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  作者: れいちぇる
クリスマス特別編
39/82

おまけ挿羽 「雪の降る日」

 クリスマス特別企画!

 ちょいと長めになりますので前後編になります。


 第三章が始まるよりも前の、冬のある日が舞台です。

 





 珍しく雪が降っていました。この町は豊かな農村ですが、農地は今すっかり枯草模様。刈入れが終わった秋の終わりごろから背の高いアワホヅツと呼ばれる草がたくさん茂っていましたが、今では風になびいてかさかさと音を立てています。


 風はすっかり冷たくて、首元までしっかり隠しておかないとせっかく厚着していても凍えてしまうような、そんな時期。暗くて厚い雲に覆われた空からふわりふわりとやわらかな冷たい綿が舞い降りてきます。


「さむっ」


 吐く息を白くして、真っ黒で長く、艶やかな髪の毛の女の人が呟きました。一体今日の朝から何回同じ言葉を口にしたでしょう。首をすくめて着ている服の襟元を締め直し、さらには毛糸のマフラーを巻きなおします。手にはミトンタイプのムートン手袋をはめ、履いているブーツの履き口にはファーがあしらわれ、防寒対策ばっちりです。


「もうそろそろ年末か~。こっちに来てから九か月。思えばあっという間だったわね」


 聞く人は居ないのですが独り言を呟きます。そうした方が感慨深いところがあるのでしょう。てくてく歩いて町中を行きます。その女の人の背中には翼がありましたが、今日は空を飛んでいませんでした。


「さ、て。今日はちょーっとおつきあいしてもらいましょかね」


 と言った女の人は、夏になるまでお世話になっていた家族の住む家のドアの前に立ち、ドアノックで三回叩きました。





―おまけ ~クリスマス特別編~―



「こんにちは、スティナさん」

「あら、エマちゃん。おひさしぶりね~。ちゃんと食べてる? 痩せてない? 女はもうちょっとふっくらしてても問題ないんだから。あなた根詰めるとずっとこもりっきりになるから心配なのよ~」


 出迎えてくれたきれいな中年の女の人が矢継ぎ早に聞いてきます。それに対して嫌な顔をすることもなくにこにこと、エマと呼ばれた黒い髪の女の人は答えていきます。


 料理はやっぱり苦手なままだということ。

 痩せてはいないから安心してほしいということ。

 最近は冬で機械が使われることが少なくなったから仕事も落ち着いているということ。


 うんうん、と頷いて、スティナさんはエマを家の中に招き入れ、暖炉のそばの席に案内しました。コートを受け取り上着掛けに吊るすと今度はお茶を煎れる準備をし始めます。

 手袋を外し、マフラーを取って、暖炉の火に緩やかに手をかざして体を温めます。防寒装備を整えていても、やっぱり寒いこの季節。だんだんと手先にまで血が通っていくのを感じてエマの顔も緩みます。


 スティナさんは台所にある薪ストーブの上で温められたケトルに入っているお湯を注いだティーポットと、湯煎して温められたミルクを入れたミルクポットを乗せた木製のトレイを運び、二つのポットをテーブルに乗せるとまた台所に戻っていきました。次に苺のジャムの入った瓶といろんな形をしたクッキーと、それから白色を基調としたカップとソーサーをさっきの木製のトレイに乗せてきました。カップとソーサーをエマの前に置くと、スティナさんがちょうどいい感じに蒸らし終わったお茶を注いでくれました。


 カップには赤い三角帽子をかぶった雪だるまの絵があしらわれ、ソーサーは緑色の葉っぱの模様が鮮やかでした。


 クッキーは星型やハート型だけでなく、モミの木のような形や、ベルのような形、ステッキのような形をした物など様々です。


 煎れてもらったお茶にミルクを適量加え、ふーっと少し息で吹いてすすります。芯から冷えていた体がぽかぽかと温まり始めるのを感じたエマは、ほぅ、っと息をつきました。


「レトロってのもいいですねー……」


 そのまま溶けていきそうな感じでぽけーっとしながらクッキーを摘まみます。初めに手にしたのは星型のクッキー。それを見つめていると、自分の目の前に置かれたカップとソーサーが目に入ります。


