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【1・精霊使いと自由商人】

 本作は私が現在メインで発表している「ベルダネウスの裏帳簿」シリーズの前日談です。いわばベルダネウスとルーラの始まりの物語ですが、出会いを描いたものではなく、ルーラの旅立ちともいうべき内容です。


 熊と鹿が並んで身を寄せ合っている。穏やかな顔で、まるで仲の良い夫婦のように。

 熊の隣にはキツネがいる。頭の上にはリスが寝そべっている。

 猿もいる。もちろん、みんな生きている。

 不思議な光景だった。普段なら食べる食べられる側に分かれて、お互いに生きるために争う生き物たちが、それらを忘れてひとつの所にいる。

 彼らを包む白い煙が静かに流れていく。煙ではない。湯気だ。

 動物たちは、山の中腹。生い茂った木々に隠されたように静かなこの場所に湧き出ている温泉に浸かっているのだ。

 自然に湧き出た温泉にしてはかなり広い。20匹以上の動物たちが浸かっていても、まだ半分にも満たない。

 その隅に人間が1人いた。まだ若い。成長期には入っているが、まだ終えてはいない。そんな年頃の女の子だ。ちょっと色黒で人なつっこそうな笑みを浮かべて、目の前で湯に浸かっている猿の毛繕いをしている。

 猿たちも彼女を仲間と思っているのだろうか、彼女の後ろに回り、髪の毛に手を入れては毛繕いをしている。

 しかし、やりにくそうだ。それもそうで、彼女は髪の毛を後頭部に束ねているのだが、量が多い。まるで後頭部にふたまわりは大きいもうひとつの頭がくっついているようだ。

 目の前の猿の毛を手櫛で繕いながら、彼女は気の隙間から見える風景を眺めていた。

 左右に連なる山々は、夏の緑に覆われ、眼下には彼女の住むサンクリス村が見える。そこからは1本の道が延び、山の合間に消えていく。他に道はない。その村自体が隠れ里のように、この1本の道をのぞいて外界から遮断されている。

「来た!」

 道を通って村に近づくものを目にして、彼女が毛繕いをやめた。

 馬車だ。2頭立ての馬車が1台、村への道をやってくる。

 彼女は周りの動物に「お先に」と挨拶すると、温泉から飛び出すように出る。

 近くの木の洞に入れてあったタオルを取り出す。まだろくに胸も膨らんでいない体を拭くと、タオルと一緒に入れてあった服を取り出す。野暮ったい下着を着け、ポケットの多い、色のあせた紺の服を着る。ちょっと違和感があるのは、それが男物だからだ。小物入れと大振りのナイフのついたベルトを締める。

 最後に彼女が身につけたものはちょっと変わっていた。革のベルトが4本伸びている拳大の石をはめ込んだ飾り。上の2本をタスキのように肩に回し、金具で止める。下の2本は腰に回して同じように止める。これは皮の胸当てだ。

 これで、石の飾りがちょうど胸の中央やや上の位置に固定される。

「よし」

 麻のリュックを背負い、髪を束ねていた髪留めを外す。

 頭の上で塊になっていた黒髪が解き放たれたように、静かに足下まで拡がっていく。

 そのまま脇の獣道に入る。走る。細い獣道をまるで大通りのように元気に走る。

 険しい斜面に出た。所々足場になりそうな岩が突出しており、彼女はそのひとつに足をかけ、そのまま一気に外に跳びだした!

 地面はない。彼女が落ちていく。風が彼女の服の裾をはためかせ、髪を大きくたなびかせる。まっすぐはるか下の岩肌めがけて落ちていく。

 だが、彼女は慌てることなく、胸の石に手を置く。

(お願い……)

