表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

4.少年の告白。







「あれは、いったいなんだ!」

「相手は一人なんだろう!?」


 クレイレスの屋敷に駐在する冒険者は、みな混乱の坩堝にいた。

 たった一人。そう、たった一人の冒険者に、何十人といる屈強な冒険者が倒されているのだ。しかも命を奪わず、意識だけを断つ、そんな手心を加えながら。


 ある者は逃げ出した。

 またある者は、恐怖に腰を抜かす。

 そしてまたある者は、その相手を見てこう口にした。



「狂ってやがる……!」――と。



 薄ら笑いを浮かべながら。

 されど同時に、熱のこもった眼差しを向けて。

 迫りくるこの男のことを、何と称すれば良いのだろうか。



「これが――」



 ある者は知っていた。

 呆けた顔で、相手のことをこう呼ぶのだった。



「狂、剣……!?」





「あの、本当に良いのでしょうか。ボク、なにもしてないのに……」

「キミは勇気を出して、一歩前に踏み出した。それだけで、十分すぎる」

「アルフレッドさん……!」


 ある部屋の前。

 アルフレッドは、抱えていたマオを下ろしてそう言った。

 この少年は笑われること、それをいとわない決意のもとにクエストを提出した。たったそれだけで、未来は拓かれることもあるのだ。

 狂剣と呼ばれる男は、そう思いを込めて伝えた。


「ありがとう、ございます……!」


 そして、その気持ちは通じたらしい。

 少年は胸に手を当てながら、晴れやかな笑顔を浮かべて笑った。

 しかしすぐに、その崩した相好を引き締める。ここで終わりではないのだ。そのことを、自ら意識したのだろう。

 マオは、深呼吸をしてドアをノックしようとして――。


「……あれ? アルフレッドさんは、これからどうするんですか?」


 ふと、恩人に問いかけた。

 するとその恩人は、ふっと笑ってから背を向けて言う。



「私は、キミたちに未来を示そう」



 アルフレッドは駆けだした。

 一直線に。少年少女の未来を、真の意味で切り拓くために。



◆◇◆



「貴方は、もしかして……?」

「なんだか、思っていたよりも大事になっちゃった。ごめん……」


 マオは部屋の主――エリナに、申し訳なさそうに言った。

 豪華な一室の、本当に隅っこで膝を抱えていた少女は立ち上がる。そして静かに首を左右に振って、淡い微笑みを浮かべるのだ。


「構いません。いつか、こんな日がくると思っていましたから」

「こんな、日……?」


 少年の問いかけに、目を細めたエリナは答える。


「わたしの家は、他人様に誇れないことに手を染めています。そうやって得た名声や富は、いつかきっと崩れ去る日がやってくる、ということです」

「………………」


 黙り込むマオ。

 そんな彼に向かって、少女は寂し気に言った。


「わたしは、わたし達の一族は王都を追放されるでしょう。そうなれば――」


 ――もう、貴方には会えなくなりますね。

 ようやく見つけた友達、あるいはそれ以上に心を許せる相手。彼女にとっても、マオは大きな存在だったのだろう。

 それなのに、自分たちはもう袂を分かたねばならない。

 エリナは聡い少女だった。


 だからこそ、この先に何が起こるか分かるのだ。


「だから、せめて最後に貴方にお礼が言いたかった。これを――」

「それ、は……」


 継ぎ接ぎだらけの布切れを取り出すエリナ。

 それはあの日、くしゃみをした彼女に貸したままだった物。

 くしゃくしゃになるまで握りしめていたのだろう。少女は少しだけ名残惜しそうに、マオの手にそれを握らせてこう告げた。


「お返しします。これで、わたし達は無関係……」


 なんとも、悲しい一言を。

 マオの喉が震える。こんなこと、おかしいだろう、と。

 悲しみよりも怒りが大きかった。どうして罪もないエリナが、王都を追われなければならないのか。そう思うと、いつの間にか彼は彼女の手を引いていた。


「え、どうしたのです!?」

「納得できない。ボクは、エリナと共に歩みたい!!」

「…………!!」


 そして力いっぱいに抱きしめる。

 小さな、小さな恋心。そこから始まった無理難題。

 だけど少年は弱気な見た目に反して、まだまだ貪欲だった。


「ボクだけじゃダメだ。ダメだけど、信じてほしい」


 ――きっとまだ、諦めるには早いんだ。

 小さな勇気を振り絞れば、その先にはきっと手を差し伸ばしてくれる人がいる。そのことを、マオは学んだから。

 だから、必死にそう訴えた。


「マオ……」


 そんな彼の言葉に、少女は――。



「はい、行きましょう……!」



 涙を拭いながら、そう頷くのだった。


 


面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!


もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります。


応援よろしくお願いいたします!

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