「なんだ、アースにもちゃんとクリスマスってあるんですね~」


 やっぱりなー、と何だかつまらなさそうな顔をしてクッキーを頬張り、お茶をすすります。もともとハイランドで育った彼女は、この町の教会が彼女の知っているようなものではなく、アース、とくにこの町ではハイランドにはない独自の宗教が広く信じられていることを感じていました。それでアースにはクリスマスの習慣がないのでは、と想像していたのです。なので今日はいきなりやってきてびっくりさせるつもりでした。だけど失敗の予感です。


「え? クリスマス? なあにそれ」


 スティナさんの返事は意外や意外。どうやらアース、とりあえずこの町にはクリスマスという行事はないようです。エマの顔がすこし輝きました。またお茶を少しすすります。


「クリスマスは、もとは大昔に世界中に広まっていた宗教の教主の誕生を祝う祭儀です。旧時代の文化も引き継いでますけど、科学礼賛のハイランドでは熱心な信者はほとんどいませんから、形だけですねー。今日はその前日なんです。『クリスマス・イブ』って呼ばれてます」

「へ~。それでその宗教ってどんな教えだったの? 私達の場合は父なる天と母なる大地への『感謝』だけど……」

「えーっと…… たしか『愛』だったかな…… それも敵味方なくあまねく全ての者への…… っておーい」


 そうなの?! となぜかスティナさんまで顔を輝かせて嬉しそうにしていました。最後まで聞かずにパタパタと駆けていき、裏の庭に向かって声をかけました。


「ウィンー、早くいらっしゃい~。お父さんの手伝いももう終わるでしょ? エマちゃん来てるわよ!」


 はーい、といい感じの返事が返ってきました。少しすると裏口から一人の男の子が入ってきました。お母さんが用意してくれた温かいお湯に浸して固く絞った手拭いを受け取って顔を拭き、仕事で汚れた手をきれいに拭きあげます。体を使う作業だったのでしょう。雪が降って風の冷たい天気でしたが、厚着していません。


「いらっしゃい、エマ。うちに来るの、ひさしぶりだね」


 さわやかな感じの男の子は片羽でした。体が冷えないようにもう一枚上着を羽織りました。左側の裾を引っ張り、背中に空いた羽通しにその片方だけの翼を通します。ボタンをしめて整えました。振り向いた時のにこやかな笑顔は、可愛いオトコノコに目がないおねーさん達を捕えて離さなさそうです。


「ウィンにはいつも頼んで工房に来てもらってるからね~。今日はちょっと二人で出かけない?」


 申し出に驚いたウィン君の顔は少し赤らんでいました。思わず母親の方を見ます。スティナさんは両手をパンっと打ち鳴らして、うんうんと笑顔で答えます。


「いいわね! そーよ、そうしなさい! お茶飲んで体を温めてる間に準備しておいてあげるから。いつも忙しいエマちゃんが来てくれたんだから、今日は楽しませてこなきゃダメよ!」


 息子の返事は完全に無視です。でもウィン君の答えは当然YESなので、待つまでもありません。ノリノリのお母さんは全力で支援の方向です。敵が帰ってくる前に何としても二人を送り出してあげなくてはいけません。スティナさんはまたパタパタと、ウィン用の防寒セットの準備を始めました。


 ウィン君はエマの隣に座ってお茶をいただいています。スティナさんがそこにカップとソーサーを用意したからです。ふーっと吹いて冷ます姿を横で見ていたエマの顔もほころびます。


「はい、ウィンこっち」


 ん? と無邪気な顔を声のする方に向けると、エマがクッキーを指でつまんでウィンに差し出してきました。


「あーんして、あーん」


 ウィン君のハートは爆発寸前です。エマが取ったクッキーの形もハート型です。わざとなのか、偶然なのかわかりません。色んな意味でウィン君はドキドキしています。



 真っ赤な顔を見られて恥ずかしい。


 ……でもうれしくて。


 だけど本や友達の話に聞く限り、こんなことをするんだったら立場が逆なんじゃないか。



 いろんなことが頭の中を駆け巡ってもう何が何だかわかりません。


 とりあえず言われたとおりに口を開いてクッキーを放り込んでもらいました。目は泳ぎまくってとてもじゃありませんが相手の方を見ることなんてできません。クッキーの味もわかりません。


