表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最初の任務  作者: 内藤晴人
Ⅲ崩れ落ちたモノ
8/30

崩壊

「ミサイルでの祝砲か。どうやら我々は、初歩的なミスを犯していたようだな」

 

 自嘲を含んだスミスの声が、薄暗がりの中に響く。

 

「Mカンパニーによる経済的支配からの独立を主張しておきながら、そこの商品を使って攻撃ですか? 主義主張に一貫性がないですね」

 

 しかし、自分も試験官氏もよくもまあ冷静でいられるものだ。

 

 目の前にいる試験官氏と自分自身に半ば感心し、かつ呆れながらデイヴィットは内心で毒ついた。

 どうやら一緒にいた僅かな時間の間に、かなり試験官氏の影響を受けてしまったらしい。

 そんなデイヴィットの自己分析結果を理解したのか、スミスの顔に件の笑みが浮かんだが、それはすぐに苦痛の表情に変わる。

 あわてて近寄ろうとするデイヴィットを、スミスは視線で制止する。

 やれやれ、とばかりに吐息を漏らしてから、デイヴィットはささやくように告げた。

 

「……あと二、三分で先ほどの痛み止めが効いてくると思います。ですが、最悪、粉砕骨折の可能性もあるので……」

 

 自分の持つ医療データは初歩的な物なので、それ以上のことは判断できない。

 そうデイヴィットは付け加えた。

 それから改めて、彼は埃にまみれた自分自身とスミス、そして今現在彼らが身を隠している場所を眺めた。

 結論から言ってしまうと、彼らのいたホテルは遠距離からの砲撃を受けて崩壊した。

 砲弾が発射された方角は、紛れもなく現在テロリストの占拠下にある地区である。

 ちなみにデイヴィットの分析によると、使用されたミサイルは、惑連の常設軍や各惑星国家に標準装備されている類の物であり、その主な生産者は他でもない、『何でも屋』のMカンパニーである。

 

「それにしても、どこから仕入れてきたんでしょうね」

 

 緊迫した状況下ではあまりに間抜けな感想を、デイヴィットは口にする。

 その率直な疑問に、スミスはかすかな含み笑いで答える。

 そう来なければ。

 そんな試験官氏の反応に、デイヴィットはようやく安堵の胸をなでおろした。

 その人となりにふさわしい反応を見ることができたためである。

 ようやく痛み止めが効いてきたのだろうか。

 スミスの口から、ささやくような皮肉という名の銃弾が吐き出された。

 

「軍が安全保証期間切れで廃棄した物を横流しする輩は、必ずいる。組織腐敗の末期症状も良い所だ。……まあ、金さえ積めば、直接『形落ち』商品を買えるルートくらいはあるだろうな」

 

「まるで家電品並ですね……」

 

 やれやれ、とでも言うようにデイヴィットはコンクリートの天井を仰ぐ。

 灰色に薄汚れたそこからは、時折水がしたたり落ちており、さながら鍾乳石のように石の氷柱ツララを作っていた。

 地上から水がしみ出てきているのだろうか。

 道路の舗装状態及びライフラインの埋設状況、そして必要とされる耐震強度。

 それらすべての数値を重ね合わせ、デイヴィットはある結論を弾き出した。

 これは欠陥建築だな、と。

 が、それを口に出すこともせず、彼は注意深く周辺の状況を確認した。

 所々埃がたまっている地下駐車場には、彼ら以外動く物はない。

 

 建物全体に振動が走ったあの時、彼はとっさに部屋から飛び出していた。

 砲弾は、彼らが滞在しているすぐ上の階に着弾したらしい。

 頭上から聞こえてくる不気味な音は、次第に大きくなっていく。

 そんな中、彼は試験氏の部屋の扉を叩いた。

 ご無事ですか、と叫ぶ彼の聴覚に入ってきたのは、かすれた部屋の主の声だった。

 あわててデイヴィットはノブに手をかける。

 だが、既に歪みが生じたためか、扉は開くことを拒んだ。

 二度、三度と、デイヴィットは扉に体当たりをする。

 そしてようやく開けた視界の先には、粉塵が舞い上がる野戦場跡のような光景が広がっていた。

 

「すまないが、手を貸してくれないか?」

 

 声が聞こえた方に、デイヴィットは視線を移す。

 そこには紛れもない、スミスの姿があった。

 左手が天井から砕け落ちた瓦礫ガレキに押し潰された状態で。

 

「少佐殿……」

 

 言いながらデイヴィットは、注意深く歩み寄る。

 そして、ヒトの力では到底動かせるはずのないコンクリートの塊を、発泡スチロールのように放り投げていく。

 ようやく現れたスミスの左腕は、素人目に見ても無事とは言い難い状態だった。

 デイヴィットは、たまたま視界に入ったデスクの残骸を添え木にし、破いたシーツで骨折の応急措置をする。

 

「度々申し訳ないが、私の鞄だけでも持ち出すことはできないかな? 少々人目に触れてはならない物が入っている」

 

 それは、おそらく自分の採点に関わる物なのだろう。

 そう理解したデイヴィットは、指差された先に無造作に置かれた鞄を肩にかけると、有無を言わさず少佐を背負った。

 この建物が完全に崩壊する前に脱出するには、この方法しかない、そう判断したためである。

 部屋から駆け出すと、デイヴィットは軋み始めた廊下を非常階段へ向かい走った。

 そして、彼が階段を降りきりこの場所へ降り立った直後、ホテルは自らの重みに耐えかねて崩壊したのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