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  作者: れいちぇる
第二章 「空と大地の邂逅」
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第十六羽 「人々の抗い」


 広場から戻ってきた大人たちがめいめい大声で叫ぶ。それは自分の家族の名であったり、人々の避難を誘導する声であったりした。地でも天でも人があわただしく動く。まさに未曾有の出来事だった。

 男達の一部が農具や工具などを手にして道を引き返す。しかしそれらがはたしてどれほど期待に沿うのか、不安を拭うことが出来た顔をしている者は誰一人いなかった。






―16―



 破壊された矢倉を尻目に、銀の巨人が市街に迫る。その足で踏みしめるたびに地を鳴らし、跡を深く残す巨人がもう少しで町中に入ると言うところでその足を止めた。進路の先から雄叫びが聞こえる。徒党を組み、武装をした羽なしと羽ありが何人も向かってきていた。散開し、ある者は上を飛びまわり撹乱し、またある者は下から執拗に攻撃を加えた。しかし巨人はそれを一切意に介さず、再び前進を開始した。

 進路を阻むように何人かの羽ありがその眼前を飛び回る。いい加減邪魔に思ったのだろう。銀の塊がその無骨な腕を振った。威嚇程度のつもりだったのだろう。羽あり達に直接当たることはなかったが、あれほどの大きな塊があの速度でぶつかろうものならばその身は無事ではすまないことが知れた。威嚇は十分な効果を示し、飛び回っていた者たちは距離を置いた。足元を攻撃し続けていた羽なし達も、その巨大な足の下敷きにならないように離れるしかなかった。


 その中で果敢にも巨人に立ち向かう羽ありがいた。払う腕をかいくぐって後ろから頭部にしがみつき、身に着けていた頑丈なロープを首にあたる部分に巻きつけた。先端に付いた杭を利用し、解けないように縛り付ける。ロープの反対側の端を持って巨人の背面に降り立った。


「今だ! 引け!」


 立ち向かっていた者全員で綱を持ち、力の限り引く。突然後方へ力をかけられた巨人はわずかにたじろぎ、倒れぬようバランスをとった。その微かな隙に別の羽ありがまた綱をかける。時間と共に集まってきていた若く力のある町の男達がさらに引く。とうとう巨人を地に引き倒した。同時に歓声が立ち、何人かの羽なしが無骨な巨大な人型の上に上がって、腹や胸に農具や工具を振り下ろす。だがしかし町にある希少なミスリル製の道具であっても十分な傷をつけることは叶わなかった。

 横になっていた巨人が再び動き出し、体を起こし始めた。登っていた者達は慌てて離れ、他の者は先と同じようにまた綱を引いた。巨人も同じてつを踏まぬよう、上体を起こした後に腕を回し、首から背面に伸びたロープをつかんだ。つかんだ掌が赤く輝きを増したように見えた次の瞬間にはロープが焼け落ち、綱を引いていた者達は全員仰向けに倒れ、呆然としたまま悠然と立ち上がるそれを見ていた。


「みんな離れろ!」


 声のした方には銀色のラッパのような形状をした大きな道具がその口を巨人に向けて設置されていた。それは収穫の後に余った藁束を中に入れて、それを灰にするための道具だった。火種を必要とせず、もし雨が降ったとしても一度付いたその火は中の藁束が全て灰になるまで消えることがない。本来はその口は天に向いていて、穏やかに煙を立ち上らせるこの町の秋の風物詩のひとつ。

 察した人々は散り散りに射線上から離れていく。巨人とラッパを結ぶ直線上に誰一人いなくなったところで、台に乗っていた羽ありがラッパに手を当てる。暗い管の中にわずかな赤い光の筋が走った次の瞬間、砲台となったそれが向いていた方向にあった物すべてが火に包まれていた。






「…どうなった?」

 期待と不安がない交ぜになったざわめきが広がる。眼前の燃え盛る炎の中で動く物はなかった。時間と共に人々の顔に明るさが戻ってくる。これだけの火に包まれてしまえば例えあのような異形と言えども、ひとたまりもないはず。それは希望ではなく確信に近かった。ざわめきは再度歓声に変わっていった。

 胸を撫で下ろす民衆の一人が気付いた。炎の中で動く物があった。それは見間違いではなく、確かに何かがうごめいている。それを皆に知らせる言葉を発する前に、周囲に冷気が広がった。燃え盛る炎は全て治まり、銀色の人型が灰と霜の中心に立っている。言葉を失った人々は力なく立ち尽くしているだけだった。へたり込んでしまう者もいた。

「…まったく、カスかと思ったが思った以上に盾突くじゃねぇかよ。こんなところで無駄に使わせるなよな」

 巨人から声がする。巨人の胸の辺りが開いた。羽ありが二人、座っていた。

「これでわかっただろうが! アースに残ってる力じゃゴーレムに勝てねぇってよ! 諦めて条件を飲めよ、簡単だろ?」

 上の段に座っていた羽ありが立ち上がって叫ぶ。


「人間だ… 人が本当に魔物を扱うだなんて…」

「ああ… おしまいだ… 母なる大地のお怒りがまた…」

「天よ… 父なる天よ、どうか…」


 人の手には余ることを悟った者達が一人、また一人と跪いていく。彼らにはもう忌み唄の伝承にすがり、天に祈ることしか術はなかった。そんな中、また大きな地響きが立つ。

「あーあ、いらねぇって言ったのによ。まあこれでわかっただろ? 1体ですら止められなかったお前らがもう1体のゴーレムを何とかできるわけねえ。はいはい、降参しろよ?」

 先程降り立った巨人が立ち上がり、町へ向かって歩いてくる。

「…あ? よく付きだと? 何でフリューゲル送ってきてんだ?」

 再び胸部装甲を閉じた操縦席の羽ありが巨人の中で呟く。近づいてきた巨人は背中に銀の翼を背負い、彼らが乗っている物よりも一回り小型の物だった。軽量で機動性を重視した空戦可能な機体は一般人の集落を制圧するのに必要ない。いぶかしんで当然だった。だがそれ以上気に留めなかった。


 並んで立つほど十分近づいたところで翼付きが最初に降り立った巨人の背後に立った。

「どうだよ、兄弟。アースの連中、何もできやしねえ。これなら他のハイランドにだって負けたりなんか」

 意気揚々と無線通信をしている同胞のことを気にもせず、小柄な巨人は目の前の巨人を抱え、風を巻き起こして突然飛び立った。突風にあおられ、町の人々の何人かは吹き飛ばされてしまったが、目立った被害はない。


「てめぇ、何しやがる! 所属と名前を言え!」

 味方と思っていた者の思いもしない行動に動揺した操縦者が叫ぶ。

「エミュール・ビネよ。部隊所属は…どこかしら。強いて言うなら光子技術開発局ね。ゴーレムだってわたし達の開発品なんだから。こんなことに使わないでよね!」




 市街から遠く離れ、建物などが一切ない平地に翼のない巨人を放り捨てる。


「いい加減にしなさいよ! こんなこと、なんの解決にもなりやしないんだから!」


 風を操り空に立つ。それを大地から見上げる銀色の巨人。


「あいにく見下ろされるのは大嫌いなんでね。議長のお孫さんだか知らねえけどよ、アンタのしたことは議会決定事項違反で重罪だ。アースに引きずり下ろしてたっぷり反省させてやるから覚悟しろ!」





 彼方で対峙する両者の姿を、民衆は全員息をするのも忘れて見守っていた。






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