声に、ひっそりとした森のような、別の声が重なる。

「君たち。クリスマスの二日間はもう少しきれいに飾るから、よかったらまた来な」

 いつの間にか僕たちのすぐ横に立っていたひょろりとした男の人に話しかけられ、僕たちは飛び上がるほど驚いた。息を荒くしながらその人の方を見れば、年齢のよくわからない真っ黒な服装をした男の人は、色付きの眼鏡の奥の目を楽しげに細めて笑った。

「そうだね。また来ようか、みうい。二人で一緒に。……そうだね、その時には僕のお願い事を話してあげるよ」

「うん。楽しみにしてる。また来ます、お兄さん」

「お兄さんとはお世辞がうまいね。次の時には本も見て行ってな。おすすめばかりだよ。ひょろっとした少年は多分、かなり本が好きだろう?それに少女も、ね」

 店主に見送られながら、僕はスキップしたいほど心躍っていた。

 みういと、クリスマスの約束ができた。もう一度商店町の古本屋に行って星を見る。くしくも叶ったクリスマスデートを思い、僕は古本屋のお兄さんに感謝の念を送った。

 ずきん、とわずかに心臓が痛んで足を止める。

「どうしたの?」

 前を歩いていたみういが不思議そうに首をかしげて僕を見た。なんでもないよと、そういいながら、僕は笑ってみういの横に並んだ。


 気づけばわたしは、今日という日を心待ちにしていた。クリスマスイブ。普段はおじいちゃんとおばあちゃんとご飯を食べるだけのイベントの日だったけれど、今日は特別だった。

 今日は、陸と一緒に商店町に向かう約束をしていた。目的は、幸運の星だという赤い光の星を見に行くこと。これほど心が躍っている理由を、わたしは陸を待ちながら考えた。

 わたしは確かに星が好きだ。けれどそれが、三十分前から待ち合わせに向かう理由になるだろうか。一週間もの間、今日という日を心躍らせて待つ理由になるだろうか。

 足りない、と思った。星だけでは、わたしはここまで今日が楽しみにはならなかった。思い出すのは、今日の朝、おばあちゃんがわたしをまぶしいものを見るように目を細めて見ていたこと。おじいちゃんがなぜだか怒っていて、おばあちゃんがおじいちゃんをなだめていたこと。

 長い、長い時間だった。刻一刻と過ぎていく公園の時計の針を、じっと睨み続けた。陸は、まだだろうか。会って話がしたい。話したいことが、たくさんあった。星の話だけじゃない。陸の語る話を、聞きたかった。化学のことになると目を輝かせて、面白い実験を試した際の失敗などを語る陸を見たかった。

 陸に、会いたい。

 寒空の下、わたしは手袋をすり合わせ、手に息を吹きかける。時計が、約束の時間を差した。けれどまだ、陸は公園にやってこない。

 一分、二分。じっと待ち続けた。

 五分を過ぎるころには陸に罰として何をさせようかと考えた。

 十分を過ぎるころには、先に行ってしまおうかと思った。けれど約束は約束だ。二人で一緒に、あの星を見に。

 そうして、三十分が経った。公園にやってくる人影を見るたびにわたしは勢いよく彼ら彼女らの方を見た、不思議そうにわたしを見つめる親子から目を離し、時計をにらむ。


 陸は、どれだけ待っても来なかった。

 約束は果たされず、わたしが陸と一緒に星を見ることも、陸がお願い事の内容を話してくれることもなかった。

 一時間が経った頃、息を切らせたおじいちゃんが待ち合わせの公園へとやってきて、わたしの両肩を強くつかんだ。

 落ち着いて聞けと言われた。おじいちゃんが落ち着いてと言いたい中、わたしは黙って言葉を待った。真剣なおじいちゃんが、ためらうように一度口ごもった。

 嫌な予感がした。ここに来ない陸と何か関係がある気がした。

「陸くんが……亡くなったそうだ」

 瞬間、すべての音がわたしの世界から消えた。


 お葬式の時、わたしは陸に会えなかった。交通事故にあって見られる姿ではないという陸の顔は、隠された。

 陸が本当に死んだのかもわからず、わたしは陸と永遠に分かれることになった。

 顔も覚えてない、写真でしか知らない両親のことを思い出した。お父さんとお母さんのように、陸もまたわたしと二度と会えなくなった。

 瞬間、わたしは沸騰するような怒りに襲われた。

「どう、して!どうして!ちゃんと祈ったのに、ちゃんと、願ったのに、どうして……」

 陸と一緒に、いつまでも星の話ができますように――赤い幸運のお星様に願ったわたしの祈りは、叶うことはなかった。

 陸は死んで、そして。

 わたしは胸にぽっかりと空いた穴のおかげで、わたしの中で陸がどれほど大きな存在だったかを知った。


 陸が好きだった――失って初めて、わたしは自分の感情に気づいた。

 すべてはもう遅かった。


 祈りを叶えてくれない星は、もうわたしにとって大切な物ではなくなった。星を見るだけで嫌になった。陸のことを思い出してしまうから。

 星のワッペンを縫い付けた、おばあちゃん手製の手提げ鞄やペンケース。そしてたくさんの星に関する本を、わたしは押し入れに封印した。最近ではわたし一人の寝室になった部屋の天井、そこで光る蛍光の星の光を、わたしはすべてはがした。

 大きな北極星、導きの星を手に、祈りをささげてみた。どうか、陸にもう一度会えますように。

 叶わぬ願いを星に押し付けて、その願いが叶わなかったからと、わたしはますます星に対する嫌悪感を強めた。

 おじいちゃんとおばあちゃんに、その星を手渡して、わたしは自分の身の回りから星を消した。


 わたしはもう、星に願わない。

 夢見がちな少女は、もういないのだ。


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