おまけ挿話 「教えて! エマ先…… あれ?」
久しぶりの更新です。
途中クリスマス編も挟み、もう大分忘れ去られていると思いますのでここらで総復習させていただきたいと思います。
「はいは~い。みなさんお待ちかね。「羽」本編の更新……のま・え・に! これまでのお話と、忘れられてる世界観の復習をしましょうね! ナビゲーターは私」
「職場でもwelcome! 節操無しの色情羽ありエミュール・ビネがお送りいたしま」
「おんどれぁ! ここから初めて見た人に何て先入観植えつけとんじゃボケェ!」
「何凄んでんのよ! 実際そうじゃない! 色事見せつけられたうちの弟がどれだけパニクったかわかってんの?!」
「え?! 何言って…… え……?」
「あーあ。自覚無いの? しっかり見られてんのよ、ヤってた現場!」
「……」
「(終了)」
「(再開)そ、そう言うアンタは規格外ブラコンじゃない! 一線超えてんじゃないわよ! 近親婚は学術的にもダメだってあれほど言ってるのに!」
「こ、超えてないわよ! でかい声でなに言ってんのよ! あたしは今でもアンタと違って純潔ですよーだ!」
「でも明らかに見てる目が誘ってるんですけど~ぉ? 今か今かと待ち望んでンでしょ? 襲ってくれないかな~って。あーやだやだ。よっぽど不健全だわ!」
「ち、違! やめてよ! 聞かれたらどうするのよ!」
「あー、狼狽えてる~。やっぱり思ってんのね、やらしー!」
「やらしー、はこっちの台詞だっつーの!」
ぎゃーぎゃー(フェードアウト)
「……えっと、そう言うわけで。ここからは僕、ウィンがエマの用意してた資料をもとに皆様にご紹介をしていきたいと思います」
はい、よろしくお願いします。
「……えっと、姉さん聞こえてないと思ってるのかな……(赤面)」
―番外編―
この世界には、二種類の人間がいます。背中に羽を持って空を飛ぶことができる『羽あり』と、羽を持たない『羽なし』。羽なしの方が人口が多く、基本的に羽ありは少数です。羽ありよりも羽なしの方が体が丈夫で体力もありますが、機械を使うことになったりすると、羽ありの方がとても上手に使えます。
それからこの世界を大きく分けると二つになります。浮遊大陸の『ハイランド』と、僕達が暮らす『アース』。ハイランドは『浮き島』と呼ばれていることもあります。
アースには羽なしと羽ありの両方が生活していますが、ハイランドには羽ありしかいません。そしてアースとハイランドは全く異なる文明が作られています。残念ながら今現在ハイランドとアースは仲があまりよくありません。だけど、少しずつ変わってきているように思えます。
ハイランドを空に浮かべているのは『光子炉』と言う巨大なエネルギー発生装置だそうです。これはかつて滅亡寸前だった人類を救った奇跡の発明で、今もこの世界に無くてはならない機械だと言うことです。
世界にあるハイランドは七つ。大昔には十大陸あったと言われていますが、戦争があって七つに減ってしまいました。
そして今、原因不明の光子炉の故障によって更に三つのハイランドが墜落。現在では四大陸が残るのみになっています。
基本的にハイランドは大昔からの『旧文明時代』から受け継がれた高度科学技術が今も息づいていて、アースの生活からは想像できないほどの機械文明が発達しています。アースも工業地域だったり、ハイランドの恩恵を強く受けていたりする地方にはある程度機械がありますが、僕達の住む町みたいな農業地域では機械はあまり普及していません。機械を維持する為の技師さんがいないですし。
また、アースの機械とハイランドの機械には決定的に大きな違いがあります。
それは使っている金属。ハイランドの機械は『ミスリル銀』と言う特殊な金属でつくられています。
このミスリル銀は本当に不思議な金属で、エネルギーを蓄える性質があります。その為ミスリル製の機械はアースの機械と違ってエンジンやバッテリー(……って何だろう。今度兄さんに聞こう)が必要なく、とてもコンパクトです。
ミスリル銀を作るのには『エリクサー』と呼ばれている高純度凝縮性光子エネルギー結晶体(……やっぱりよくわかんないや)が不可欠で、現在ではこれは光子炉が無いと得られないそうです。このエリクサーは澄み渡った青色で、すっごくきれいなんだよ! ひびが入る時に響く音もとても澄んできれいだった。宝石みたい……と言っても宝石自体見たことがないんだけど。でもそのまま置いていたり、特に人が触れていたりするとそれだけでどんどん分解が進んでしまうから保存や利用にはかなり繊細な装置や仕組みが必要だそうです。
こんな風にハイランドで科学技術がすごく発達している一方、僕達アースはのどかに穏やかに、ちょっとした道具、簡単な機械を使いながら自然と共に暮らしています。でも僕達はそれでも不便を感じていないし、十分楽しく暮らしている。父なる天と母なる大地に感謝を捧げて、毎日を家族と一緒に生きています。
この世界には二種類の人間が居る、初めにそう言いましたが、僕ウィンはそのどちらでもありません。……いや、どっちなのか分からない。僕の背中には、左側にしか翼がありません。これは生まれつきで、子供の頃はそのことでよく虐められていました。でも羽ありの子供達のように体力が無いわけでもなく(もちろん、姉さんや兄さんに比べたら無いんだけど)、どっちつかずに生きてきました。だけど、ある日僕の世界が変わりました。
