表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最初の任務  作者: 内藤晴人
Ⅶ 作戦決行
24/30

前哨戦

 窓の外、遥か彼方街の方向には無数の光が瞬いている。

 ただしそれは無為に資源を食いつくすだけで、暖かみなど微塵にも感じさせない人工的な光である。

 そして、夜と言う名の安息を忘れた人間達は、その光の下で寸暇を惜しんで動き回っているのだろう。

 

 人間が炎を手に入れたのは、落雷や火山の噴火等々、自然災害による偶然がきっかけになったと言われている。

 突然目の前に現れたそれを、彼らは神聖なものとして崇め奉り、絶やさぬように苦心したと考えられている。

 

 その神聖な物が、今では簡単に作り出す事ができる。

 それこそまったく苦労もせずに。

 

 果たしてそれは、人間にとって『幸運』なことだったのだろうか。

 そして、人間はどこまで『自然の摂理』と呼ばれる神秘の領域に、土足で足を踏み入れるのだろう。

 

 窓に映る自らの顔に、王樹は苦笑を向ける。

 こんなことを考えている彼自身が、既に『そこ』へと片足を踏み込んでいるのだから。

 

 苦笑いを浮かべたまま、王樹は腕時計に目をやった。

 今となっては彼の唯一の生命線と言ってもいいそれに。

 機械的に時を刻み続ける文字盤を見つめながら、王樹は再び思考の波へと身を委ねた。

 

 何故自分は、『彼』を信じようと思ったのだろうか。

 初対面かつ、厳密に言えば『生命』を持たない『人形』である彼を。

 

「先生。時間切れだ。早いところ食堂へ戻ってくれ」

 

 不意に、答の出ない思考は途切れた。

 背後からかけられた無粋な声に、王樹は大げさに肩をすくめて見せる。

 黒の目出し帽を被りレーザーライフルを構えた見るからに怪しい男が、いつの間にかそこに立っていた。

 不機嫌な男を挑発するかのように、王樹は振り向くことなく、ひらひらと手を振った。

 

「了解。でも、何もそんなに急ぐ事はないんじゃない? ぱっと見た限り、命に関わる重病人はいないみたいだし」

 

 それは、不幸中の幸いと言って良かった。

 万一、動かせない状態の人間がいればこの計画は実行不可能だ。

 

「先生、あんた本当に医者かよ? 格好といい、その言い種といい……。重病人を出さないためにも、あんたらは危険を犯してここに来たんだろ?」

 

 無論、重病人の発生は敵にとっても望まないことではある。

 予想通りの男の反応に、暗がりで視界がきかぬのを良いことに王樹は薄笑いを浮かべた。

 ありがたくも、あんたらの尻拭いをするために、わざわざ出向いてやったんだよ。

 心中でそう嘲笑いながら。

 が、それを収めると澄ました表情で王樹はようやく振り向いた。

 

「失敬。じゃ、ありがたくも皆様の崇高な使命のお手伝いをさせて頂きますか。改めて」

 

 大量に毒と皮肉を含んだ言葉を吐き出してから、王樹はにっこりと笑う。

 対して男は忌々しげに舌打ちをする。

 まさにその時だった。

 

 かすかに分厚い窓が振動する。

 それは確実に大きく、そして次第にはっきりとしてくる。

 同時にばらばらという規則正しい音が近付いてきた。

 闇の中から響いてくるそれは、紛れもなくヘリコプターのプロペラ音だった。

 

「……な……っ!」

 

 想定外の出来事に、男は茫然と立ち尽くす。

 彼方からの機影が、次第にはっきりとしてくる。

 窓の外の暗闇を、オレンジ色の光が切り裂いた。

 防衛のために彼らが仕掛けていた自動発射式の地対空ミサイルが、獲物に向けて放たれたのだ。

 光の筋が放物線を描き、中空で鮮やかな光と炎の花が咲く。

 目の前で一体何が起きているのか理解できず、あんぐりと口を開けたままの男に対し、王樹は迅速に動いた。

 

 逆光の中、王樹は身を屈めると、男に向かい突進した。

 無防備なそのみぞおちに、右膝を叩きこむ。

 バランスを失った男の襟首に、組んだ両の手を力の限り振り下ろした。

 無機質な音が廊下に響くと同時に、男は床に倒れた。

 その手を離れて転がった機関銃を、王樹は肩で息をしながら拾い上げた。

 男が完全に失神しているか確認すると、王樹は銃を背負い、窓に向かい敬礼した。

 

「及ばずながら、僕も何とかするよ。エドにこれ以上無理させる訳にはいかないからね」

 

 言い残すと、王樹は闇の中へ消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