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  作者: れいちぇる
お勉強会
24/82

おまけ挿羽 「おしえて!エマ先生」

 まあ、たまにはこんなのも…

 忘れ去られてる「羽」の世界をもう一度ご紹介です。

「はいはーい。みんな集まったわねー。エマお姉さんのお勉強会、はじまりまーす」

「え? あたしも受けるの?」

「はーい、今日一緒にやってきましたのは助手のエディお姉さん! 筋金入りのブラコンお姉さんよ! そこの僕! ブラコンってわかる?」

「ちょ! あんた! 子供捕まえて何教えてんのよ!」

「ブラザーコンプレックスっていってね、おと 痛い! 羽むしらないで! 年上を敬いなさい!」

「うるさいっつってんのよ!」




―おまけ―



 ハイランドを離れた黒髪の羽ありは今日は学校を訪れていた。以前から度々やってきて授業をしている。もともとこの町でも読み書きや計算、社会のことや簡単な理科を教えていた。

 暮らしに必要な最低限の内容は押さえられていたがそれほど高度な内容ではなく、機械の使用が増えるようになってきた今では特に理科の教育が必要と、彼女が名乗り出たのだ。


…ただいつもの彼女の恰好とは異なり、伊達メガネをかけ、改まった衣装を身に纏っている。


「いったぁ~。ホント暴力的よね。まあいいわ。今日はこのお姉さんに手伝ってもらって一緒に授業をしまーす。この前はどこまで話したっけ。えーっと、そうそう、みんなが使うようになったミスリルの秘密ね、覚えてる?」


 はーい、はーいと子供達が手を上げる。


「そこの元気な羽ありの女の子!」

「リューです!」

「はい、じゃあリューちゃん。ミスリルは何をエネルギーにしてたかな?」

「光です! あと、人の心!」

「うんうん、よくできました。そうですねー。ミスリルはお日様の光を受けて力を溜めます。光電効果って言うんだけど、かなり難しい体系を取るのでそれはおいておきまーす。

 あと、人の心。実際は人の心が力になるというより、人がきっかけになってミスリルに貯えられた力の放出量がコントロールされます。

 さらに、手にした人から少しずつエネルギーをもらっています。長い間、体温や体から出る弱い電気をもらっている、と考えられていたんだけど、そうじゃないことがわかりました。生体エネルギーを直接…」


 黒板につらつらと図を交えながら書いていると、助手に背中をつつかれる。振り返ってみれば子供達がきょとんとしている。先走りすぎたことに気付いて一旦打ち切り、あごに手を当てて、天井の方を見て少し考えた。


「つまり! お日様に当たって、みんなと一緒にいるとミスリルは元気になりまーす!」

「…そんなんでいいの?」

「これくらい直感的なほうが親しみやすいじゃない。理屈はあとで付いてきたらいいのよ」


 子供達の顔を見るとこれほどになく納得した、という晴れやかな顔をしている。羽なしの娘もその光景を見て肩をすくめて続きを促した。



 

「それでは今日は、ミスリルを使うようになった今みんなに是非知っていて欲しい歴史のお話をします。

 かつてまだハイランドが存在しなかった頃、人は鉄を使って機械を作り、石油や電池と言われるエネルギー源を浪費してそれらを動かしていたと言います。

 莫大なエネルギーを使って機械を利用して、今よりもはるかに巨大な文明を築き上げてきたのだけれど、その分大地や空を汚す毒を撒き散らしてしまっていた。エディ、それをスイッチオン!」

「けほっけほっ! ちょっと、何この教材! 何で煙が!」


 台車の上に乗せられた装置から響く重厚な振動音が講堂内を満たすのと同時に、その排気筒から黒煙が吹き出る。排気筒は意地悪くスイッチの真上に位置されており、何も知らない操作者は見事にその洗礼を受けていた。


「これは、かつて世界中で使われていたエンジンと言う装置の見本です。この中で燃料を爆発させて、その時に出るエネルギーでこうやって歯車を回します。確かにすっごいパワーで役に立つんだけど、こんな風に煙を出して折角きれいだった星を汚しちゃうのね」


