第二十八羽 「銀と生き物」
若干R指定? いーや、妄想族なだけです。
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それは、少し離れた町からやってきた羽なしの夫婦から聞いた話だった。
自分たちの住む町が羽ありの一団に襲われたという。その羽あり達がやってくると、町に季節外れの大風が吹き、今からまさに伸び盛りであるはずの草木の一切が枯れ果て、どこからともなく火の手が上がり焼け野原となったという。
突然のことに為す術なく、住む場所を奪われた者たちは散り散りになって逃げ延び、彼ら夫婦はこの町に住む友人を頼りにやってきたとのことだった。
それを聞いた町長は、以前片羽の少年の兄から伝え聞いた北の都市の噂と合わせ、万が一の時のための備えをしておくようにと、家々をひとつひとつ回って住民すべてに警告していった。
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「……まったく、これは本腰を入れないといけないわね」
つなぎ姿で木製のデスクに座り、広げた図面に手直しを加えながら黒髪の羽ありが呟いた。彼女の部屋から見下ろすと、彼女が育てた若い技師達が総出で新型機械の組み上げに取りかかっていた。
「……前あなたの言っていた化け物の事も心配だけど…… ここまで害意むき出しだったら人間も人外も関係ないわ。まったく、羽ありの恥晒しね!」
不快感を包み隠さずぶちまける。彼女の部屋の中にはそれを受け止める羽なしが一人。棚に収められている機械の設計書を綴じたファイルを片手に開いて相槌を打っていた。
ページを捲り、ところどころで捲る手を止め、配置を指でなぞりながら構造の把握をしていく。一通り捲り終わって棚にファイルを戻しデスクの方に目をやると、いまだにぷんすかと苛立ったまま設計を続けている。
静かに羽ありの後ろに立った。ぽすっ、と彼女の頭に手をやる。特に声をかけることは無い。だが、幾分か羽ありの顔つきは和らいだようだった。
そのまま彼女の設計図を凝視していると、一つ何かに気が付いた。
「そこ十五度間違ってる。それだとリニアのライン配列が足りない。だが伸ばした場合も羽ありならいけるだろうが、羽なしだと多分動かない。この部分に歯車を入れて左側からの動力伝達を増やさないと不十分じゃないか?」
えっ? と聞き返し、口元に手をやり反対の手で図面をなぞる。件の箇所を見つけ、言われたとおりであることを認めると、おっと、と声を上げ若干猫背になっていた姿勢を正し、指摘された間違いに修正を加える。
「どうもまだ羽あり基準で考えちゃうのよね…… 癖って怖いわぁ」
まだ自分よりも習熟していない者からの指摘も柔軟に受け入れる。驕ることのない彼女の性格は、この町にもともとあったハイランドの民への偏見とは大きく異なり、誰にとっても親しみやすく、誰もが信頼した。それはこの羽なしにとっても例外ではない。
「にしても、あなたってすごく飲み込み早いわよね! ミスリルベースの機械の設計なんて手がけたことないって言ってたのに」
「機械の仕組みとしての基本は同じだろう? ミスリルの基本的な理論さえ教えてもらえたらこれくらいのこと誰でもできる」
「そう? 謙遜しなくたっていいって。にしても、あなたがいるから羽なし目線での設計も楽ね…… ほんと、エディの言った通り」
短髪の羽なしが聞き返すと、な、何でもないのよっ! となぜか慌てたようにはぐらかされた。顔を赤くしてまた図面に向かい合う。鼻からふっと息をつき、片羽の少年の兄は彼女の部屋のガラス窓から下階のドックを見遣った。若い技師達が協力し合って一機完成させたところだった。その光景に、逞しい羽なしが大きく二度頷く。
「大分手際もいい。あいつらももう二年もしたら俺よりもずっと役に立つかもしれないな。……それはそうと、起動はウィンに頼めばいいのか?」
「そーねぇ。一から作り上げた機体だから、その方がいいと思うわ。あの子は本当にミスリルの扱いが上手いの。初めての起動でも事故を起こさないだろうし、それに細かな動作具合なんかも一発で把握しちゃうのよね。天才よ、天才」
黒髪の羽ありは今でも事あるごとに片羽の少年を絶賛する。兄として誇らしくもあるが、男としてはいささか面白くない。彼女は若干そう言ったことに無頓着だった。しかし彼らお互いが全く異なるタイプであるため、争うことはない。もちろん弟と争って負けるはずがない、と言う無意識の優位が働いていることもあった。