僕が十六歳になった年の冬の終わりの日、エマが暮らしていたハイランド『ロディニア』が、僕達の暮らしていた町のすぐ近くに墜落しました。原因は光子炉の故障。自分達の生活の場と、文明の根源だった光子炉、エリクサー、ミスリルを失った空の民は、僕達の町と交渉を進めていましたが決裂。強行手段に出ました。
ミスリルゴーレムと呼ばれる巨大なミスリル製の巨人を使って、僕達を武力制圧して強制的に支配下に置こうとしました。ミスリルゴーレムの力は絶大で、僕達、人の力では太刀打ちが出来なくて蹂躙されるしかないとあきらめていた時、同じロディニアの民だったエマがもう一体のミスリルゴーレムと共に立ち上がってくれました。でも一人ではゴーレムを上手く制御できなくて、逆に追い詰められてしまう。その時、彼女が僕を呼んだんだ。
怖かったけど、何もしないまま町が壊されて、奪われてしまうことの方が怖かった。エマの呼びかけに答えて、僕もゴーレムに乗って、エマと一緒に戦った。僕自身、こんなことができるなんて夢にも思わなかった。初めてミスリル製の機械に乗って、空を飛んだ。
そして、ゴーレムが僕達に話しかけてくる声を聞いたんだ。
戦いを止めたい。だから力を貸して。
……
僕はその声が言うとおりに動かした。そうしたら巨人同士の戦いはあっけなく終わって、浮き島と僕達が分かり合うための会議をもう一度開くことになりました。
そんなことができたのも、エマが言うには僕の精神感応率が普通の羽ありの七倍くらい高いからだそうだけど、難しい理屈のことはよくわからなかった。精神感応率と言うのはどれだけミスリルを上手く扱えるのかを数字にしたものだ、って言ってました。
そもそもどうしてそんなに精神感応率が高いんだろう。エマは僕に特殊な何かがあると言っていたけれど、一体何なのかさっぱりわからないそうです。
父さんも母さんも、祖父も祖母も、兄さんも姉さんもみんな羽なし。そんな羽なしの家系で僕一人だけが、羽を持つ。片方だけど。エマは、それがあり得ないと言ってた。どれだけ理想的に計算して高く見積もっても一万人に二人いるかいないかだそうだ。実際もっとずっと低くて、一千万に一人いたら良い方じゃないか、とも言っていた。三十万分の一以下の確率は、統計学的に(統計学って何だろう……)ゼロと言って良い、だそうだ。
和平会議のあとは、僕達とロディニアの民は特に争うこともなく平和に暮らしていました。僕は時々エマの実験や理論検証のために協力して、ついにはあきらめなくてはいけないと言われていた光子炉を修理することに成功したんだ。ロディニアの人々は遠く離れた土地に移住し、別れの時が来たけれど、エマは僕達と一緒に暮らすと言って、この町に残ってくれた。
……本当にうれしかった。
でも僕は浮かれていただけ。僕は今でもエマのことが好きだけど、僕は選んでもらえなかった。悔しくて苦しくて、僕は逃げた。そんな僕を姉さんは支えてくれて、愛してくれてる。僕も大好きだけど…… って、そんな話はあとあと!
そして今。僕達の町はまた新しい危機にさらされています。墜落したハイランド『ゴンドワナ』が、自分達の勢力圏としてアースを治めようと侵攻を始めました。彼らの武力は僕達がお伽話で聞いたことがあるような幻の生き物、『幻獣』。エマはあれは生き物じゃないって言っていたけれど、僕にはどう見ても生き物にしかみえなかった。
鷲の頭と翼や爪をもつ獅子や砂漠を広げる毒蛇、全身が炎に包まれている蜥蜴、人面鳥、一ツ目鬼、大量の水と共に現れた亀のような竜。
そのすべてが、空の民が開く本から現れる。本当に物語の世界をつなぐ扉を手にしているようだった。エマと一緒にまたゴーレムに乗って戦ったけれど、それだけでは駄目だった。狡猾な戦略と圧倒的な脅威の前に僕達は屈するしかなくて、エマの身柄を交換条件として「ゴンドワナ」は一時町から手を引いた。
……僕は諦めていた。エマが町を去るのを止められない、と。
それが許せなかった。兄さんに負けただけじゃなくて、初めから自分自身に負けていた。そんなみじめな思いはもうたくさんだ。大好きな人を取り返す。取り返して見せる。僕が出来る事、それを最大限に生かして戦う。
これから先は、僕達が前に進むための戦いだ。
……
えっと、一応これで今までの振り返りは終わりなんだけど……
姉さんとエマはどこまで行ったんだろう。
……あ、戻ってきた。まだ口ゲンカしてる。すごいなぁ。
「何よ! もうこうなったらエロキャラで行きなさいよ!」
「やめて! 言わないで! 見られたってホント? ねえ、ホントなの? ねえウィン!」
え、直接僕に聞くの?! いや…… 正直目が離せ…… いや! ごほごほっ!
「ホントよホント! ウィンが泣くくらいエゲツなかったのよ! いい加減にしてよね!」
「いやーーっ! もう帰る! もう帰る! ゴンドワナに行く!」
「もうあっちから帰ってくんな!」
……
あーあ。せっかく戻ってきたのに、また行っちゃった。
でも大丈夫、必ず連れ帰るから。僕はもう自分に負けたりしない。
それにしてもあの二人、すごく仲がいいよね。姉さんは絶対に否定するだろうけど。