表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女群像  作者: 発育おもち
1/1

ナンバーボーイズ

恋愛なんて惑星と人工衛星がランデブーするようなものだろう、それで別々の方向へ飛んでいくんだわ

【デート】


「それで、もうお嫁さんとは復縁しないの?」「元嫁な。復縁は無理やろ。」日曜日の朝10時眠そうな顔でブラックコーヒーを飲んでいるこの甲斐性なしは遼太郎という。折角のデートなのに待ち合わせ早々重い話題を振ってしまってなんだかお互いテンションが上がらない。ねえ、今日はどこ行きたい?と聞いても歩佳の好きにしたらええやん。と素っ気ない、怒っているのではなくてこれが通常運転なのだ。「映画は?」「いいよ。なんか観たいのある?」「ないよ、遼ちゃんは?」「俺は、何でもいいよ、歩佳の観たいのにしい?」じゃあ、と敢えて遼太郎の嫌いなホラー作品を選んだ。


 遼太郎はいつも私をお姫様のように扱ってくれるのだけれど、どこかよそよそしい。ケータイを見ては誰かと連絡を取っているかパチンコ動画を見ている。まあでもこれでいいのだ、私はかまってちゃんにはなりたくない。

 映画は馬鹿みたいにつまらなかった。途中までは確かに怖かったのに何で急に主人公の回想シーンが入るかなあ、最後に主人公と彼女がスペシウム光線みたいなのを打って死神を退治するところなんてもう、馬鹿げている。「映画、つまんなかったねー。」「あれなあ、何で途中少年ジャンプみたいになるんやろなあ。」「あたしが作ったら皆殺しのバッドエンドにするのに。」「俺眠くて途中記憶ないもん。」「そっか、疲れてるもんね。ね、お昼食べよ?」


 

 私はわざとこいつに似合わなそうなおしゃれなカフェを選んだ。注文が運ばれてくる間やっぱりこいつはパチンコ動画を見ている。「遼太郎おじさん何見てんの?」「うっさいねん、ちょ誰がおっさんやねん笑、一個しか年変わらへん21やで。」「最近老けたじゃん笑」「もー中身オッサンみたいなもんやけどな、毎日クッソ社長にこき使われてんねん、あ、見てみコイツ負けよんで?ほら演出来たのに外したー」そのユーチューバーはよく外すから見ていて面白いらしい、パチンコが分からない私は何が面白いか全くわからないのだけれども遼太郎が楽しそうだからこれでいいのだ。「ねえ、私もパチンコやってみたい。」「歩佳はダメ。絶対ハマるし勝てへんよ。」いつもそう笑いながら制すのだ。彼と同じ銘柄のタバコを吸いたいと、バッグに入れていた時もそうだった。体悪くするし歩佳には似合わへん、そんなもん捨てや。と。


 私が、むうっと彼の顔を見ていると「なんやぁ、分かったごめんな、かまってほしかってんな笑」とようやくスマホから顔を上げて頭をポンポンと撫でてくれた。「ねえ、話戻るけど、昨日奥さんと駅ですれ違ったんでしょ?」「そんな気にすんなよ、今は歩佳が一番やし、あいつとはもう他人や。歩佳と出会うもうずーっと前の話や。」「そうだけど、でも娘さんもいるじゃん、3歳なんでしょ、今ならまた家族になれるって。」「歩佳、悪いけどな俺は嫁もいた。娘もおる。そこら辺の大学生よりはいろいろやらかしてきた、でもな、済んだことやねん。実際もう親権ないしなっちゃんには二度と会ったらあかん。なっちゃんの父親はおらんのや。」これ以上聞いてほしくないという遼太郎の意図を感じて私は黙らざるを得なかった。

なっちゃん、と彼は呼んだ。娘は「ナツキ」と言うそうだ。高校生パパにしてはいい名前を付けるじゃないか。娘が生まれたら月という文字を入れたかったのだそうだ。勝手にしてくれ、あたしの知らない世界だ。同年代にしてお金を稼ぐことも親になることも未経験の私は、他人の家庭の匂いを近くで嗅ぐと、我々のウチを覗くなと言われているようで苦しかった。普段バカばっかりやってるこの青年は、時々亭主とか父親といった顔をする。それがたまらなくムカつくのだ。どこかの家から幼い娘のパパを借りてきて、彼女のような顔をして隣に座っているバカは私なんじゃないかとすら思えてしまう。

 「そんな泣きそうな顔すんなや、笑ってる歩佳の方が可愛いで。あ、俺のオムライス一口食うか?好きやろ?」はい、あーん、と口元に差し出された黄色の物体を私はよく噛めずに飲み込んだ。この人はどこに向かっていくのだろうか、いや、交際なんて惑星と人工衛星がランデブーするようなものなのだろうと思いなおして、私はもう少しだけこの人のカノジョでいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