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第六話 物語の説明はまだ続くのだ。

 会社を出てからは急いで先輩の後を追いかけていくので精いっぱいだった。オフイス街だったから、あまり詳しくないところだったから、先輩を見失ってしまえば迷子になってしまいそうだった。


 会社をでて、先輩のあとを付いていくことおよそ10分、僕らは地下鉄に乗るために地下へと潜った。



「今からどこに行くんですか?」電車を待ちながら先輩に尋ねる。先輩はスケジュール確認中のようで、スケジュール帳とスマホをずっと見比べるようにしていた。


「まずは、清掃委託サービスのT社ね。有名じゃないから知らないでしょうけど。」と僕の質問に答えると、スケジュール帳を閉じた。



 そして先輩は携帯で行先の会社を見せてくれた。


 そこは今僕らのいるT区のとなりの区だった。そこは同じようにオフィスビルやらデパートやらが立ち並ぶ混雑した都会で、ここからは地下鉄で二駅である。



「これで満足かしら。」


「ありがとうございます。」と僕がいうと先輩はスマホをバックに入れた。


「そんなことより社員証とタイムカードの説明をするから、今出せる?」


「ええ、はい。」先輩にそう言われ、僕は胸ポケットに入れていた社員証とタイムカードを取り出した。


「ちゃんと無くさなかったみたいね。」


「流石になくしませんよ。」


「どうだか、あんたは前科持ちだから信用できないわ。……それじゃあ説明するけど、1回しか言わないから、心して聞くように。」


「分かりました。」我ながらいい返事をした。これ以上先輩の機嫌を損ねると面倒くさそうだ。


「返事だけは一丁前なんだから。それじゃあ社員証からね。社員証はあんたがうちの社員である事を証明する身分証の代わりのような物。あんた、免許証とか持ってる?」


「いや、持ってないです。」


「じゃあ、この社員証は財布の中に入れとくと便利よ。身分証の代わりになるから。じゃあ次は、タイムカードの説明いくわよ。タイムカードは同じ様なのを大学とかでも使ったんじゃない? 出席カードとかあったでしょ?」


「…そうだったかも、ですね。」


「なんではっきり覚えてないのよ。あんたサボりだったわけ? そんな気弱そうな外見なのに?」


「いや、サボりって言うか…。僕、中退したんですよ。」それに授業の出席率と気弱は関係ないと思った。



僕がそういうと先輩は驚いたようだった。丸い目がさらに丸くなる。しかしそこに輝きはなくて言葉をいま選んでいるのだなと察せられた。



「ふーん。事情はそれぞれね。でも、それじゃあよくウチの会社受かったわね。別に誰でも取るような会社じゃないんだけど。それに大学行ってないなら高卒でしょ? ウチの会社高卒もとってるのね。」


「それは……、まぁ、運がよかったんじゃないですか?」



同然事実は違う。


実際は両親がどこからか見つけてきた就職先だった。大学卒業してふらふらしているやつの仕事先なんて何らかの問題しかない会社しかなかった。


そういう会社でも働き口があるだけいいのだから働けという意見は理解できたけれど、どうにも嫌でウダウダしていると両親はこの仕事先を紹介してきたのだった。

条件は他の仕事とは比較にならなかった。


両親ははっきりと言わなかったけれど、何らかのツテで用意した仕事先であることは僕でもわかった。



「……まあ、詳しくは聞かないわ。そんなことよりタイムカードの説明に戻るけど、これは会社に来たらまず初めに、扉の横のカードリーダーで読み取ること。それしなかったら、欠勤扱いになるから要注意よ。」


「扉の横ですね。」先輩の言ったことを復唱しながら、メモを取る。メモは社会人の基本らしい。


「そうよ。それと、私たちの部署と営業のカードリーダーは別だから勘違いしないようにね。カードリーダーのところに部署の名前が書いてあるからちゃんと見るのよ。」と先輩の言ったことに返事をしたけれど、一つ引っかかることがあった。


「あの、先輩。僕って営業じゃないんですか?」


「違うわよ。私みたいなのが営業に行ったって馬鹿にされるのがオチよ。だから私は営業になんていかないわ。」


「あっ、自覚はしてるんだ。」と思った。確かに先輩の外見では交渉事は不利そうに思えた。人間見た目がすべてではないだろうけど、見た目が重要な要素であることは自明だった。


「じゃあ、なんの部署なんですか?」



 驚くなよ。そんな表情で、先輩は答えた。



「心理部よ!」


「……心理部?」


先輩はひけらかすように言ったけれど、僕は意味が分からなくてうまく反応できなかった。


「そう、心理部。分かりやすく説明するなら、出張お悩み相談部ね。」


「お悩み相談部…。」


「そうよ。契約して貰って、顧客から要請があったら私たちが出向いて、相談を受けるの。」


「本当にそれで稼ぎが出るんですか?」


「さぁ?」


「さぁ? じゃないですよ。利益が上がってないなら解体されちゃうんじゃ無いですか?」


「いや、それは無いわ。」



 えらく自信満々な様子で答える先輩。理由とを尋ねると、酷すぎる答えが返ってきた。


「それはね、私のパパが社長だからよ。それにこの部署は私が作ってもらったし。」


「え? えええええ!!!」





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