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  作者: れいちぇる
お勉強会
26/82

おまけ挿羽 「詳しいね!エマ先生」

 講師の羽ありが教鞭を手にしたのを合図に、席を離れていた子供達がわらわらと自分の席に戻っていく。全員が元通りに席に着いたのをみて、黒髪の羽ありは板書をし始めた。

 ふと思い出し、振り向く。


「センセーがいないからって、勝手に遊んでちゃダメですよ。みんなには罰として宿題を出します」


 えーっ、と抗議の声が上がる。お構いなしに続けた。…なにやら口元がにやついているのが気になった。


「今度の授業までに、S あいたっ」


 名投手は今回も絶好調。如何いかがわしい単語を言わせる前に、しっと空気を切ってチョークが真っ直ぐ額を射抜く。白くなった額を擦って講師は、また後で、と言葉を濁した。




―おまけ―




「光子炉が発明される少し前、世界で初めてミスリル銀が生み出されました。精製されたミスリル銀はそれまでの科学の常識では考えられない性質を持っていたの。

 さっき復習したとおり、エネルギーを貯え、人の意思に反応してそのエネルギー放出がコントロールされる。人と生きるために生まれてきた金属、とまで言われました」


 これがねぇ、と言いたそうな顔をして羽なしの娘は教材として持ってきたミスリル製の薄い板をいじっていた。手持ち無沙汰に両端を持って曲げ伸ばししたり、団扇うちわのように扇いだりしてぽわんぽわんと音を立てて遊んでいる。

 はっ、と殺気を感じ、斜め上を見上げる。いつの間に隣に来たのか、壇上にいたはずの羽ありにひょいと取り上げられ、角で頭を小突かれた。地味に痛かったようで叩かれたところをさすっている。取り上げたミスリルの板を見せながら話を続ける。


「さらにミスリルが触媒となって、大地や大気を汚染する毒を分解することができるようになりました。エネルギーは消費されるけれどミスリル自体に変化は起きないし、ミスリルにエネルギーを与えるには人がそのミスリルと精神感応するだけでよかった。強い光もあればなおよし、ってね」

「センセー、触媒ってなに?」

「っと、そーねぇ。お手伝いしてくれる物、かな。お母さんがお料理してるとします。みんながお芋さんの皮をむいたりお皿を準備したりすると、お母さん助かるよね? でもみんなはお料理してるわけじゃありません。つまり、何かをする時、より簡単にできるようにしてあげる物のことを触媒、といいます。だから、ミスリルのおかげで毒を壊しやすくなった、という事です。いいかなー?」


 はーい、と元気な返事が返ってくる。


「ここで、とても大事なことです。世界が直面した事態を解決する救世主として期待されたミスリルだったんだけど、当時そのミスリルを精製するのに必要なエリクサーは、今では失われた非常に煩雑で難しい技術でしか作れませんでした。

 だから当然ミスリルは非常に稀少で高価。少ない量でも広い表面積を持たせ沢山作れる様にと蜂の巣みたいなハニカム構造や波状の中芯を入れた段ボール構造を取り入れて、軽いだけじゃなくてかなりの強度を持たせたりと、工夫が凝らされました。

 この頃に確立したミスリルの加工技術は今も基礎として使われています」


 難解な内容だったが、ハニカム構造や段ボール構造の図解を手早く板書し、難しいことはまた今度、とウィンクして続きに戻る。


「それでも生産量は少なく、世界規模での使用は不可能と諦められていました。

 ところが光子炉を動かしたときに出来る副産物がエリクサーと一致することが突き止められ、人類の期待を一気に実現できる、と科学者はみんな喜びました。もうホント、奇跡、運命としか言えないわよね!」


 興奮して鼻息荒く、説明に熱が入ってきた。無意識に握られ目線の高さに持ち上げられた拳が視界に入り、我を忘れかけていることに気が付いた。そのままその手を口元に運び、自分を諌める様に咳払いを一つ。


「えー… 体制も整いミスリルを大量生産できるようになったのですが…」


 羽ありの女の授業を受けている子供達はみんなしっかりと話を聞き、うんうんと頷いている。


「でもその時にはこの星は汚れすぎて、人々はもう大地で暮らしていくことが出来なくなっていました。病に倒れ、食料も不足し、どんどん減っていく人口。コロニー…、避難場所を作り備えていても、毒に満ちた大地ではとても長くは生きられない。


 大地は人を拒絶している。そう言った悲観が世界を覆っていました。


 一刻も早くたくさんミスリルを作って、お日様の光をいっぱいもらって、毒を無くさないといけない。だけどいきなり世界中をきれいにすることはいくらなんでもできなかったので、みんなで一生懸命考えました。そこで、一つの答えを出したのです。




『新しく大地をつくろう。』





 巨大な光子炉を作り、大地の一部を切り取っていくつもハイランドを作りました。

 世界中は無理だとしても、空に上がった大地くらいの限られた分なら何とかできるかもしれない。ミスリルを作りながらお日様の光をもらって、いずれは世界中を移動しながらきれいにしていこう、と。


 人は空に上がるしかなかった。ハイランドが人類の生き残る希望と言われていました。決して威張りたいからお空にハイランドを作ったってことじゃないの。そうしないと人が滅んでしまう。最後の賭けだったんです」


 はじめはその場の流れで聞いていただけの片羽の少年の姉もいつしか聞き入り、複雑な顔をしていた。


 それまで毛嫌いしていた浮き島は一体どういうものだったのか、何故存在するのか。


 町には誰一人知る者はなく、皆が言うからそれとなく自分も嫌っていた、いや知ろうとしていなかったと言うことに気付かされたからだ。


「全ての人をハイランドに乗せることは出来なかったけど、ミスリルのおかげでハイランドの環境が整い、人は生き延びることが出来ました。あとは世界全体の環境の清浄化が終わるまでハイランドと共に旅をして、いつかアースに戻る日を待てばいい。


 そうやって、長い長い歳月の旅が始まりました」





今回はちょっとマジメ。

こういうとこを見るとやっぱり「羽」はSFなのかな…と思います。


こうなったらサイエンスファンタジーってことでSFだっ!


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