 風が唸り、彼女を柔らかに包み込む。それに支えられるように彼女の体が空中で止まる。いや、止まっているのではなく、下からの風が彼女の落下を止めているのだ。

「それーっ!」

 彼女が飛んだ。風を体に纏って飛んだ。山を飛び、先ほどの温泉を眼下にして止まる。

 満足げに頷くと、村に向かって進む馬車めがけて飛ぶ。

 彼女は、胸につけた「精霊石」と呼ばれる石を通じて自然の精霊たちと心を通わせられる力を持っている。風の精霊の力を借りて空を飛び、水の精霊に支えてもらい川や湖の上を歩き、光の精霊に集まってもらい夜でも昼間の灯りを招き寄せる。

 人々は彼女のような人を「精霊使い」と呼ぶ。

 彼女の名前はルーラ。

 ルーラ・レミィ・エルティース。ただいま13才。


 サンクリス村への道を進む2頭立ての馬車。その御者台では、マントを羽織った1人の男が手綱を握っていた。短く刈った銀髪の艶は失せ、学者を思わせる理知的な顔立ちはどこか疲れたように見えた。ソフトな色合いの茶のスーツと相まって40過ぎに見える。軽く首に巻いたくすんだ赤のスカーフが各少ないお洒落だろうか。

 だが、手綱捌きや御者台に座る姿勢は凜として、肉体はかなり鍛えているようだ。

 彼はふと気配を感じて空を見た。青空に長い黒髪をたなびかせて飛ぶルーラが彼の目を引いた。自然と彼の口元がほころびる。

 それを見たかのように。ルーラが真っ直ぐ下りてきた。

「おーじさん!」

 馬車の屋根に飛び降りると、のぞき込むように御者台の彼の上から顔を出す。

「ベルダネウスのおじさん!」

「ルーラお嬢さん」

 2人の笑顔が交わった。

 御者台の男の名はザン・ベルダネウス。自由商人である。

 自由商人とは、特定の店舗を持たず、あちこちの村に出向いては商品を売り歩く商人達の総称である。自由商人などと格好良い名前をつけてはいるが、要は旅の行商人である。

 その性格上、大きな町で商品を仕入、小さな村で売る形になる。奥まったところにあるサンクリス村には、年に1、2度こういった自由商人が来る。

 以前は全く来なかったのだが、20年近く前に後を継いだ現村長が自由商人のまとめ役をしているサークラー教会にお願いして、来てもらうようにしたのだ。サークラーはこの世界で8大神と呼ばれている神の1人で、人々の交流を強く推奨しているために「交流神」とも呼ばれている。その性格上、自由商人たちを支援し、彼らの元締めのような立場になっている。

 もっとも、以前は年に数回は来たのだが、村にはこれと言った特産品がなく、当然、現金の流通も少ない。山で採れた作物や村人の作った工芸品との物々交換が主流のため、自由商人達も「この村に行っても旨みはない」と考えたのだろう。どの自由商人も1、2度で来なくなった。

 そんな中、サークラー教会に頼んで何とか来てもらったのがベルダネウスだった。彼が村に来るようになって、2年になる。季節ごとに来るのですでに10回以上になり、すっかり村人達と仲良くなっている。

