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エピローグ――柳小路少年の目覚め(それもよくない分類の)

人間って何だろう?


そう言った人類根源に対する悩みが生じたのは、中学生の頃だったと記憶している。


当時、僕は誰もが考えることだと思っていた。


だから、何一つ恥じることなく「人とは何ぞや」と色々な人に聞き回っていた。

今になって思えば何たることか。

一生かけても消えることのない黒歴史である。


それはともかくとして、当時の柳小路少年はテレビの向こうのアイドルも、身体を張って笑いを提供してくれる芸人でさえも。

誰もが、それなりに人間って何だろうと悩んでいて、それが人生の命題だと思っていた。


だがしかし。


世の中そんなに哲学的な問いに熱心な人が多いわけではないのである。

というよりも多くの人が地に足をつけて己の人生を歩んでいく中で、そういった問題は失われていく、それが当然なのだ。


そしてなりより、いい年してなお、人について自分から語るなんて恥ずかしいことなのだ。


皆それぞれ意見を持っていて、適切な時に話のネタにでもなればいいのである。


ただ、柳小路少年、それを知らなかった。


しかし、柳小路少年は「考えること」を捨てることは出来なかった。むしろ、日を追うごとに年を重ねるごとに「妄想」は激しさを増していった。


例えば、


“自分は実は世界に一人だけの思考する生き物で、周りの人はみんな僕が生まれるときに用意されたダミーじゃないのだろうか?”


そんな口先だけでしか、証明しようのない事について、授業なんかほったらかしにしてずっと考え続けていた。だから成績はいつも悪かった。


そんな中で最も柳小路少年を虜にしたネタは、宇宙だった。


“宇宙は膨張を続けていて、やがていつかは同じ時間を掛け0になるまでしぼみ続ける”


この話を聞いたとき、自分の脳内で電流が走ったような気がした。


“世界は膨張と収縮を繰り返して、繰り返している”


つまり、


“自分が生きているこの世界が以前にも有ったのかも知れない”


そこにたどり着いたとき、僕は全ての謎を解いた気がして有頂天だった。


この発見を発信したい。そう思って、僕は脳内で燻らせていた考えを思いつくやいなや人に披露した。


最初は先生だったと思う。


やんちゃな男子が窓ガラスを割っても怒らない温厚で慈愛に満ちた先生だった。そんな先生だったから、先生は僕を褒めてくれた。


次に僕が話を持ちかけたのは当時、仲の良かったクラス委員の女の子だった。


僕は褒めて欲しい。その一心で彼女にアイデアを披露した。


その子に求めたのは、ただそれだけ、自分の素晴らしい思い付きを褒めてほしいという感情、それだけだった。


今思えば、その褒めて欲しいという感情はその子に対しての恋愛感情への裏返しだったのだろうけど、とにかく、僕は褒めて欲しかった。スゴいと言って欲しかった。いつも元気で、皆のまとめ役で、そして何より可愛くて華があったあの子に。


しかし、彼女は首を傾げて「ちょっと難しくて、何言っているのか分かんないや」と、可愛く言った。


僕はショックだった。


僕が淡い恋心を抱いていたクラス委員の子が首を傾げて「何を言っているのか分からない」と答えた事を受け入れることが出来なかった。否定された気がした。


今、思えばツッコミどころは数え切れないくらい有る。


けれど、その一度きりの一言が、僕の心を粉砕したのだった。


パズルだったらまた組み直せば良い。けれど、砕け散ったガラスを元に戻すのは、出来ないことは無いかも知れないが、労力と技術が要る難しい事だ。


しかも、その後の対応が悪かった。


裏切られた。そんな勝手な解釈をした僕は、砕け散ったガラスを元に戻す技術と、それに必要な力を伝授してくれるはずの学校に行くのを止めた。つまり不登校だった。


この時、僕にとって不幸だったのは両親が心配性でなおかつ、小金持ちだったと言う事かも知れない。柳小路少年が失意の底に落ちたと知るやいなや、両親は学校に行かないでいいと柳小路少年を泣きながら抱きしめた。


こうして、柳小路少年は青春を失ったのだった。


時に、彼が中学2年生の頃だった。


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