 たまらずスイッチをオフにする。振動音が止むと、前後に動いていたシャフトや軸や車輪の回転が次第にゆっくりになっていき、やがて静止した。

 何とか機械を停止させたが、煙を防ぐには片手では不十分だったようで顔にススが付いてしまっている。鏡がないため本人は気付いていない。


 黒髪の羽ありはげらげらと腹を抱えて笑っていた。

 一方の子供達はと言うと笑うことができるはずなどなく唖然としていた。

 羽なしの女はいきなりのことで怒ることも忘れており、手の甲で額を拭うと額についていたススが若干広がった。やはり気付いていない。


羽ありの女は悪怯(わるび)れる様子もなく片手を挙げて謝罪し、続きを始めた。


「世界中で十分な農作物が収穫されなくなって、このままでは増えすぎた民を賄うことが出来ないと気が付いたときにはもう取り返しのつかないほど汚染が進んでしまっていた。それじゃあ次はこれに入って」

 羽ありから手渡されたものをおっかなびっくり広げると、それはかなり大きな透明の半球状のテントのようなものだった。何かが入っているわけでもない単純な空間だったので、少し警戒してはいたが言われたように中に入っていった。

 ぱたん、と黒髪の羽ありが入り口を閉めそのままパネルに手を当てると内部だけが僅かに暗くなる。ドームの中に閉じ込められ、えっ? と戸惑う羽なしの女を無視して講義を続ける。


「それまで無害だった昆虫が有毒になって数を増したり、住処を追われた野生動物が人を襲うようになったり、安穏とした暮らしが失われていく」

「わ、わわ! きゃー!」

「災害の規模も増す一方で、このままでは滅んでしまうだけと言う結論が出たの」

「きゃー! 水が! え? なになに?! た、たすけ きゃーっ!」


 半球の中には様々な映像が次から次へと流れていく。

 大小の虫が飛び交い、洪水が押し寄せ、青々とした木々は立ち枯れ、そして燃え盛っていった。


 当然映像だけなので身体にダメージは全く無い。いい頃合で黒髪の羽ありは、パネルにもう一度手を当ててロックを解除し入り口を開け、中で腰を抜かしていた羽なしの娘を引っ張り出した。

 息を切らせてちょっと涙目になっている。驚きすぎてやはり怒ることを忘れているようだった。出してもらった事に礼まで言っている。


 立てるようになった助手を席に着かせると講師の羽ありは再び教鞭を手にした。腕を前で組んで壇上に立ち、片手で伊達メガネの位置を直すとレンズがきらりと光を放つ。それを合図にするかのように子供達は皆また授業に集中し始めた。


「そしていよいよ、滅亡の危機に晒されていただけでなく当時全世界で使われていたエネルギー源が枯渇してしまうと言った時に、光子炉が発明されました。

 世界に満ちる光子を集めて、ほんの少しだけ外から力を加えるだけで連鎖反応が進んで莫大なエネルギーを生み出す、夢にまで見た技術。

 理論上太陽のような強力な光源さえあれば光子は尽きないから無尽蔵でクリーンなエネルギー。

これが人類の直面したエネルギー問題を一気に解決しました。

 しかもこの光子炉は一基でハイランドのエネルギー全てをまかなうことができるほどの出力があります。それじゃあ…」


 羽ありの女がちらりと見ると、羽なしの娘は身構え、顔を強張らせた。しないしない、と笑いながら講義を続ける。


「それじゃあ、質問しまーす。ミスリル、正しくはミスリル銀ですが、作る時には何が必要ですか? わかる人ー!」


 やはり子供達が元気いっぱいに手を上げる。


「はいそこの羽なしの僕! さっきも当てたよね!」

「リヒャルトだよ!」

「じゃあリヒャルト君、何かな?」

「えーっと、エリクサー!」

「はい、よくできました! で、ブラコンは?」

「え… ぶ、ぶらざーこんぷれっくす?」

「はい、せいかいひぃいいいっ!」


 突如悲鳴をあげて黒髪の羽ありが仰け反る。その背後で険しい顔をしたまま、無言で羽なしの娘が黒髪の羽ありの翼をむしる。むしる。むしりつづけた。堪らず羽ありの女は逃げ出し、講堂の外廊下に出て行ったそれを羽なしの娘が追いかけていく。



「それはもういいって言ってんでしょーがああっ!」


 外から響く大きな声に子供達はびくっと体を強張らせ、青ざめた顔を見合わせていた。





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