電光の谷 ナーニの故郷
あるよは、本当に料理上手、元気村で食べた料理は忘れられない味だ。
風呂敷にお鍋とおしゃも(しゃもじ)、包丁そして食材(お米や味噌)を包んで背負って持っているので、あるよの料理が旅の途中でも食べられる。
僕もナーニも、美味しい料理を楽しみにしているんだ
。
翔太たちは、西に向かっていた。
そこには、電光の谷と呼ばれる大きな谷があるらしい。
「電光の谷は、ナーニの生まれ故郷なんだよ」
ナーニは、電光の谷に近づくにつれて身体が震え、表情がどんどん暗くなっていく。
「どうしたの? 様子がおかしいよ」
「ここが 嫌いにゃの・・・。双子の兄さんがいて、とても仲の良い兄弟だったのにゃ・・・。
でも、ある嵐の日に、私と兄さんは谷から落ちて流されて行ったのにゃ」
太い木の枝に、必死でつかまっていたにゃ。でも、何か岩のようなものに衝突して、岸にほうりだされたにゃ。
そこを運よく通りかかった回復和尚に、私は助けられたのにゃ。
だけど・・・兄さんは、そのまま下流まで流されて行ったにゃ。そして、兄さんは虎狼狸に捕らわれてしまったにゃ。改造され、おぞましいワルサになってしまったにゃ」
谷に着くと山と山を結ぶ吊り橋が壊されていた。
巨大な落雷により山が二つに割れ、その間に水が流れ滝ができた。
この瀧の裏に洞穴があるという。
そこには、古代の科学実験装置や書物が置いてあり、化学実験室になっている。
そこで、ナーニたち、猫又一族は、いろんな事を、学んだようだ。
「まず、向こうの山に渡らないと・・・」
あるよは、赤い毛糸のあやとりをして橋を作り、それに妖術をかけた。
赤い糸は、するすると太く伸び、向こうの山の【杭】《くい》に巻きつき、吊り橋になった。
赤い吊り橋を渡って真ん中まで行くと杭の近くで、ワルサがハサミのような尻尾で吊り橋の縄を切っているのが見えた。
一本の縄が切られてしまい、吊り橋が傾いて、あるよと翔太は谷に落ちそうになる。
「翔太!、なんきん袋を開けて・・・。影絵で鷲を作って、かげろうと叫ぶのよ」
この世界では翔太もバランス感覚が良い、傾いた吊り橋の上で影絵の鷲を作り岩肌に映した。
「えっ! 影が大きな鷲になった・・・」
「さあ、乗って・・・」
あるよと翔太を乗せ影鷲は上空を舞う。
ロープを伝い、いち早く向こうの山に着いたナーニは、ワルサに飛びかかった!
「兄さん、やめてにゃ! 私よ! ナーニ!」
ワルサのナイフのような爪が身体に刺さり、ドリルの【牙】《きば》が喉元を噛む。
苦痛のな鳴き声を上げながら振り払おうとするナーニ。
「かげろう! 雨雲を引き寄せるんだ!上空を、舞え!」
あるよが叫ぶと、真っ黒な雨雲が集まり、雨が降りはじめた。
ナーニの二本の尻尾がこすれあい、毛が逆立ち黄金色に輝いた。
「いまだ!雷を終結させろ!」
なーには、電撃をワルサに直撃させた。
電撃を受けて気を失ったワルサの口の中から、黄色の雷の心魂玉が出てきた。
「ワルサの身体に、お浄め薬をつけて浄化させるわ」
あるよが白い粉をまくと、身体に毛がはえて、ナーニそっくりな猫にみるみる変わっていった。
「ワカルお兄ちゃん、元にもどった嬉しいにゃ」
いつまでも、2匹の猫はぴったり寄り添っていた。
科学に興味があった翔太は、しばらく瀧の裏の洞窟に滞在し、科学を学ぶことにした。
現在の化学より優れた科学が、古代にあったことに驚いて夢中になって学んだ。
いつか、人類の役に立つかもしれないと思ったからだ。
かげろうがあるよに耳打ちする。
「その子、姉ちゃんの探していた最愛の男の子だね」
あるよの顔が少し赤くなる。
「よけいなことは言わないで、なんきん袋に入ってなさい!」
そう、あるよとかげろうは兄弟なのだ。
ようかい?コラム
化け猫とは、日本の民間伝承や民話に登場する、猫が人間の形を借りて化けたとされる妖怪の一種です。猫が人間のように話したり、人間の形をとったりして、人々を惑わしたり、悪さをしたりするというものが多く伝えられています。
また、猫が化けて現れることで、さまざまな災害を防ぐという信仰もありました。