 もちろん、この2人も顔なじみである。

「ここに来る度言わせないでください。空から出迎えるのはやめてください。それに」

 彼は鼻をひくつかせ

「また山の薬湯に入っていたんですか?」

 彼女は屋根から御者台、彼の隣に座ると、わざとらしくしなを作り

「どう、湯上がりの女性の色気」

「そういうのはもう少し胸が大きくなったらするものです」

 まったく相手にされない。彼女も頬を膨らませ

「そんなんだからおじさんはその年になってもお嫁さんをもらえないんだよ。それよりも、この前頼んだもの、持ってきてくれた」

「可愛らしくて丈夫、肌の露出が少ない服ですか。すみません。衛士隊も軍も女性用はスカートですし」

 申し訳なさそうなその顔に彼女はむくれ顔を返し

「男物ばっかりやだ。あたしだって女の子なんだから、お洒落な服着たい。でも、山の中歩けないから足とか出るのはイヤ!」

 彼女に限らず、山で生きる人達は露出度の高い服は好まない。草で皮膚を切ったり、虫に刺されたり、かぶれたりするのを防ぐためだ。

「男性用じゃダメですか? 中には男性用を改造して愛用する女性衛士や兵士もいますが」

「だったら今と変わらないでしょ!」

「まあまあ、そのうち、露出度の低い、お洒落な女性用制服がどこかで出来ますよ」

 とは言うものの、ベルダネウスは当分はないだろうと思った。

 男の立場が強いこの世界。特に戦争の多い国は軍の声が強く「女は周りの男子の目を楽しませるのも役目だ」とむしろ露出度の高い服を着せたがる。

「その代わり、これを仕入れてきました」

 渡された袋の中を見て、ルーラの顔が輝く。色とりどり、様々な装飾の施された髪飾りが入っていた。

「ありがとう!」

 言うが早いか取り出してはさっそく自分の髪に付けはじめる。

「どう!」

 笑顔で軽くポーズを付ける彼女に、ベルダネウスは苦笑い。髪飾りを全部付けた彼女の髪は、繁華街の派手な看板みたいになっている。

「付けすぎですよ」

 しかし彼女はそんなことには気にもせず、髪の飾りを手にしてはニコニコ笑っている。

「でも似合いますよ。それと、私はまだ26才です。お嫁さんがいないのをどうこう言われるにはまだ早いです」

「え?!」

 ルーラが驚いて彼の顔をまじまじとのぞき込む。前が見えないという彼の言葉も気にせず

「うそ。あたし、てっきりお父さんと同じぐらいかと思った。苦労してるんだ」

「そういう目で見ないでください」

 いかにもな哀れみの目を向ける彼女の顔を押しのけて前方の視界を確保する。

「まあまあ、いっそのこと、村の誰かをお嫁さんとして連れて帰ったら? ポラリスさんなんかおじさんに気がある感じだよ」

「私はまだ妻を持つ気はありません」

「そんなこと言っていると、あたしがお嫁に行く方が先になっちゃうよ。もう、お姉ちゃんには先越されちゃっているんだから」

 振り返り、荷台に所狭しと並んだ樽や木箱を見回す。

 それらの中身は酒であり、村では手に入らない様々な食材だったりする。他にも、村人達から頼まれたものもある。

「にぎやかになるわよ。明日の結婚式」

 明日はルーラの姉・ソウラの結婚式なのだ。


 この世界の三大国家と言われるアクティブ、スターカイン、ワークレイ。

 その3国から見て北北東に、戦を続ける東の群れる国=戦東群国と呼ばれる12の国がある。互いに戦い続けて100年以上。すでに最初戦い始めたのは何が原因かすらハッキリしなくなっている。そんなことはもはやどうでも良くなっていた。

 最初のきっかけよりも、これまでの戦いに置いて、互いに生まれた恨み、憎しみ、今更後へは引けないという意地、今まで相手と戦い、死んでいった人達を無駄死ににさせてなるものかという想い。

 様々な思いが絡み合い、今やどの国も「自分たちの勝利」以外の決着を認められなくなっていた。

 そんな日々が続き、やがて戦東群国は毎年どこかの国と戦うのが当たり前になっていた。戦東群国にとって、戦争こそが「いつもの日常」なのだ。

 その戦東群国の中、一番北に位置する国がドボックである。北と東が険しい山に塞がれた戦東群国でも小さな国。だが、大きな渓谷が国境となっているため攻めにくく、何とか他国の攻撃を退けていた。他国も、ドボックはそれほど力がない国故、無理に攻め込もうとしなかった。

 そのせいもあり、ドボックは戦東群国の中では比較的穏やかに国と言えた。国境をのぞけば兵の姿もあまりなく、100年以上戦争を続けている国だとは到底思えない。

 サンクリス村は、そのドボックの北東の端にある。小さな、とても小さな村で、公には存在していないことになっている。当然である。この村は国から逃げ出そうとした人達が作った隠れ村なのだ。


