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  作者: れいちぇる
第五章「幻獣大戦 収束」
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第五十三羽 「幻獣大戦」

 風が冷たい。空は厚い雲に覆われ、大地は乾いていた。時節としては降雪があっても決して珍しくはない。風は海からの湿り気を含んでおり、実際遠くに見える山地は厚く雪化粧されていた。

 この地域はやや北方に位置するものの、沿岸部は南からの暖流の影響で、緯度の割に寒さが厳しくなりにくい。これまでであればたとえ冬季であったとしても、交易が盛んな土地らしく人の活気を感じただろう。だが今は違う。


 周囲から響くのは、甲高い金属の軋轢音や炸裂音。

 半年を超える戦火の収着が始まっていた。


 おびただしい数の、銀に輝く機械が進軍する。人間よりも一回りほど大きく、腹部には四つ足、上体には一対の腕部を持っていた。小型の頭部には前方に向けて二本の角が備えられ、銀の装甲には青色に文様が装飾されている。機械の兵隊の後方には銀の巨人が控えていた。


「ワイルドハント」と呼ばれる同期統制システムによって、ゴンドワナの劣勢と思われていた戦局が一変。高度な精神感応と操作技術を要する魔道書の複数を同時に、かつ有機的に操作する事が出来るようになったためだ。

 戦力を抑え込んだと考えられていた各基地での戦闘が激化し、ロディニア勢力と均衡を取るまでに至った。また一部では戦局が逆転した地域も出た。ロディニアにとって幸いだったのは、そこから一気呵成にゴンドワナの進行が再開されなかった事だった。ゴンドワナは墜落の影響から国力を遠隔地にまで大きく割く事が出来ず、もともと各基地の戦力の増強が困難な状況にあったためだ。だがロディニアにとっても各地の制圧に割ける兵力に限りがあり、この状態が長く続けばもともと人口も勢力も大きなゴンドワナを抑止し続ける事ができないと判断されていた。

 他のハイランドはアースでの戦争に関して静観する姿勢を崩していない。唯一「ローラシア」が、ロディニアの援助を行っているだけだった。

 ローラシアもロディニア、ゴンドワナと同様に光子炉の故障によって墜落したハイランドだ。ローラシアが墜落したのは浅い海域で、アースの集落や都市への被害は小さく済んだ。その後ロディニアが率先して援助を行い、ローラシアもアースの周辺地域からの協力を受け入れ、幸いな事に復興が早く進んだ。その義を返す意もあり当初からローラシアは物資の供給などロディニア側への後方支援を行っているが、最大のハイランド「パンゲア」に次ぐゴンドワナの国力は、もともとロディニアとローラシアを合わせたよりも大きいと言われている。光子炉を失い、国力を回復させる事に時間がかかっている今の機会を逃せば、ゴンドワナが有利になりかねない。


 機械の軍隊が進む前方には石造りの壁が見える。その奥の方にはかなり高い塔と思われる建築物が見られた。塔を守るようにそびえる壁は大した高さではなかった。しかしその壁に開いた狭間窓、上端の回廊には多くの筒が備えられていた。空気の引き裂かれるような音と同時に、筒から光線が地に向かって走る。ぐわっと爆ぜる音とともに土が巻き上げられ、抉られた。進行方向に大きく窪みが出来たが、機兵達は意に介さず前進を続けた。四足である事が幸いし、悪路であっても問題なく前進する。その様はカマキリが走行しているのに似ていた。

 光線がカマキリの軍勢の中に着弾し、ぐわっと言う音と共に数体の機兵が宙を舞った。多少被害が出ても機兵の進軍は止まらなかった。立て続けに何発も隊列に光線が命中したが、全く怯むことが無い。

 押し寄せる機械の波の中に、突如大きな影が射した。その影はさらに大きくなり、突風とともに何体もの機兵を蹴散らした。頭部や腕などのパーツが飛散する。その時初めて機兵の群れの流れが止まった。破壊された物を中心とした同心円の中にいた機兵が円陣を組み、上空に見える影に向かってその腕を上げた。腕の先端、手である部分は二又に分かれており、その部分がさらに開いて内側から仕込まれた銀の筒が現れた。そこから次々と光弾が乱射される。しかし突如機械の群れを襲った影は速度を上げて空を舞い、その放たれた光弾は命中しなかった。影は旋回し、再び群れに向かって迫る。


 羽ばたき空を舞うその姿は鳥を思わせたが、その翼は長大な前肢とその手指の間に広がる皮膜で出来ており、羽毛の一切が無く全身は硬い鱗で覆われていた。その姿は蜥蜴や蛇と相違ない。その力と自在に空を渡る姿に、古くから多くの者が魅せられた。空の支配者、翼ある竜ワイバーン