「……ウィンも大したものだが、ミスリル製の機械もすごいな。全体がシステムであり、動力源か…… サイズもこんなにコンパクトにできて、無駄がない」
アースの機械には鉄や鉛、銅がよく使われていた。合金としてニッケルやクロムが使用されることも多かった。動力には蓄電池が使われており、大きく出力を要される物には当然その蓄電池も大量に使われる。よって動力源を配置するためのスペースまで大きく要求され、必然的に大きさも重量も増していく。
それに対してミスリルはそれ自体にエネルギーを蓄えるため、ゴーレムのように兵器として尋常ならざる出力を要求される物でない限りそう言ったコストは生まれない。
だが機械全体の構造を縮小化することはそんなに簡単なことではない。しかしハイランドの技術の根幹に関わっていた黒髪の羽ありは、彼らの科学の粋によってこの町にある数々の機械を小型化し、扱いやすくしていた。
今の短髪の羽なしの言葉は、まるで彼女への賛辞。鼻高々に聞いていた。だが、黒髪の羽ありの興味を最も引いたのは、そのあとの一言。
「……もうこれは生き物だな」
今の一言に黒髪の羽ありは何かにはっと気が付いたようだった。目を閉じ、穏やかに頷きながら呟いた。
「……そっか、生き物…… そんな風に考えたことなかったな。ねえ、言ったっけ? ウィンには機械の、いいえミスリルの声が聞こえてるって。うらやましいな…… ウィンくらいの桁外れな精神感応率があれば聞こえるのかな」
彼女の真意が一体何であるのか図りかねた短髪の羽なしは無言を通し、彼女が言葉を継ぐのを待った。
彼の家族は皆がそうする。無理に催促するのではなく、あえて相手が語るのを待つ。本当に伝えたいことを、その人の言葉で聞くために。そう言う気風を黒髪の羽ありはとても好み、彼らと居ることに常に安らぎを感じていた。
そんな無言のやさしさに甘え、十分に思索を巡らしたのちに口を開く。
「……いったいミスリルってなんなのかしら。これほど長い年月使われ続けているのに、全く理解されていない。
どうして人の意思に反応するのか、どうして人によってその反応に差が出るのか。仮説はいろいろあってもどれも矛盾点が必ずあって、結論は出ていない。
……でも、ミスリルは生き物って言うその認識と、ウィンの存在をあわせて考えたら、きっとその本質につながるんじゃないかしら? うー、学者魂が疼くわ~~」
深い深い思慮に満ちた声から途端に無邪気な子供のような発言に変わる。間の抜けたような感じで思わず彼も吹き出した。
「それじゃあ、これからはこの羽なし用アームズを作っていこうかしら! 蛮族に対しても備えておけば憂いはないってね!」
完成した図面をぱんっと叩いて黒髪の羽ありは立ち上がり、うーん、と大きく伸びをした。背中の羽も大きく広がる。伸ばした手足に引っ張られて衣服の繊維も伸びる。つなぎに隠された体の線が少しはっきりと浮き出ていた。力を抜いた次の瞬間、後ろからやさしく抱きしめられた。
抱きしめてきた腕にそっと手を寄せ、どこかくすぐったそうな表情をして、無言の要求に応える。
「……やっぱり、もうちょっとだけ休んでからにする。その方が、いいよね?」
下ではまだ技師達が組み上げたばかりの機体の螺子の緩みや固定不足、接続不良など、組み上げの不備がないかを入念にチェックしている。今日の作業はすべて彼らの手に任せるとしているため、声がかかるまで今しばらく時間はかかりそうだった。
部屋のカーテンを閉め、念のために外のドアノブに「起こすな!」といつものように札を下げ、扉の鍵をかける。
向き直って彼の首に両腕を回して抱きしめた。それに応じて彼女の腰と肩に手を回し、さらに強く互いの体を合わせる。もう少しでお互いの鼓動が伝わりそうだった。
やや潤んだ瞳で見上げ、穏やかな微笑みで見下ろす。
そして静かに、お互いの唇を合わせていった。
あわわわっわわわわ、書けない、これ以上書けない!
くぁwせdrftgyふじこpl;
……ウィンの惨敗です。どうしよう。大人の付き合いされたらねぇ
と、とりあえず次羽あたりからまた波乱が幕を開けます。
ある意味今回のもウィンにとっては波乱なんでしょうけど(汗)
それではそれでは。
れいちぇるでした。