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第四話 大人であることの証明(失敗)

「それで、その、なんというか自称先輩。」僕は呼び名に困ったので思ったままを口にした。


「なによ自称って。まるで私が嘘ついてるみたいじゃない。」



 自称上司の少女は、ジトーッとした目で僕を睨む。本人は不服な態度を表そうとしているんだろうけど、全然出来て無いし、むしろ可愛さが際立った、逆に。



「でも、証拠も見せて貰ってませんし…。まだ信じるわけにはいかないというか、何というか。」


「はぁ? じゃあ何? 私が社員証でも見せれば納得してくれるわけ?」


「そりゃそうですよ。あとは名詞とかですかね。」



 社員証が有れば一番良い。それじゃ無くても、名刺とか名前が書いてある書類とかでも良い。まあ、それだと信用性は下がるけど。



「分かったわよ。」



 そう言うと、少女は自身に満ちた様子でショルダーバッグに手を突っ込み、中を漁り出す。そんな様子だから僕はすぐに出てくるものと思っていたけれど、待てどもなかなか出てこない。



「確か、社員証は……。あれっ? あっ、デスクの上に忘れてきたかも。ねぇ! あんた!」と大声を出す少女。


「はい。なんですか? 大声出さなくてもいいじゃないですか……。」近くで大声を出されたものだから、頭にガンと少女特有の甲高い声が響いた。


「どーしても、社員証じゃ無いと駄目なわけ?」


「いや、別に自称先輩が僕の上司だって証明できれば何でもいいですけど。」


「そうよね! ちょっと待ちなさい!」



 言われずとも待つのだが。

 すると少女は、鞄をひっくり返して身分証明できる何かを探す。



「…うーん、やっぱり無いわ。多分デスクの上に、財布と一緒において来ちゃったのかも。……あっ、名刺があるじゃ無い! ……って駄目だ、丁度切らしたんだった。あーもう! 何で補充しとかなかったのよ! 私の馬鹿! いや! そうよ! ケータイのメール履歴を見せればいいのよ! あいつも勤務経験は無いけど、一応社内の人間なんだし、コンプラ的にも大丈夫でしょ!」



 独り言にしては、少々大きな声で話していた自称先輩は、やっと身分証となり得る物を見つけたようで嬉々とした様子で僕に携帯を見せつける。……どうも社員証や名刺は無いようだった。



「携帯ですか?」


「そうよ! メールの履歴を見れば私が社内の人間って分かるでしょ?」



 確かにまぁ、そうだろうと思ったので黙ってうなずいた。



「でしょ、でしょ! ほら、とくとご覧なさい!」



 自称先輩はスマホを見せつけてくる。スマホには小さなキーホルダーがつけられていて揺れた。それにしても、少女の手の小ささが気になる。それほど少女は小柄だった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 差出人:ハゲデブ課長 〉                     

 宛先:あなた 〉

 新入社員についての連絡

 20XX年△月○日2:30                        


 最終面接の結果、心理部配属の新人は以下の一名となりました。


 姓 柳小路やなぎこうじ

 名 幸広 (ゆきひろ)


 必要でしたらESや筆記試験の結果なども送りますので、返信お願いします。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 頭の痛くなる文面だった。



「あの、色々聞きたいことがあるんですが。」


「何。」


「上司の事をハゲデブって登録するのはどうなんですかね…?」



 小学生のような少女の感性に突っ込みたかったがこらえる。もし仮に社会人だとしたらそんなことはリスキーすぎてしないはずだと思ったが、玄関開けて出会ってからの所業を思い返すと、この少女ならやりかねない気がした。



「それはあれよ! 社内公認の呼び方って言うか、ニックネームみたいな?」と少女は言って首をかしげる。


「…先輩。可愛く言っても駄目です」


「可愛く言ってないわよ! このロリコン!」


「ロリコンじゃないです! 僕は包容力のある女性が好きなんです!」


「はぁ!? 誰が包容力の無い女よ! ぶっ殺す! 絶対に殺す!」


「誰もそこまで言ってな――」


 気がつくと、僕は自宅の玄関前で顔面に二発目の蹴りをくらっていたのだった。



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