 また新たな影が機兵の群れの上を走り、再度空から襲いくる翼竜に向かっていった。ロディニアのミスリルゴーレム、空戦用のタイプ・フリューゲル、ヴァーダ=ブロウだ。その腕にはブレードを構えていた。ブレードは腕部装甲に直接装着されており、その刃渡りはおよそその巨人の腕と同等。光の粒がこぼれる銀の翼を羽ばたき、追い抜きざまにブレードを振り抜く。旋回してさらに翼を開いて制動をかけ、刃をかわした翼竜の方へと巨体を向けた。

 ヴァーダ=ブロウはオルガ=ブロウよりも軽量化、エリクサー消費量を抑えた機体で、稼働時間の延長とコストの削減を実現し、量産、汎用化したミスリルゴーレムだ。オルガ=ブロウに比べて出力や防御装甲が低く抑えられているが、訓練や操縦の際のパイロットの負担が少ないため、空軍の有人機の主力として実戦配備されている。

 撃墜し損ねた相手はすでに上空に揚がり、大きく羽を開いて滑空していた。はじめは一体だったが気付けば翼竜は三体になっていた。数の不利にひるむことなく、銀の翼を持つ巨人は竜の群れに向かって飛翔した。


「フリューゲルにてワイバーンを迎撃。右翼第三隊はフリューゲル支援のため分離。防御態勢のレギオンに隊列へ戻るよう信号を送れ」


 指示を受けるとすぐに大隊の一部に動きが出始め、本隊から離れた所に一つの島を作り、その島を作る車両からいくつもの砲塔が空に向かって伸び始めた。また機械の河の中に生まれた島は緩やかに崩れ始め、後続の流れと一体となって壁に向かって進んでいった。


―53―


  もともとここに在ったのは交易によって栄えた都市だった。海運を中心に各地から様々な物資が運び込まれる。当然都市の中にはそう言った物資を蓄えるための倉庫や、加工するための工場が多数存在した。浮き島の墜落による被害を免れたそれらの施設は、この地の支配者が交代した現在も使用されている。すべてを一新するための物資も時間もなかったのだから、現地で使える物はそのままにし、自分達の用途に合わせて改装していた。

 港には倉庫はもちろん工場も多数に及ぶが、この都市の交易は港周辺だけでは賄いきれないくらいの規模だったため、港から離れたところにも倉庫や工場が設営されていた。そう言った離れにある施設を利用するため、この都市は水路を発達させていた。その水路は都市の防御にも利用されている。橋を架けたり降ろしたりする事で外敵の侵入を防ぎ、また都市の外周を囲う城壁をさらに取り巻くように太く深い水路を走らせていた。当然のこと、現在壁内への門は閉ざされ、橋は上げられていた。


 壁からの砲撃に怯むことなく水路の目前に機兵が迫る。機兵の部隊の後方には陸戦型ミスリルゴーレム・タイプ・ギガンテ、ヴァルナ=ビート四機と高機動戦車、大小のトレーラーが並んでいた。骨組みだけの傘を前方に張り出したような機体もある。待機しているだけではあるが、そのどれもがいつ出撃命令が下りても良いように緊張感に満ちていた。


「レギオン隊先頭、ゴンドワナ領域内まであと300!」

「三十秒後、全軍攻撃態勢のまま微速前進。射程内に入り次第砲撃開始。作戦通りレギオン隊進入後、一気に攻め込む。それまでは対空射撃および敵砲台破壊に努めよ。進行時はプリトウェンを先頭に全速前進。プリトウェンパイロットはAMF(注:アンチマテリアルフィールド。ゴーレムにも搭載されている防御システム)稼働によるエネルギー残量に注意せよ」


 出撃まで間もない。空気もぴんと張りつめ、いつ弾けてもおかしくない。その時だ。


「前方水路内に大型幻獣フィールド反応!」


 司令トレーラー内の観測官が大声で報告する。時を同じくして突如水路から水があふれ出した。その勢いは河を思わせ、周囲を瞬く間に浸食してゆく。水路の中にいつの間にか巨大な岩が現れていた。再び水が持ち上がる。盛り上がった水が流れ落ちたそこに現れたのは、蛇のように長い首を持つ爬虫類の頭部だった。吻部は細く長く、牙がうっすらと覗く。もたげた首は水路に現れた小さな岩山から生えていた。その竜は迫りくる軍勢を認めると岩山全体の向きを変えて、正面から軍勢を迎え撃つ姿勢を取った。大きな波音を立てて岩山が立ち上がり、水の中から現れた巨大なひれを水路の縁に叩きつけて身を乗り出した。着地した時に鰭を叩きつけられた水路の護岸には深く広くひびが入り、一部舗装が捲れあがっていた。

