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第3話 理由と夢




 答えを聞いてクエイクは――知っていたように綻ばせた。


 「大歓迎だよ、ノウン・クレッセント君」


 仰天の事実だ。目の前に、ダンジョン攻略組の最前線であり、二強の片割れ、そして個人最強と謳われる冒険者のクエイクが、直々に勧誘してオルゼに入団することが、非現実的だった。


 普通なら入団試験を受け、オルゼのリーダーに許可を得て入団する。しかし時に、自分が欲しいと懇願するほどの才能を持った者が現れると、リーダー直々に勧誘する。


 ノウンはその稀有な状況に出くわしたのだ。しかもクエイクオルゼという善人の集まりであるオルゼに。心の底から喜悦が湧き上がる。ハイボーアの雄叫びなんて聞こえないほどに。


 「ありがとうございます!」


 ノウンは、これまで何度も裏切られた。オルゼはもちろん、1人で、この未だ踏破の叶わぬダンジョンへ足を踏み入れるために、宿や食料、金銭を搾取され、時には罵詈雑言や暴力、そんなのは当たり前の日々。


 故に感情も乏しく、流した滂沱は幾重にもなる。その果て、人に期待せず、裏切られるのが当たり前と覚悟してダンジョンに踏み入れるようになって早くも2年。やっと胸の底に陽光は届いた。


 排他とする性格の今、クエイクを受け入れたことは、きっと今後のノウンの生活を考えると、僥倖だっただろう。そしてそれはクエイクもだ。新たに仲間にするノウンは、言うように生き残る術を持つ。それは未知であり確実。味方にするには得だった。何よりも、ノウンは臑に傷持つことがない人生を送ってきたからこそ、関わりやすさは何よりも渇望に響いた。


 お互いにプラスになり、マイナスは皆無。こんなウィン・ウィンの関係を築けたのは、全冒険者、全オルゼの羨望の眼差しを受けるに値することとなるだろう。


 それを思ったか、クエイクはニヤつくと、ノウンに言う。


 「それでは戻ろうか。僕たちの住む拠点へ」


 「はい」


 クエイクは決して惻隠の情を見せなかった。いや、持たなかった。スキルがないから、剣しか使えないから、無能だからと、高をくくったように決めつけることは絶対に。


 そこにノウンは大きな信頼と希望を持った。自分を可哀想だと思わず、1つの1人の生き方として尊重してくれたと、そう解釈出来たから。


 第一階層、大洞窟。岩窟だらけの道を、慣れた足取りで進むクエイクに、ノウンも追随する。最大Lv10のハイボーアだけしか生息しない、比較的簡単で初心者が鍛錬を積む階層。全十階層の最上位階層だ。


 響く靴音に耳を傾けることもなく、淡々と闊歩するクエイクはたまに欠伸をしては、ノウンという興味の対象に問う。


 「そうだ、ノウン君。君が腰に下げた剣、それは本当に剣なのかい?僕が知る剣は、一切弧を描くことのない、直線をイメージするんだけど、君の剣はその知識を嘲笑うような見た目をしているから気になったんだ」


 「あぁー、これですか」


 鞘に触れて、違和感を持たれるのは何度目だろうと、過去の自分に問う。


 確かにノウンの剣は、刀のように若干弧を描いている。両刃であるが、剣という部類に入れるには、少し見た目が一致しないのだ。人が知る知識の中では、だが。


 「これは、俺も初めは驚嘆しました。俺の家に子々孫々継がれた、大切な剣だと聞いた時、剣にしては曲がってるな、と。ですが俺の家系(セカンドネーム)クレッセント(三日月)。それに倣って、遥か昔の先祖が製作した剣だと聞いて、三日月に製作したのはそういう意味かと、剣の定義を見ず知らず、剣として扱ってます」


 「なるほど。ということは、君の先祖様、両親は剣を使っていたのかい?」


 「いえ、剣を使ったのは俺だけです。記憶も曖昧で、もう亡くなった両親のことを思い出すことは難しいですけど、剣は製作した先祖の趣味。偶然使用可能な剣であったが故に使ってるだけです。両親は、スキルを持って生まれて、冒険者にはならなかったので、そのまま悠々自適に過ごしていたと記憶しています」


 「それは……悪いことを聞いてしまったね。申し訳ない」


 「いえ、気にしないでください」


 自分が今後慕うリーダーに頭を下げられるのは、ノウンとて良しと思わない。それに両親のことは好いていても、剣の鍛錬が過酷であり、記憶が曖昧になるほど没頭してしまったことでなくしたのだから、自業自得だ。いや、正確にはもっと大きな理由があるが。


 「これは愚問かもしれないけど、ノウン君はゼロスキルなのに、何故冒険者を?」


 ノウンも、その質問は予想していた。普通に考えて、冒険者にならずとも、生活は誰にだって出来るように世界は成り立つ。なのに、ゼロスキルという負を背負ってまで、何故ダンジョンに潜るのか、それは本人以外に分かるはずもない、最も気になることだ。


 後ろから横へ並び、聞こえやすいよう言う。


 「俺には師匠が居ました。剣を使うためには、独学では限界があるからと。その師匠から言われたんです。『無を有にすること、0を1にすること、無力を最強にすることは何よりも愉悦。そして、それを可能にする人こそ、ダンジョンを踏破する』と。俺はその時絶望に浸っていた考えを、初めて叩き起された気がしたんです。ゼロスキルだとしても、俺に出来ることはあるんだ、と」


 かつての浅い記憶を思い出し、絶対に忘れることの無い思い出を続けて語る。


 「俺はその瞬間に、ダンジョンを踏破するという夢を抱きました。無力だとしても剣を使えば高次へ歩めることを信じて。幸い、俺は感覚が鋭いらしく、成長も順調でした。そして師匠に、『ダンジョンへ行け』と言われて、俺はそれらの希望を抱いて走り出しました。今では師匠のことも薄い記憶ですが、俺がダンジョンを歩く理由はそれです」

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