 馬車は曲がりくねった山道を進んでいく。道も悪くなり、馬車が通るのにギリギリの幅になる。

 左右は山。まるで外から見えないようにわざと曲げてあるような道を過ぎると、一気に視界が開ける。

 サンクリス村が視界いっぱいに広がる。

 周囲を山に囲まれ、田畑と牧場で土地の8割近くを占める。北側に湖と言うより大きなため池があり、そこから村を東西に分けるように小川が流れている。

 米の収穫が終わった田は実を取った稲が干されている。牧場にいるのはほとんどが羊で、時々馬の姿も見える。ここに牛はいない。

 建物は煉瓦造りがほとんどのドボックでは珍しく、みんな木材で作られている。そのせいか、村全体がどこか柔らかい空気を持っていた。

 ベルダネウスの馬車が姿を見せると、あちこちで仕事をしていた村人が手を振り、子供達が面白がって駆け寄ってくる。

 人口200人程度のこの村にとって、外から来る自由商人は、村人達にとって珍しい客人だった。馬車に寄ってきては笑顔でついてくる村人達。

 その中でも女性は目を引いた。若い女の子は、みんな髪が長い。ルーラもそうだが、みんな足下まである長髪だ。

 この村の女性は、生まれてから結婚するまで髪を切らないのだ。

「ルーラずるい、いっぱいの髪飾り」

「良いでしょーっ」

 髪を伸ばしたままのこの村の独身女性にとって、髪飾りは一番のお洒落だ。なんでこんな習慣が生まれたのか? 諸説あるが今となっては村の人達にもよくわかっていない。あえて有力な説を挙げれば

 髪にはその女性の生き様が記録される。それを切ることは自分のこれまでの人生を切り離すことである。それが行われるのは女性の人生で唯一「結婚」だけである。だからこそ、結婚式において女性は自分の髪を夫となる男子に切らせ、以後、短髪のまま過ごす。というものだ。

 この説には様々な異論があり、今、守る必要は無いだろうと薄々思ってはいても、積極的に切ろうという気は起こらず、どうしても髪を切らなければならない事情がない限り、村の女性達は今もこの風習を守っている。結婚は村にとって大きなイベントであり、その時の新郎が新婦の髪を切るところは一番盛り上がる。そのためにあえて切らずにいるという声もある。

 何しろ、この村では「お前の髪を切らせてくれ」が男からのプロポーズの言葉なのだ。

 だからこの村では既婚女性と未婚女性は一目で区別できる。なお、未亡人の女性は再婚まで胸元まで、2度目の再婚までは肩にかかるぐらいまで髪を伸ばすことになっている。ちなみに、この村では基本的に離婚と4度目の結婚は許されていない。

 若い村人達に囲まれて馬車はゆっくりと進む。

 村の一番奥。山肌を背にするようにここで一番大きな家がある。村で唯一と言って良い煉瓦造りで、他の家の5倍はある。小さいながらも東に養鶏場、西に馬小屋がある。

 地味な麻の服を着た中年女性が馬車を見て慌てて家の中に入っていく。と、解っているよと言うようなタイミングで男が出てきた。歳は40半ばぐらいか、短い黒髪に笑っているような細い目。痩せ型だが、背筋は真っ直ぐ伸びて立っているだけで規律正しさが伝わってくる。それでいて纏っている空気はどこか柔らかい。

 薄茶の服に羽織っている裾の長い薄手のベストの胸元には、ペンを持った手に鳩が止まっている図を元にした紋章が刺繍されている。この世界の8大神のひとつ、ラウネ神の紋章だ。

 ルーラが馬車から身を乗り出し、大きく手を振る。

「お父さん、ただいま!」

 そう、彼こそルーラの父親にして、サンクリス村の村長タリウスト・メイ・エルティースである。

 そしてこの家が村長の家であり、ラウネの教会でもある。

 ラウネは「人は幾多の経験から学び、知らぬことを埋めていくことによって少しずつ幸せになっていく」というのが基本の教えであり、そこから知識神とも呼ばれている。

 この世の森羅万象を記録し、人々が必要とする時にそれらを目の当たりに出来るようにと様々な記録、書物を保管しており人々からは「ラウネの教会で解らなければ仕方がない」と諦めの理由にされるほどだ。