 岩山を背負う竜はその喉を膨らませ、大量の水を一気に吐き出した。鉄砲水を思わせる水流が進軍を続ける機兵を飲み込んだ。水の勢いに負けて一部の自動機兵が押し流されたために隊列はやや乱れたが、その程度では進軍を止める事は無かった。押し流された物も水流が引き勢いを落とすと再び前に向かって走り出した。作戦に変更は無い。軍勢は強行突破を試みる。しかしゴンドワナも楽に突破させるつもりがあるはずもない。いつの間にか岩山を背負った竜の目の前に、宙に浮く長身痩躯の老人の姿があった。


「新規幻獣フィールド反応! 大型前方の老人からです! 大型幻獣、データ照合結果出ました! 上級幻獣、大河の主ガルグイユです!

 老人型、該当データなし! 注意してください!」


 それは雪を思わせる白色に青みがかった銀の刺繍を施した法衣に身を包む白髭白髪の老人だった。穏やかな笑みをたたえながら、ゆったりとした動きで手にした錫杖を掲げた後、錫杖の先端に付いた宝玉を前方に向けた。岩山を背負った竜の起こした洪水は一瞬で凍結し、進行していた自動機兵をすべてそこに捕えてしまった。幸い難を逃れた、洪水の両岸または水流が届かないほど後方にいた機兵は恐れる事無く進軍していく。しかし進撃可能な残機は一気に三分の二ほどになっていた。


「なるほど、厄介な組み合わせだ。全域を浸水させて凍結させられる前に決着を付けなくては侵入すらできんな。多様性、潜在力の高いディフェンスだ。勉強になる。再起不能の機体は?」

「現在氷結し行動不能ではありますが、破損による物は認められません。氷結したレギオンも融解シーケンス実行中。脱出後作戦継続可能。ただし解凍に時間がかかります」

「作戦変更。フリューゲルは対空戦闘を継続、ワイバーンを近づけるな! ただちにプリトウェンおよび戦車隊前進、レギオンの援護を行う! 城壁の固定砲台および老人型幻獣を攻撃! 老人型の攻撃は冷気以外の詳細は不明、油断するな! ガルグイユは二機のギガンテで撃破せよ!」


 進軍の指示とともに、骨組みだけの傘のような物を付けた機体がゆっくりと動き始めた。全部で七台。横一列に並んで進む。初めはそれぞれの機体の間隔は一台分程度しかなかったが、城壁に向かうにつれ末広がりに間隔を広げていく。また発進に少し遅れて骨組みの間に桃色に輝く光の膜が展開された。はじめこそ速度は遅かったが、徐々に速度が乗り始め、戦車隊を先導するように進んでいく。各機体の間隔が広がるのとともに、その光の膜も広げられていく。まさに傘を開いて行くかのようだ。

 戦車の隊列に城壁の固定砲台から光弾が命中した。しかしその光弾は最前列を進む光の壁によって遮られた。このプリトウェンと呼ばれた機体が移動する壁となり、砲撃をはじきながら戦車が迫っていく。戦車の攻撃射程に入ると、二機のプリトウェンが傘を突然閉じた。光の膜は張ったままだ。閉じられた傘の後方に並ぶ戦車が一気に砲撃を始める。しばらく撃つと再び傘が開かれ、また別のプリトウェンが傘を閉じた。そしてまたその後列の砲塔が火を噴く。マスゲームかのようなその動きには短時間でつかめるような法則性は無く、壁側からの攻撃を遮りながらも効果的に傘の後ろからの攻撃を行えた。一つ、また一つと城壁の固定砲台を壊しながら戦車隊が前進していく。

 城壁からの砲撃を抑え込んでいる本隊を回り込むようにして、右翼と左翼の両側から一機ずつの銀の巨人が現れた。両者ともその手に新型の斧型兵器を手にしている。


 水路に潜む岩山を背負った竜が雄叫びをあげ、右翼側から現れた巨人に向かって巨大な水球を放った。同時に好々爺のような幻獣が錫杖を軽く振ると、その水球はたちどころに氷塊へと変わり巨人に襲いかかる。両手で持った斧でその氷を叩き割り、すぐさま右手を柄から離して二匹の幻獣に向けて掌を向ける。赤く輝いたその掌からいくつもの熱線が発射されるが、空に向かって竜の口から放たれ滝となった水が瞬時に強固な壁へと変わり、攻撃を遮断した。



 遥か昔に空で起こった戦火の再来を思わせる、これまでに無い激闘を予感させる戦いの始まりだった。



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