「おいしいね、これ。スティナさんが焼いたの?」

「う、うん。最近あついお茶を煎れることが多いから、よく焼ぎゅ、げほげほっ!」


 からからになった喉をクッキーの粉が直撃しました。むせて大変です。お茶で流し込もうとしましたが、慌てて飲み下そうと口にしたお茶はあつあつで、舌をやけどしてしまいました。踏んだり蹴ったりです。恥ずかしくて顔を上げられません。ちらりとエマの方をみると、とても穏やかに見つめて微笑んでいました。とても恥ずかしくてたまらなかったのですが、そんな彼女の笑顔を見れてとても幸せな気分になりました。


 そんなこんなをしているうちに、スティナさんプロデュース『ウィン君お出かけセット』が準備万端整いまして、そろそろ出かけることになりました。

 コートを受け取り羽織ります。手袋はエマがしてきたミトンタイプとは異なり、指先が分かれたグローブタイプです。表は革仕立てですが、内側はふわりとした肌触りの生地でできていて、とてもあったかです。エマも自分の着てきたコートを着て、マフラーを巻きます。


 丁度その時、ノックなしに玄関の扉が開きました。スティナさんの顔が、まずいっ! といった感じに変わります。


「ただい…… あ、アンタか…… 一体どうしたのよ、久しぶりじゃない。来るなんて聞いてないわよ」


 そこにいたのは栗色の髪の毛をした女の人でした。髪の長さは肩くらいで、そんなに長いわけでもありません。美少女と言った感じの残る器量良しさんでした。スティナさんに似ています。入ってきた時は普段通りの顔つきでしたが、黒い髪をした女の人がうちの中にいるのを見た時から、若干警戒するような表情になりました。暖炉の方に目をやると、コートを着込んで手袋をはめたウィン君が立っていました。


「あっ! ウィン、どこ行くの?!」

「お、おかえり、エディ姉さん。これからエマと……」


 さっきのスティナさんと同じで最後まで物を聞きません。きっ、と彼女の方を睨みます。両目は吊り上り、白い歯をむき出しに、怒りの表情が相手を刺します。


「アンタ! ウィンを惑わすなって言ってんでしょ!」


 つかつかとエマに詰め寄るエディの首根っこをスティナさんが掴み上げ、阻止しました。じたばたと暴れますがそう簡単には離してもらえそうにありません。


「それじゃー息子さんをお借りします~」


 そう言い残してウィン君の手を取り、エマは外に出ていきました。身をよじってお母さんの手から逃れたエディは扉を乱暴に開けて二人を追いかけます。しかし時すでに遅し。黒い髪をしたきれいな女の人はその背中の翼を開き、自分よりもまだ背の低い男の子を抱えて飛び立ったところでした。



「待ちやがれ!」

「いーやでーすよー。必ず返すからそれまで我慢しな~」



 寒さをものともせず全力で走って追いかけてくるエディの姿に戦慄を覚えたエマは、追ってこれないように道路の続いていない方に向かって飛んでいきました。


「エディ姉さーん、今度は姉さんと行くから、今日はごめーん!」



 ウィン君の声が響きます。もうとても追いつけないことを悟ったエディはがっくと膝を折り、地面に手をつきうなだれていました。

 べしん、と頭に衝撃を受けます。頭をさすって体を起こすと、そこにはスティナさんが腕組みをして立っていました。その顔には文句の一つどころか十も百もありそうな感じが満々です。めっちゃ怖いです。


「お母さんはウィンを応援しています。アンタはいい加減自分の相手をみつけなさい!」





 そう言って首根っこを引っ掴むと、そのままずるずると引きずって家に帰っていきました。







「愛してると言いなさい」、「天人伝承」、「神は祟る」の安芸様からのリクエストで、クリスマスでのラブコメ仕立ての「羽」をお贈りしております。


 忙殺されて荒んだれいちぇるからの一足早めのクリスマスプレゼント。いかがでしょうか?


 みなさまのお目汚しになっていないことを祈りながら、現在後編を作成中。

 クリスマスまでにお届けできないかも…… というリアルな心配もありますが、どうぞ後編をおまちくださいませ。


それではそれでは。


れいちぇるでした。

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