 また知識を学び、記録していくために必要なこととして、人々に読み書き及び四則計算(足し算、引き算、かけ算、割り算)を無償で教えている。いわば授業料を取らない学校である。そのためか、ラウネ教会のある町とない町とでは貧しい者の文盲率がまるで違う。

 村長であり、ラウネ教会の司祭でもある彼は正にこの村の中心なのだ。


 馬車を家の庭に入れると、ベルダネウスは御者台から下りてエルティースに挨拶する。

「間に合って良かった。頼みはしたものの、間に合わせるのは難しいのではと思っていた」

「それを何とかするのが私たち自由商人の務めです」

 馬小屋の脇に馬車を止めると、

「みんな、荷物を下ろすのを手伝ってくれ」

 エルティースの指示で村人達が馬車から荷物を下ろしていく。酒、食材の他に岩塩や油、紙や鉛筆、インクやペンなどの文具もある。それらをリストと照らし合わせて、不足がないか確かめる。

 小屋の馬が1頭、興味ありげに身を乗り出すように彼らを見た。

「グラッシェ、知っているでしょ。ベルダネウスのおじさんよ」

 馬をなだめては頬を撫でる。グラッシェはボルグル重種の馬で去年生まれたばかりだ。とにかくやんちゃな性格で、好奇心旺盛で見慣れないものがあるとそちらにいく悪い癖がある。

 ボルグル重種は他種に比べてとにかく力が強く、この村の馬は皆この品種である。その上グラッシェは「同種の中でもかなり強い」と言われるほどで、まだ1才ながら他の馬に混じって畑を耕したり、収穫した野菜などを満載した荷車を引っ張っているルーラのお気に入りだった。

「グラッシェ、私を覚えていますか?」

 やってきたベルダネウスに、グラッシェは嬉しそうにすり寄ってくる。

「よしよし。これからは頼むぞ。商売にはお前の力が頼りだ」

 その意味がわからず、ルーラがきょとんとしていると

「聞いていないんですか。グラッシェは私がもらうことになっているんです。あれの代金として」

 馬車の積み荷を指さすのに、ルーラが驚いた。

「お父さん、本当。グラッシェをおじさんにあげるって?!」

「ああ、あれだけのものになると、今までのように村の品だけでは払いきれないからな。私事で教会に無心するわけにも行かない」

 奥まった所にあるサンクリス村では、先述したようにお金のやり取りがほとんど無い。

「そうなんだ」

 ルーラはグラッシェを見つめると、

「おじさんと一緒にいろいろなところにいけるんだ。海とかも行くの?!」

 ハッとしたように顔を向けられ、ベルダネウスは「もちろん」と頷く。

「いいなぁ」

 寂しさ半分、うらやましさ半分といった感じでグラッシェの頬を撫でた。

 そこへ金髪の女性が子供達を連れてやってきた。

「おじさん!」

 子供達が一斉にベルダネウスに駆け寄って取り囲む。

「お話ししてよ。遠くの国の話」

 服を引っ張って連れて行こうとするのを

「こらこら、ベルダネウスさんの用事が済んでからよ。今は顔を見るだけだって約束したでしょ」

 金髪女性がなだめていく。

「ごめんなさい。子供達がどうしても会いたいっていうものだから」

「かまいませんよポラリスさん。小一時間もしたら教室にお邪魔します」

 微笑みかけられ、金髪女性も同じく返す。彼女の名前はポラリス・ファー・アルタイル。24才だが、2年前に夫を亡くしており、髪も胸元まで伸ばしている。今は主に子供達を相手に読み書きを教えている。

 村の外から嫁に来たせいか、村人達にはないどこか垢抜けたところがある。

「ほらほら、ベルダネウスさんの邪魔をしては駄目よ。教室に戻りましょう」

 子供達を連れて戻る彼女が、顔を赤らめてベルダネウスに会釈した。

「やっぱり、ポラリスさん、おじさんに気があるよ。口説くんなら今のうちよ」

 ルーラがからかうように彼を肘で突っついた。


(つづく)



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